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BB  作者: 浅見カフカ
ハルドゥの悪魔篇

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懺悔室

教会の中は無人だった。

当然だ。今は裏手の墓地でカインの葬儀の最中だ。あの神父は神の御言葉を読み上げている頃だろう。私は礼拝堂の中をゆっくりと歩き、説教台《アンボ》やベンチを注意深く見て回った。

「特に何もなしか」

私はそう独りごちると、死角に作られた懺悔室へと目を向けた。

懺悔室自体は目に見えてはいるが、その入口が信者たちのベンチからも説教台の周りからも隠されていた。

唯一説教台に立つ神父からだけ、そのドアの開閉と在不在が見える仕様にあった。

告解する人間のプライバシーは、どこの教会でも守られる仕組みにあった。

だがそれは暗黙の了解であったり、単に個室であったりするだけだ。

ここまで物理的に遮蔽するものを見たことが無かった。

「これでは隠蔽だな」

そう言った後で"誰が何を隠蔽するのか"と考えが過ぎった。そして懺悔室の神父側を探ろうと動いた時に声を掛けられた。

「おや、あなたでしたか」相変わらず穏やかな声だ。「また香油が必要でしたか?」神父はそう言うと香油を取りに行くために私に背を向けた。

「いや、違うんだ」

私はそう言って神父を呼び止めると周囲を見回した。

「どうされましたか」

私の様子に眉をひそめた神父が、小声で囁いた。

「告解室は空いているか?誰にも聞かれたくない」私も声を落として神父にそう伝えた。

頷いた神父は無言で手を告解室に向けると、自身も反対の入口へと入っていった。

告解室の扉は思ったよりも厚く、部屋の中は外見よりも遥かに狭く作られていた。

足を踏み入れると靴音がよく聞こえた。

椅子すら置かれていない部屋。告解室は何度か見ているが、立ったままの懺悔は初めてだ。

向かい合う神父の部屋は、格子の窓で仕切られていた。

格子は三角錐の組み合わせだ。

おそらく神父側からは私の姿は丸見えだろう。

上手い作りをしている。

椅子に向かって一歩を踏み出すと、床がギィと鳴った。

腰を下ろしたタイミングで、神父の声が聞こえた。

「一体、どうされたのですか?」

「ああ、実は恐ろしい秘密を知ってしまったんだ」

「——秘密、ですか」

少しの沈黙の後、言葉をなぞるように神父は言った。

「ああ、誰かが麻薬を作っているかもしれない」

「かもしれないとは、確証ではないのですか?」

私は神父の問い掛けに、逡巡するような素振りを見せてから口を開いた。

「口の端に乗せるのも憚《はばか》られる話なんだが——伯爵様の荘園で作られていると思う」

「あなた、何を仰っているのかお分かりですか?」

「ああ。自分でも信じられなくて、こうして神父様に相談しに来たんだ」

「何故私に?」

「神父様の言葉なら伯爵様も耳を傾けるのではないかと思ったんだ」

「そうですか。あなたは......どうなさるのですか?」

神父は探るように私に質問をした。彼は今、格子の向こうでどんな顔をしているのだろう。

「私は一度この街を出て、憲兵隊へ報告をするつもりだ。ここの自警団では手に負えない事案だからな」

「そうですか。それは残念です」

神父がそう言い終える前に、身体が宙に浮いた。

そう感じたのは一瞬の錯覚。

足元——床が左右に開いて、私は暗闇に呑まれるように落ちていった。





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