訪問者
グリークの家から帰路。
半分ほど戻った辺りだった。
「私たち、エバの子供って伝えたよな」
「ええ、そう伝えました」
「子供用に小さな穴を掘ったりしないか?」
私がそう言うと、カールはハッとした表情で私を見つめた。
「いや、いいよ。私が戻って伝えてくる」
予定してる棺は大人用だ。グリークが子供用に掘ってしまえば埋葬は出来なくなってしまう。
「では私も一緒に」
「走ればすぐだ。カールは先に——いや、ここで待っていてくれ」
カールと一緒に戻ればきっと時間が掛かってしまう。あの大きなお腹を揺らしながら走る姿は、あまり想像が出来なかった。
「わかりました。では念の為に銅貨を1枚預けますね」
「そうか。大人用なら追加料金の要求もしかねないな」
グリークとのやり取りを思い出していた。
カールから預かった銅貨を皮袋へしまうと、私はグリークの小屋に向かって駆け出した。
流れる汗に当たる夜風が、心地よく感じた。
アデルの森の前を抜けて、小高い丘へ向かった。
尖塔の鐘楼が次第に大きく見えてきた。
私は乱れた呼吸を整えるために、徐々に速度を落として歩き始めた。
教会裏手のグリークの小屋に着く頃には、汗も引いて呼吸も元に戻っていた。
私がドアの前に立って、ノックをしようと手を上げた時だった。
薄い粗末なドアの向こうから声が聞こえてきた。
(来客か?)
「——です。ええ、死んだそうですぜ」
「......か?......ら、も...安心...」
(カインのことか?相手は誰だ?)
グリークの声は聞き取れたが、相手の声がくぐもって聞き取りにくかった。
「これから穴を掘ってきますんで。いえ、死因は聞いてないです」
「...どお...あのぼ......ん...きを.........」
「流れ者なら」
グリークはそう言うとヒヒと息を吸うように笑った。
(私のことか?)
もう少し聞き取れればとドアに耳を近づけた時、足元でパキッと音が鳴った。
息を止め視線をつま先に落とすと、小枝がふたつに折れていた。
「......上手くやりま——」
勢いよくドアが開けられた。
月明かりの中に、グリークの影が伸びた。
小屋の陰に身を隠した私が様子を伺うと、グリークは数歩外まで出て辺りを見回していた。
「ハルドゥの悪魔かもしれませんぜ」
グリークは小屋に振り向いてそう言うと、再びヒヒと笑って戻って行った。
私は彼を少し侮っていたようだ。
普通に会話を続けて音に気付いていない体を装う機転。
一瞬、言葉が途切れたことに気付けなければ、私はあの時点で見つかっていた。
グリークは相当な手練れなのかもしれない。
少し心臓を落ち着かせてから、立ち上がると私は小屋のドアをノックした。
「ボニータだ。グリーク、さっきの依頼に、手違いがあった。まだ、起きて、いるだろうか?」
私は息を切らせながら途切れ途切れに話して見せた。
「起きてるよ」
ドアを隔てて返事があった。
「ああ、済まない。墓穴は、大人の大、きさで頼む。子供用の棺が、間に合わないんだ」
「ああ、分かった」
「追加の金はいくらに、なるだろうか」
「要らんよ。もういいか?」
「ありがとう。それじゃ」
ドアが開くことはなく、中のひとりは気配を殺しているようだった。
私はドアの方を向いたまま数歩下がると、そこで踵を返した。




