世代
「この辺りの植生を教えてくれないか?」
アデルの森で、切り出した原木を牛に牽かせるクリスに声を掛けた。
「どうしたんだボニータ。植物学者にでも転向するのか?」
クリスはそう言うと、牛の尻を押すようにしてゆっくりと森を歩いた。
草木が折れる細かい音が、牛の力強い鼻息と交互にリズミカルに響いた。
「幻覚作用のあるものはないだろうか?」
「おいおい、ここは森だぞ。そんなもの当たり前にあるだろう」
クリスは拍子抜けした様に言うと、屈み込んで「ほら」と何かを摘んで見せた。
「キノコか」私は人差し指を唇に当てたあと、眉間に寄った皺を解すようにトントンと叩いた。
「何の呪いだい」
笑うクリスに「キノコの栽培は可能か?」と尋ねた。
「出来るわけないさ。タネも無しにいつの間にか増えてるんだぞ」
「それじゃぁ、タネがあって幻覚作用のあるものはどうだ?」
私がそう言うとクリスは少し考えてから「この辺には無いと思うな。オヤジから聞いたことがあるが、俺が産まれる前には大麻の群生地があったらしいが、先代ランス伯が全て根絶やしにしたって」と話した。
「根絶やしとは穏やかじゃないね」
「それだけ中毒者が多かったってことだろうな。併せて領内の麻薬組織の摘発と処刑もやったそうだぜ。当時の人達はランス伯の草刈りって呼んだって」
「草刈りか。言い得て妙だな」
思わず納得して私は小さく笑った。
「だから若い世代は俺も含めて、ケシの花を見た事が無いってのがほとんどなんだ」
「それがいいさ。関わっていい花じゃない」
私はクリスに礼を言うと森を後にした。
大麻草を見た事がない——
あれは間違いなく、重度の大麻依存の症状だ。傭兵時代にも、投獄された時の同房でもよく目にしてきた。
スラム自体の悪臭に紛れていたが、カインの体臭は大麻常習者と同じ臭いだった。青臭い香を焚いたような臭い。
エバも根絶やしによって知らない世代だろう。気付かないのも仕方がない。
光を嫌うのも瞳孔が開いたままだと思えば説明がつく。
「おぞましきは悪魔か、それとも人の所業か......」
私は思わずそう独りごちた所で、ひとつおかしなことに気付いた。
悪魔憑きでないのなら、どうしてカインは神父を恐れたのだろうか。
そしてカインは大麻を誰から手に入れ、どこで吸っていたのだろうか。
いずれにしてもカインには治療が必要だ。
気は進まないが、魔術師ギルドに行くべきだろう。連中は選民意識が強くて、どうにも苦手だった。




