暗闇
浮いた瞬間——
私は咄嗟に腰の剣を鞘ごと外して、真下に向かって押し出した。剣は直後にガシャンと大きな音を立てた。
(3メートル未満か)
致命傷となるに十分な高さだ。
仰向けで落ちる私は、頭部に手を当ててガードを固めると、大きく脚を振った。ブーツの踵が底に当たった瞬間に床を蹴った。身体はやや後方に、尻もちをつくように滑った。衝撃を上手く逃がしたつもりだったが、腰から首へと電流が突き抜けるような大きな衝撃を感じた。さほど大きくない痛みに、最悪な状況を想像した。
——麻痺。
呼吸がとても荒らい。
街の通りを全力で駆ければ、こうなるだろうか。
私はゆっくりと閉まる、かつて床だった天井を見上げていた。
告解室の薄明かりが、糸のような隙間から溢れたのを最後に完全に消えた。
私はその暗闇で目を閉じると、ゆっくりと息を整えていった。カビの臭気と湿度を強く感じた。
(身体は動くだろうか)
おそらく視覚や嗅覚は正常だ。
あとは四肢が動けば——
指先、手首、肘と順に曲げた。
問題なく動く。折れてもいないようだ。
脚はどうだろうか。
僅かに膝に力を入れると、意思通りに膝が曲がってくれた。最悪の中での最良の結果だった。
私はうつ伏せになると床を這った。
そこで初めて、床が土だということに気が付いた。石貼りの床なら無事ではなかっただろう。私はこの、湿り気を帯びた不快な地面に心からの感謝を贈った。
(確かこっちの方だ)
這いずった先で大きく腕を伸ばすと、慣れ親しんだ感触が指先にあった。先行して落とした剣だ。まだ薄明かりが残るうちに、大体の位置を把握していた。私は剣を引き寄せると、外した金具を腰に取り付けた。
そこでようやく私は目を開いた。
周囲は漆黒を僅かに薄めはしたが、薄ぼんやりとすらも見ることは叶わなかった。
(地下は間違い無いが——)
そう思いながら這い進むと、壁に触れた。
頬に湿り気を帯びた風を感じた方向だ。
壁は石造りだった。
(これは地下牢か)
そう思った次の瞬間、金属の柵に触れた。
ざらついた冷たい感触と、指先に付いた血のような臭い。間違いなかった。
地下牢の床は、いくら掘っても地表に出ることは叶わない。牢獄の通路はきっと石造りだろう。どの方向に掘っても詰みだった。
(さて、どうしたものか)
私は開き直るように再び仰向けになると、暗闇の向こうの天井を見詰めた。
どれくらいそうしていただろうか。
僅かな時間だったのかもしれないし、半日以上経っていたのかもしれない。
地下牢の構造の答え合わせが訪れた。
足音がコツコツと聞こえた。やはり通路は石造りだった。そして近付く足音の主は、神父ではなさそうだ。乱れたような足音だった。




