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4-1

 糞便の汲み取りは、確かに臭くて汚くてきつかった。

 糞溜めというから、ユウマはてっきり何か簡単な容器に溜められているものだと思っていたのだが、そうではなく、地下に掘られた空洞――歩き回れるほどの広さの空間に、満タンの糞便が溜められており、中に入ってそれを汲み取っていくという過酷なものだった。


 さすがに単独の仕事ではなく、三人一組でチームになるのだが、ユウマと組になった二人の男は、あわれなほど力もなく、匂いに対する耐性もなく、何の役にも立たなかった。


 まあ、そういうこともあるだろう。


 困った時にはお互い様である。

 ユウマは彼らの分まで身を粉にして、うんこ集めに獅子奮迅の活躍を見せた。


 元来凝り性で、根は真面目な男である。

 糞溜めの中を片っ端からピカピカに磨き上げていき、昼までには、三つの糞溜めからうんこを集め終えて、集積場に運び、以降はまた明日ということになった。


「お前、ガキのくせにずいぶん力があるな」


 男の一人が声をかけてきた。相当さぼったらしい。やけに身ぎれいだった。

 ユウマは、対照的に全身うんこである。


「むしろお前らが非力すぎない? そんなんじゃ、いざって時に動けないだろうに。もう少し何とかした方がいいと思うけど」

「戦争でな。足をやっちまって、痛むんだよ」


 男は卑屈な笑みを浮かべ、言った。


「治らないの?」

「ああ。まあ、命だけは助かったんだから、俺はまだましさ」

「ふーん。大変だなあ」

「お前、どっかで見たと思ってたんだ。やっと思い出したぜ。十日ほど前だよ。ほら、酒場に来ただろう?」


 ユウマは男の顔をまじまじ見つめた。

 あいにく覚えがないが、男がいつのことを言っているのかは分かった。イスリスと初めて会った、あの酒場だ。


「お前、あそこで飲んでたやつか」

「お互いに、運がなかったよなあ。たかが一回、たまたま昼間に酒を飲んでるのが見つかっただけで、あっさり切り捨てやがって。あの女じゃなきゃ、いくらでもごまかせたのに。よりによってなあ。ちくしょう」


 どうやら男は、あの一件をきっかけにセリン・ギルドから追い出されたらしかった。そしてユウマも同じ立場であると誤解しているらしい。


 この国へ来てからよく誤解されるな、と、ユウマは思った。もはやいちいち解いてゆくのも面倒なので、何も言わない。


「けど、あのギルドは本当に悪どいよ。目ぼしい仕事を全部さらっていって、あとに残るのはこんな臭くてきついのしかねえんだ。なあ、お前さあ、まだ若いのに、これからずっとこんなクソみたいなことして生きていくのか?」

「どうだろう?」

「俺はごめんだ。人のクソをすすって生きていくなんて。だからな、お前だから教えてやるんだけど、いい儲け話があるんだ」

「はあ」

「お手軽で、安全で、しかも腹いせにもなる。どうだ。やるか?」

「どんな話?」


 男の話とは要するに、セリン・ギルドの構成員のうち、抵抗する力を持たない子供を何人か誘拐してきて、ギルドに身代金を迫ろうというものだった。


「知ってるだろ。あのギルドは、俺たちの稼ぎを抜いて、どこぞから拾ってきたガキを育てて仕込んで、正義面してやがるのさ。本当なら、野垂れ死にするしかないガキが、俺たちの金で育てられておいて、何の感謝もしやがらねえ。見下してやがる。戦争も知らねえ、何の苦労もしてないガキがだぜ?」

「はあ」

「お前もその年だ。少しは戦争のことを覚えてるだろう。ひどいもんだったよな。俺の時代はもっとさ。頼るものなんて何もなかった。全部自分でやって、自分の力だけで、やっとの思いで生き延びてきたんだ。それが、あいつらは。なあ、許せるか?」

「はあ」

「これまで貸してきたのを、ちょっと返してもらうだけさ。仲間もいるし、実はこの仕事にはどでかいバックもついてるんだ。どうだ?」

「そうだな……」


 もちろんユウマには、誘拐が悪いことであるという意識はない。というか、そもそも彼には善悪の概念がない。彼に存在するのは、快不快の基準のみである。

 そして彼にとって、子供を誘拐して金品を要求するのは、べつに不快なことではない。


 だから、日程さえ合うなら参加してもよかった。

 勇者イスリスがこの苦難にどう立ち向かうのか、見ておきたい気持ちもあった。


「それは、いつやるんだ?」

「はっきり決まっちゃいないが、四日後って話だ」


 ユウマはがっかりした。

 駄目だ。その日は、うんこ回収の最終日である。時間を絞れば可能かもしれないが、そこまでして引き受けたいことでもない。


「そういうわけで、残念だけど俺はいいよ」

「おい、冗談言ってんじゃねえぞ。こんな腐った仕事が何だってんだよ。こんな機会はめったにないんだぞ」

「そうは言っても、一度決めたことはちゃんとやりたいんだ」

「おいおい。人のクソをいくら集めたって、そんな人生に意味はあるのかよ。それより、一つ大きな仕事をやって、こんな町は出ちまえばいいだろ。首都へ行って、一旗揚げることだってできるぜ?」

「べつにいい。うんこ集めも、まあ楽しかったし」

「はあ? てめえ」


 男の目の中に、狂暴な光が灯った。


「そうか、そういうことか。初めから、受けるつもりなんてなかったわけだ。ちくしょう、どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって。これだけ話を聞いておいて、やりません、さようならって通用すると思ったのかよ?」

「通用しないの?」


 糞便の集積場は、都市からかなり離れたところにあり、人気はないはずだった。

 しかし、ユウマの背後から男が二人、姿を現した。似たような格好のうらぶれた男である。ユウマを囲むように三人の男が立ちふさがった。

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