告解
「行方が分からなくなる直前、ベスが言っていました」
キッシャーは、自身のただれた腕に視線を落とすと喉の奥から絞り出すように言った。
「あれは麻薬だ——と」
「彼女はこの街の人間ではなかったから、あの葉の正体を知っていたんだな」
私がそう尋ねると彼は頷いて口を開いた。
「私たちの手や腕は、収穫でたちまち爛れていきました。それでベスは教会で香油を頂くようになったのです」
「なぁ、キッシャー。お前たちが収穫した大麻はその後はどうしていた?加工の後はどこへ納めていた?」
キッシャーは私を見上げると首を振って「分かりません」と答えた。きっと嘘ではないだろう。知っていたならば、ベスは教会になど行くはずもない。
「そうか!」
私が思わず大声を上げたせいで、キッシャーはビクっと身を震わせた。厨房からはゼンが顔を覗かせて心配そうにこちらを見ている。
「ベスは告解をしたんだよ。神父に罪の告白をしたんだ」
「懺悔室は人目につかないわね」
ブレアは納得したように静かに呟くと「神父は驚いたでしょうね。ベスが告解の体で自分を告発しているんじゃないかって」と続けた。
「そんな」
キッシャーは光の消えた瞳で、力なく項垂れた。
「悪党ってのは疑心暗鬼になりがちだ」
私はそう言うと「つけ込むか」と独りごちた。
「ボニータ、あなた口の端が歪んでるわよ」
ブレアはそう言うと、腕の治療を終えた。
「キッシャー、あんたは知らないふりで今まで通り働け。辛くても悔しくても耐えろ」
私は強く握られた、包帯に巻かれた手を見詰めてそう声を掛けた。
「で、どうするの?」
「懺悔してくるよ」
ブレアの問いにそう答えると「一日で終わる?」と真顔で私を見た。
「うるさい!」そう言いかけたところで、甘く香ばしい匂いが鼻を刺激した。
「焼き上がりましたよ」ゼンが両手でトレーを持って出て来た。そして「ボニータさんは意外と誠実ですよ」とブレアの方を見て言った。
「意外は余計だ」
パンの香りが場を和ませたのだろう。
キッシャーの表情が少し和らいで見えた。
「あなたの力よ」
ブレアはそう意味の分からないことを言うと、目を細めて私とキッシャーを見ていた。
「割ってみてください」
差し出されたゼンメルは、まだ少し熱かった。
焼きたてと言われた前回よりも、更に焼きたてだ。
真ん中から折るように割ると、きつね色の焼き目の下から真っ白な湯気が立ち込めた。
「わぁ」
ブレアの感嘆が聞こえた。
バターの香りが一層濃く漂った。
それを逃すまいと、思わず大きく鼻で息をした。
「あなた、鼻でも食べるのね」
「美味いもんは五感で味わうもんだろ」
ブレアの皮肉にそう言い返すと、彼女は目を丸く大きく見開いて「その通りね」と笑った。
そして大きく鼻で息をすると「美味しい匂い」とまた笑った。
「次はエバの分も焼きましょう」
ゼンはキッシャーに向かってそう言うと、私を見て託すように頷いた。




