表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/51

4-2

「もう一度聞くぜ。話を聞いた以上、協力してもらう。異論はねえな?」

「だから無理だって」


 男は、乱暴につばを吐き捨てた。


「余裕こきやがって。殺されはしないってか? 甘いんだよ」


 懐からナイフを取り出そうとした男の顔面をわしづかみにして、ユウマはそのまま首をへし折った。同時に左手は肋骨を粉砕して心臓を貫いている。

 男は声も出さず、自分が死んだことにも気づかず、静かに息絶えた。


 手を離すと、死体がべちゃっと地面に崩れ落ちた。


 ユウマは振り返った。

 二人の男はナイフを取り出した格好のまま、何が起きたのか分かってない様子で、ぼやっと突っ立っている。


「お前ら、こいつの仲間だよな?」


 男たちは、倒れ伏した死体とユウマを交互に三度ほど見た。片方の男が瞬間的に顔をこわばらせて、大きく息を吸い込んだ。


 人殺し!


 と、叫びかけた瞬間、その喉もとに手刀が突き刺さり、そのまま首の骨をぶち破って後ろに抜けた。

 男の悲鳴は、わずかも外にはもれなかった。

 声の代わりに、どす黒い血をとめどなく吐き出して、男は白目をむき、びくびくと体をふるわせ、倒れ伏した。


 残った一人が、尻もちをついた。

 呆然としている。

 ついさっきまで一緒にいた仲間が、今は物言わぬ死体になっている。男はガタガタふるえ始めた。足もとに流れてきた血を恐れるように、後ずさった。


 死体を見つめていた男の視線が、ユウマの方に流れた。

 見つめ合う。

 男は、涙を流しながら命乞いを始めた。


 頼む。死にたくない。俺は頼まれて来ただけだ。本当は嫌だった。あんたをどうこうするつもりもなかった。死にたくない。


「そんなこと言われても」

「いやだ。助けて、助けてください」


 ユウマは困った。これまでずいぶん長いこと、殺し殺されの生活を送ってきたが、命乞いをされたのは、これが初めてだった。


 ユウマの中の常識では、こういう場合に相手を殺さず放置するというのは、最悪の侮辱行為に当たる。

 お前など眼中にない。お前がこの先どれだけ生きようと、決して俺の障害になることはないのだ、という意思表示に他ならないからだ。


 そんなことは、なるべくしたくない。

 しかし、相手にそれを請われた場合は、どうすればいいのか。


 難しい問題だ。ユウマは熟考した。


 自分ならこういう時、どうされたいだろう。どうされるのが嫌だろう。

 相手の立場に立って考える。考えるまでもなく、放置されるのが一番傷つくだろうな、という結論が出た。

 しかしこいつは俺じゃない。


 この国には戦わない者もいるのだ。そういう人間は、殺されず見逃されても、屈辱ではないのかもしれない。だから命乞いをする。

 しかしあの瞬間、この男は明らかに俺に害意を持っていたはずで、つまりは戦う人間だった。

 ここで始末をつけてやらなければ、あの時のこいつのひたむきな思いは、どうなるんだ?


 殺してやった方がいいのか。それとも放っておくべきなのか。


 いくら考えても答えが出ないので、仕方ない。ユウマは、その辺に落ちていた棒切れを拾い上げて、地面に線を引いた。線上に棒を立て、手を離す。

 一瞬の停滞の後、棒はユウマの方に向かって傾いて倒れた。




 手際よく三人の皮を剥ぎ、骨も抜き取ったところで、彼らの肉体には何の力も宿ってないのだということを思い出して、ユウマは落ち込んだ。

 つい、いつもの癖だった。


 まあ、収穫したものは仕方ない。


 せっかくなので、記念に骨と皮を少しずつ持って帰ることにする。

 あとは、肉のかたまりをいくらかあぶって空腹を満たした。

 残りの不要な大部分は放置するつもりだったが、屍人のことを思い出したので、灰にしてうんこ溜まりに流しておいた。


 この国の人間が見れば発狂ものの、猟奇的かつ冒涜的行為を、ささっと手早くすませ、ユウマは現場を去った。

 腹もふくれて、本人は満足している。


 良いことは続くもので、宿に戻ると、アーリィが帰還していた。

 彼女はラを膝に乗せ、上等そうなブラシで丁寧に灰の毛並みを整えていた。ラはだらしなくどろっと寝そべり、うなうな言っている。


「楽しそうだな」


 ラは一気に夢心地から覚め、ぴょんと跳び上がった。


『くっさ! お前、くっさ! くっっっさ! なんて匂いをつけてくるんだよこの馬鹿! 落とせ。落として帰ってこいよ!』


 さすがのアーリィも、鼻を押さえて苦しげだ。

 外套を着こんでフードをかぶり、そのうえで窓を大きく開け放った。風が通り、匂いが拡散していく。しかし元が元なので、室内の悪臭はほとんど薄れなかった。


「くさいかな? 俺はもう何も感じないんだけど」

『くさいどころの話じゃない! 最悪だ。死んでしまえ、馬鹿!』

「そこまで言うことないだろ……」


 さすがに傷ついて、ユウマはしゅんとうなだれた。

 大きな炎を用意して中に入り、燃え盛る中でしばらくじっとすることにする。体表面についた有害物質を燃やしてしまえば、悪臭は消えるはずだ。

 水浴びならぬ炎浴びである。


 アーリィが、フードの奥から愕然たる視線を向けている。


「協会で業務を受けられたのですか? それも、どうして、このような」

「お金が無くなったんだよ」

「え、そんな」

「お前に渡されたのは、使い切っちゃったんだ」


 彼女はしばらく沈黙して、ユウマの言葉を咀嚼しているようだったが、やがてそっとラの方をうかがった。


『わずか二日でな。こいつ、馬鹿なんだ』

「あの結晶、全てですか?」

『計画性というものが、初めから存在しない男なんだ』

「……」

『お前からも、ちょっと文句を言ってやれ』

「いえ、そのような。むしろユウマ様には、ご迷惑をおかけしました。あの程度の額しか用意しなかった、私の不明でした」


 ラが、頭痛をこらえるように頭を抱えた。


『お前なあ……。あまりこいつを甘やかすなって言ってるだろ』

「そんな、恐れ多い。甘やかすなど」

『口答えするな』

「しかし……いえ、はい。申し訳ございません」


 あちらを立てればこちらが立たず。アーリィは身を縮めて、恐縮している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ