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「これが、お前の言っていたずば抜けた冒険者だと? まだ子供ではないか。お前の目を疑うわけではないが、これは」
会ってほしい人がいると言ったイスリスに連れられて、ユウマは都市の壁内に向かった。
そこは、冒険者協会の本部だ。
待っていたのは、隻腕の男だった。
歳は、四十代半ばだろうか。右腕は、つい最近なくしたところで、慣れていないらしい。重心にかすかなブレがあるようだった。
「お前、名前は」
男は、地の底から響くような低い声で言った。
べつに威圧しているのではなく、それが彼の地声らしかった。
「ユウマ・トラン。お前は?」
「コルム・ターナーだ。好きに呼べ」
「俺はユウマと呼んでほしい」
差し出された左腕を、ユウマは握った。握手の習慣を、彼は学習していた。
それを隣で見ていたイスリスが、ちょっとショックを受けたような顔をしている。
ここへ連れてこられた理由が何なのか、ユウマはまるで理解していないが、今後は、できる限りイスリスの指示に従おうと決めていた。
イスリスとオーファの間には、かなりの信頼関係があるようだと、ラは言った。ならば、オーファに近づくために、イスリスと良好な関係を築いておいて、損はないはずだった。
三人は二階に上がった。
コルムが協会職員に、部屋を貸してほしいと言う。
慌ただしく仕事に追われていた職員はちょっと迷惑そうにしたが、文句は言わず、散らかりまくっていた一室を手早く片づけた。
そこに、三人は落ち着いた。
コルムが、口火を切った。
「この男が、四人目ということだな?」
イスリスがうなずく。
「はい。これで、あなたの言った通り、四人の教師役が集まりました。監督役を引き受けるということでいいですよね?」
コルムはそれには答えず、ユウマの方に視線を固定した。
「お前、歳は?」
ユウマは首をひねった。正確な年齢など記憶の彼方である。
五千は超えてるはずだ。六千はどうだろう。超えてるかな?
「まあ、その歳では大戦を戦ったことはあるまい?」
大戦とは、人と魔族の戦争のことだろう。
「うん。それはないな」
「シルダットの魔獣と戦ったことは?」
「それはあるよ。ランセット市に来る途中、何度か」
「何人で、どうやって戦った」
「三人かな。いや、でもどうだろう」
実際は、ほとんどラが一人で片づけていたようなものである。しかしその場にはアーリィもユウマもいたのだから、やはり三人で戦ったというべきだろうか。
あいまいな答えに、コルムは視線を強くした。
「はっきり言え。三人だけなのか。他にもいたのか」
「いや、うん。三人だ。三人で倒した」
「魔獣はどんなやつだった?」
「大抵のやつは、四つ足で、頭から棘を生やしてるやつだった。一人だけ、妙に平べったくて空を滑空してくるやつがいた」
話を聞く二人が、かすかに身を乗り出したようだった。
「飛獣型。そいつも倒したのか。三人だけで?」
「うん」
「どうやって」
「どうもこうも、普通だよ。飛びかかって来るのを叩き落して、地面でバラバラに引き裂いただけだ。体内にある魔石とかいうのを砕けば、倒せるとは聞いたけど、それがどこにあるのか外からは分からないし」
「そ、そんなことができるの?」
横からイスリスが口をはさんだ。興奮で顔を赤くしている。
逆にコルムはうさんくさそうに眉をひそめて、まるで信じていないようである。
「空から高速で飛来する飛獣型を、たった三人でどうやって叩き落した」
「こうやって」
ユウマは腕を振り回す。
すさまじく間抜けな絵面であり、コルムはますますうさんくさそうにした。イスリスも、何とも言えないような顔になって言う。
「それで本当にどうにかなるなら、苦労しないんだけどね。冒険者の死傷要因のトップにいる魔獣なんだよ、飛獣型は」
「ふーん」
「それって、本当に魔獣だったの? 鳥とかじゃなくて?」
「一緒にいたやつが、そう言ったんだ。死体が黒い靄になって消えて、中から赤い宝玉が出てきたのを見て、これはシルダットの魔獣だって」
「その宝玉は?」
「そいつに渡した」
「その人は今どこに?」
「知らん。六日前に、この都市を出て行ったみたいだけど」
もちろんユウマは、事実だけを話しているのだが、内容が内容だけに、聞く二人はほとんど信じていないようだった。
無理もない。彼らの常識で、飛獣型の魔獣は、熟練の兵が二十人がかりで、そこにリンネの騎士やレビアの戦士も加えて戦い、ようやく相手取れる魔獣なのである。
コルムがせき払いをして、イスリスをじろりと見やった。
「確かに私は、四人集めるのなら、監督役をさせてもらうとは言った。だが当然それは、その四人が使い物になればということだ。これは、どういうことだ?」
ごくりと、イスリスは唾を飲んだ。ちらりとユウマを見て、言う。
「なるはずです。彼は、強い」
「実際に見たのか?」
「いえ、それは見てませんが……だけど、体つきとか、普段のちょっとした動きとかを見れば分かります。コルムさんにも、分かるんじゃないですか?」
「ふん。どうかな……」
「私は自分の目を信じます。この歳で、これだけの肉体を作り上げたんだ。その方法を知っている彼は、絶対に必要な人材です」
コルムはため息をついた。気まずい沈黙が、部屋に満ちた。
ユウマは不満である。
イスリスとコルムの間にどんな約定があるのかは不明だが、自分の能力が疑われて、気まずい空気になっているというのは、理解できた。
「俺は、嘘はついてないぞ」
コルムは、侮蔑にも似た視線をユウマに向けた。
「嘘が悪いと言ってるのではない。お前はまだ若いし、何より冒険者だ。自分を大きく見せることも、必要な技能なのだろう。
だが今回ばかりは、自重しておけ。お前のその見栄のツケを払うのは、お前ではないのだ。お前に師事する子供たちが払うのだぞ。それを考えても、同じことが言えるのか?」
ユウマは子供みたいに口をとがらせた。
「見栄なんて張ってないっていうのに」
「まだ言うのか」
「だって本当なんだもん」
コルムは舌打ちした。
ユウマを見る目が、侮蔑を通り越して敵意すら混ざった、剣呑なものに変わる。
「では、私と立ち合えるか?」
「ん?」
「戦えるのか。この私と。今から。ここで」
イスリスが慌てて立ち上がった。
「待ってください。そういう話じゃないでしょう。第一、迷宮探索に必要な能力は、戦うことだけじゃないはずです」
コルムは、イスリスに目も向けなかった。
「最も大切な資質であるのは確かだ。それとも、私を納得させるだけの力も持たない者に、お前はお前の守るべきものを預けるのか?」
イスリスは一瞬ひるんだが、すぐまた勢いを取り戻して言った。
「ならば。その役目は、私が担うべきではないですか? 私が彼と戦って、その力をあなたに証明してみせます」
次回、大惨事




