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3-6

 さすがに、長年連れ添った妹を食べることには抵抗がある。

 仕方ない。空きっ腹をぐっとこらえて、ユウマは冒険者協会へ向かった。


 クドの流儀で生きていけないのなら、この地の流儀に従うしかない。


 先日の受付の女、ミリシアが、ユウマを覚えていたらしい。業務用の笑顔で、セリン・ギルドへのご加入でしょうか? と、言った。


「すでに冒険者として登録されている方には、支度金の配給はされませんが、加入自体はいつでも可能ですよ」

「いや、いい。加入はしない」


 セリン・ギルドには、おそらく例の変質者、イスリス・ローズがいるだろう。迷宮探索のために仲間にならないかと、誘いをかけてきた女だ。


 彼女からは、誘いを受ける気になったらいつでも来てくれと言われているのだが、再び会うのを、ラが本気で嫌がったのだ。

 どうやら、懐の中で迫ってくる変質者の手付きが、よっぽど怖かったらしい。


 ユウマとしても、会う必要のない女だ。近づくつもりはなかった。


「今日は、お金が欲しくて来たんだ」

「はあ、それは。ですが、どのギルドにも加入しておられませんと、紹介できる仕事はあまり多くありませんよ?」

「ここは、冒険者に仕事を紹介するところじゃないの?」

「それはそうなんですが……」


 確かに、もともと冒険者協会は、そうして冒険者個人を相手にするものだったらしい。

 だが冒険者たちによって自発的にギルドが設立されてゆくに従い、協会が個人を相手にすることはほとんどなくなったのだと、ミリシアは言った。

 今や、ギルドを通さない仕事は、危険で割に合わない汚れ仕事ばかりである。


『いい仕事は、都市への貢献度の高い集団に振っているということだろう。実績も信用もないお前に任せられることなど、多くないんだ』


 そういうこともあるのか。ユウマは納得した。それに、多くないということは、少なくとも存在はするということだ。


「俺でもできる仕事で、半日で5000デルほどもらえるのはある?」


 ユウマは、お気軽に聞いた。


「あるわけないでしょう」


 さすがの受付嬢が、業務用の笑顔を消して真顔になった。何言ってんだ、こいつは。という目をしている。


 5000デルとは、彼がアーリィに渡されたお小遣いと同額であり、国家の中級神官の平均年収に相当する。

 とんでもなくふざけた要求である。ユウマの金銭感覚は、アーリィの甘やかしと賭博場の鬼畜仕様によって、完全にぶっ壊れていた。


「なら、ええと、ここの一番の目的は、《毒の迷宮》の制覇だったっけ? 制覇したら、いくらもらえるんだろう? 一日か二日で終わるかな?」


 ミリシアは、呆れたようにため息をついた。きょろきょろ辺りをうかがって、ユウマの方へ吐息がかかる距離まで顔を近づけてきて、言った。


「あのね、ユウマ君。本当は、私の立場から一冒険者にこんなことは言うべきじゃないんだけど、だけど言うね。

 ここで紹介してる仕事は、危険じゃないのもあるけど、危険な仕事は本当に危険なの。

 東部危険域探索とか迷宮探索とか、そんな仕事を受けるのは、神様の祝福を持ってる人とか、大戦で何十年も活躍してきたような歴戦の人たちで、それでも時には大怪我したり死んじゃったりするんだよ」

「はあ」

「ユウマ君も、剣を持って冒険者になりたいっていうんだから、きっと自分の力に自信があるんだと思うよ? 村では一番だったのかもしれない。

 だけど、本当に一人でやっていくつもりなら、その力が実際どれくらいなのか、確かめてからにしなくちゃ。人って、死んじゃったらそこまでなんだから。ね?」

「つまり、危険な探索をしている歴戦の冒険者というのを、二、三人ぶっ殺して確かめろってことかな?」

「もう! 今は、真面目なお話してるんだよ!」


 思わず声を大きくしてしまい、集まる怪訝な視線に、彼女はあわてて愛想笑いで何でもないと返し、再び声をひそめて言った。


「君はまず、自分と同じような境遇の人たちと知り合うべきだよ。

 あなたくらいの年の男の子は、セリン・ギルドにはたくさんいる。そういう子たちと知り合って、仲間になって、一緒に進んでいけば、いつかきっと誰にも負けない立派な冒険者になれるよ。

 だから、まずは安全な仕事から始めるために、セリン・ギルドに入ろう?」

「いや、いいや」

「どうして? 同じ境遇の人と知り合うのって、すごく大切なことだよ?」

「俺と同じやつは、たぶんいない」

「んもう! そんなことないってば! それに、昔と違って今は、どのギルドにも入ってない冒険者なんて、何か悪いことしてセリン・ギルドにいられなくなった人くらいなんだから。そういう目で見られるの、嫌でしょう?」


 できの悪い弟を諭すように、ミリシアは辛抱強く続けた。

 彼女が善意の人であるのは、ユウマにも何となく分かった。実際には全く余計なお世話なのだが、人の善意をありがたいと思う気持ちは、彼にも存在する。


 ありがたいといって、それを受けるかどうかは別の話である。


 結局ユウマは、どこのギルドにも所属せず、何の実績もないチンピラでも受けられる仕事をやることになった。

 明日より五日間、日の出前から壁外の町を回って、各区画に溜められた糞便を回収するのである。


 重いし臭いし汚いし、あまり続けると病気になる人も多いし、他に選択肢があるなら、ぜひやめた方がいいと何度も言われたが、そこまで言われると、どれほどきついのか気にならないこともない。


 それに、うんこにまみれたことなら、ユウマは何度も経験がある。

 確かに臭いし息苦しいし目が痛くなるが、餓死よりは全然苦しくない。

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