表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

6-4

「これが、お前の言っていたずば抜けた冒険者だと? まだ子供ではないか。お前の目を疑うわけではないが、これは」


 会ってほしい人がいると言ったイスリスに連れられて、ユウマは都市の壁内に向かった。


 そこは、冒険者協会の本部だ。


 待っていたのは、隻腕の男だった。

 歳は、四十代半ばだろうか。右腕は、つい最近なくしたところで、慣れていないらしい。重心にかすかなブレがあるようだった。


「お前、名前は」


 男は、地の底から響くような低い声で言った。

 べつに威圧しているのではなく、それが彼の地声らしかった。


「ユウマ・トラン。お前は?」

「コルム・ターナーだ。好きに呼べ」

「俺はユウマと呼んでほしい」


 差し出された左腕を、ユウマは握った。握手の習慣を、彼は学習していた。

 それを隣で見ていたイスリスが、ちょっとショックを受けたような顔をしている。


 ここへ連れてこられた理由が何なのか、ユウマはまるで理解していないが、今後は、できる限りイスリスの指示に従おうと決めていた。

 イスリスとオーファの間には、かなりの信頼関係があるようだと、ラは言った。ならば、オーファに近づくために、イスリスと良好な関係を築いておいて、損はないはずだった。


 三人は二階に上がった。

 コルムが協会職員に、部屋を貸してほしいと言う。

 慌ただしく仕事に追われていた職員はちょっと迷惑そうにしたが、文句は言わず、散らかりまくっていた一室を手早く片づけた。


 そこに、三人は落ち着いた。


 コルムが、口火を切った。


「この男が、四人目ということだな?」


 イスリスがうなずく。


「はい。これで、あなたの言った通り、四人の教師役が集まりました。監督役を引き受けるということでいいですよね?」


 コルムはそれには答えず、ユウマの方に視線を固定した。


「お前、歳は?」


 ユウマは首をひねった。正確な年齢など記憶の彼方である。

 五千は超えてるはずだ。六千はどうだろう。超えてるかな?


「まあ、その歳では大戦を戦ったことはあるまい?」


 大戦とは、人と魔族の戦争のことだろう。


「うん。それはないな」

「シルダットの魔獣と戦ったことは?」

「それはあるよ。ランセット市に来る途中、何度か」

「何人で、どうやって戦った」

「三人かな。いや、でもどうだろう」


 実際は、ほとんどラが一人で片づけていたようなものである。しかしその場にはアーリィもユウマもいたのだから、やはり三人で戦ったというべきだろうか。


 あいまいな答えに、コルムは視線を強くした。


「はっきり言え。三人だけなのか。他にもいたのか」

「いや、うん。三人だ。三人で倒した」

「魔獣はどんなやつだった?」

「大抵のやつは、四つ足で、頭から棘を生やしてるやつだった。一人だけ、妙に平べったくて空を滑空してくるやつがいた」


 話を聞く二人が、かすかに身を乗り出したようだった。


「飛獣型。そいつも倒したのか。三人だけで?」

「うん」

「どうやって」

「どうもこうも、普通だよ。飛びかかって来るのを叩き落して、地面でバラバラに引き裂いただけだ。体内にある魔石とかいうのを砕けば、倒せるとは聞いたけど、それがどこにあるのか外からは分からないし」

「そ、そんなことができるの?」


 横からイスリスが口をはさんだ。興奮で顔を赤くしている。

 逆にコルムはうさんくさそうに眉をひそめて、まるで信じていないようである。


「空から高速で飛来する飛獣型を、たった三人でどうやって叩き落した」

「こうやって」


 ユウマは腕を振り回す。

 すさまじく間抜けな絵面であり、コルムはますますうさんくさそうにした。イスリスも、何とも言えないような顔になって言う。


「それで本当にどうにかなるなら、苦労しないんだけどね。冒険者の死傷要因のトップにいる魔獣なんだよ、飛獣型は」

「ふーん」

「それって、本当に魔獣だったの? 鳥とかじゃなくて?」

「一緒にいたやつが、そう言ったんだ。死体が黒い靄になって消えて、中から赤い宝玉が出てきたのを見て、これはシルダットの魔獣だって」

「その宝玉は?」

「そいつに渡した」

「その人は今どこに?」

「知らん。六日前に、この都市を出て行ったみたいだけど」


 もちろんユウマは、事実だけを話しているのだが、内容が内容だけに、聞く二人はほとんど信じていないようだった。

 無理もない。彼らの常識で、飛獣型の魔獣は、熟練の兵が二十人がかりで、そこにリンネの騎士やレビアの戦士も加えて戦い、ようやく相手取れる魔獣なのである。


 コルムがせき払いをして、イスリスをじろりと見やった。


「確かに私は、四人集めるのなら、監督役をさせてもらうとは言った。だが当然それは、その四人が使い物になればということだ。これは、どういうことだ?」


 ごくりと、イスリスは唾を飲んだ。ちらりとユウマを見て、言う。


「なるはずです。彼は、強い」

「実際に見たのか?」

「いえ、それは見てませんが……だけど、体つきとか、普段のちょっとした動きとかを見れば分かります。コルムさんにも、分かるんじゃないですか?」

「ふん。どうかな……」

「私は自分の目を信じます。この歳で、これだけの肉体を作り上げたんだ。その方法を知っている彼は、絶対に必要な人材です」


 コルムはため息をついた。気まずい沈黙が、部屋に満ちた。


 ユウマは不満である。

 イスリスとコルムの間にどんな約定があるのかは不明だが、自分の能力が疑われて、気まずい空気になっているというのは、理解できた。


「俺は、嘘はついてないぞ」


 コルムは、侮蔑にも似た視線をユウマに向けた。


「嘘が悪いと言ってるのではない。お前はまだ若いし、何より冒険者だ。自分を大きく見せることも、必要な技能なのだろう。

 だが今回ばかりは、自重しておけ。お前のその見栄のツケを払うのは、お前ではないのだ。お前に師事する子供たちが払うのだぞ。それを考えても、同じことが言えるのか?」


 ユウマは子供みたいに口をとがらせた。


「見栄なんて張ってないっていうのに」

「まだ言うのか」

「だって本当なんだもん」


 コルムは舌打ちした。

 ユウマを見る目が、侮蔑を通り越して敵意すら混ざった、剣呑なものに変わる。


「では、私と立ち合えるか?」

「ん?」

「戦えるのか。この私と。今から。ここで」


 イスリスが慌てて立ち上がった。


「待ってください。そういう話じゃないでしょう。第一、迷宮探索に必要な能力は、戦うことだけじゃないはずです」


 コルムは、イスリスに目も向けなかった。


「最も大切な資質であるのは確かだ。それとも、私を納得させるだけの力も持たない者に、お前はお前の守るべきものを預けるのか?」


 イスリスは一瞬ひるんだが、すぐまた勢いを取り戻して言った。


「ならば。その役目は、私が担うべきではないですか? 私が彼と戦って、その力をあなたに証明してみせます」

次回、大惨事

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ