墓掘り人
コツコツコツ。
カールが握った拳で、控え目にノックをした。
応答の無い扉に少し強目のノックを繰り返した。
「困りましたね」
カールは所在なさげに視線を宙に這わせていた。
本当に彼は善人なのだろう。最下層の墓掘りなど引き摺り出されても文句など言えないと言うのに。ましてや彼はこの街ではそれなりの地位に居る男だ。
「蹴破ろうか?」
私がカールとドアの間に入ると「いけません」と肩を掴まれた。
「力では行動を縛れても思想を導けません」
「短期的には恐怖と暴力は有効な道具だぜ。それに叩き起しましょうかって、カールが言ったんだろ」
そうは言ったが、私はカールを尊重してドアの前を開けた。
「墓掘り人は穢れに触れる仕事だと、私たちはいつの時代もどの場所においても忌み嫌っていました」
「ああ、そうだな」
「彼らがいない世界を私たちはかつて思い知ったはずなのに」
「数年前の疫病のことか?」
「ええ。遺体に触れる墓掘り人はその多くが感染して亡くなりました。結果、埋められることのない遺体が溢れて、私たちはこの世に地獄の景色を見ました」
カールはそう言うと「叩き起すには変わりありませんが、協力を得るには暴力よりも敬意です」と続けてドアの向こうに呼び掛けた。
「グリークさん、夜分に失礼いたします。私は自警団のカールです」
応答は無い。
「夕刻に屋台商の女の息子が亡くなりました。オリバー通りのエバの子、カイン。この憐れな母子の為に、魂の寝所をお願いできないだろうか」
沈黙——
月明かりが降り注ぐ音さえ聞こえそうな一瞬の静寂の後に、ドアの軋む音が夜に零れた。
僅かに開いたドアの隙間から、揺らぐ灯りが月明かりに交わり溶けた。
「カネ」
無骨で荒れた手が、手のひらを上に差し出された。
「あ、ああ。埋葬は早朝だから夜のうちに頼むよ」
カールは革袋から銅貨1枚を取り出して、グリークの手のひらに乗せた。
グリークは銅貨を握るとすぐに開いて「2枚だ」と言った。
「おい」
1枚でも相場の倍だ。私は思わず声を上げた。
隙間から覗く澱んだ瞳に、怯む様子は微塵もなかった。
「お願いしますね」
カールは私に向かって首を振ると、穏やかな口調でもう1枚手のひらに乗せた。
グリークは銅貨2枚を握りしめると、その腕をドアの向こうに戻した。
「カールさん、魂の寝所っての気に入ったよ」
どこか空気の漏れるような声でそう言うと、グリークは再びドアを閉じた。




