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3-2

 翌日、懐にラを忍ばせたユウマは、冒険者協会の本部に足を運んだ。

 アーリィはいない。今回の仕事について報告しなければならないことがいるので、数日の間留守にすると言って、朝早く姿を消したのだ。


 冒険者協会の本部は、都市の壁の内、東側の区画にあった。

 周囲から少し離して建てられた二階建ての立派な建物である。清潔で静かなたたずまいだった。


 中に入ると、一階は二つのスペースに区切られており、向かって右側のスペースにはカウンターが設置されており、窓口が五つあった。

 その一つにいる、二十歳くらいの女が、近づいてくるユウマに目を止めた。


 ユウマは、腰に剣を下げている。

 服装は軽装、要所に革の守りが施されたクドの氏族衣装である。ちなみにこの革は、殺した同胞の皮をなめして重ね合わせたものであり、とんだサイコパス的装備なのだが、窓口の女はもちろんそんなことは知らない。

 ただ、一般の市民でないことは理解したらしい。


「冒険者ギルドの方は、二階へどうぞ」

「いや、俺はまだ冒険者じゃない。なりに来たんだ」

「冒険者の新規ご登録ですか。でしたら、こちらで直接ではなく、セリン・ギルドを仲介して登録されることを強くお勧めします。セリン・ギルドは、特別な戦闘技能を持たない方のために設立されたギルドです」

「戦闘技能、持ってるよ」


 受付の女は、ユウマの全身をさらりと流し見た。


「レビア神の祝福は、お持ちですか?」

「ないよ」


 ユウマは即答した。

 レビア神とやらが何なのかは、もちろん分かってないが、彼にとっては偽神であることに間違いない。そんなものの祝福など、持っているはずがない。


 女は浮かない顔になった。


「あなたのご年齢でしたら、セリン・ギルド以外の、いわゆる戦闘系のギルドに加入するのは難しいと思われます。一度セリン・ギルドに加入して実績を積んでから、他ギルドに移籍することを、おすすめいたします」


 ユウマは首を傾げた。

 先ほどから、ギルドとやらに加入するのを前提に話が進んでいるようだが、そもそもギルドとは何なのか。冒険者協会とは違うのか。


「ギルドとは、冒険者協会に登録した冒険者たちが、相互扶助のために、独自に集まって形成した団体、組合のことです」


 説明されたが、もちろんユウマにはよく理解できない。


「協会と冒険者のやり取りを潤滑に行うため、冒険者側が請け負う仕事の種別に、窓口をまとめたということです。その窓口が、ギルドです」

「分からん。が、結局、ここで今すぐに、冒険者の登録をするのは無理なのか?」

「それは、可能ではありますが……」


 受付の女は、何やら迷っているようだったが、やがてうなずいた。


「それでは、まず私から冒険者協会の仕組みについて説明しますので、その後改めて、ギルドについて考えていただきたいと思います。よろしいでしょうか?」

「うん。よろしく」


 彼女は一つ、せき払いをした。


「では、当協会の目的から。当協会は、魔族によって奪われた人類の生存域を拡大させるために設立された機関であり、そのためにもまずは、ランセット市地下に広がる《毒の迷宮》の制覇を急務と考え、これを第一の目標に掲げております」

「はあ」

「もちろんこれは、登録した冒険者に、危険な迷宮探索を義務づけるものではありません。

 当協会は《大厄災》にて生活する手段を失った方の救済も、その目的としており、登録者に様々な公共事業のあっせんを行っております。

 公共事業には、危険なものからそうでないものまでありますが、こちらも受ける受けないは、登録者の判断に依ります。

 危険な業務を、必ず受けなければならないわけではありませんので、ご安心ください」

「はあ」

「ただし、一つだけ。当協会はリンネ神殿の一部署であり、国家機関です。当協会にあっせんされ、一度受諾した仕事を、正当な理由なく破棄すれば、単なる契約違反でなく、犯罪として扱われる場合があります。注意してください」

「はあ」


「何か、ご質問は?」


「ええっと、つまりお前たちとしては、冒険者に、迷宮の探索を最も推奨するけど、それだけじゃなくて、もっと安全なことをやってもいい。紹介してやる。ただし一度受けた仕事だけは最後までやれってことかな?」

「左様でございます」

「迷宮の制覇とやらが、なんで土地を取り戻すことになるの?」

「それは、迷宮が《大厄災》の原因だからです」

「ふむ?」

「毒のシルダットはご存知ですね? 大戦中、この地を占拠していた赤い目の一柱です。

 大戦末期、追い詰められたシルダットはこの地に迷宮を作り、その最奥部よりイェルシェド全土に呪いを放ったのです。これが《大厄災》の原因です。

 国土の約三割が毒に汚染されて、異形の魔獣を生み出す、人の住めない土地となりました。

《大厄災》の根源である迷宮を攻略し、シルダットの呪いを解くために設立されたのが、当協会なのです」

「へえー」

「よろしいでしょうか?」

「うん」

「では続いて、冒険者ギルドについての説明をいたします。

 先ほども申しました通り、ギルドとは、協会に登録した冒険者が、相互扶助のため、独自に設立した組合です。

 お勧めしましたセリン・ギルドは、現在協会に登録している全冒険者の六割近くが所属しており、迷宮探索や東部危険域探索などの、生命の危険のある業務は取り扱わず、比較的安全で割のいい公的業務だけを、協会から一括で引き受けて、それを適正ごとに、ギルドメンバーに割り当てていくというシステムで運営されており……」

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