孤独な光
「それにしても驚きましたよ」
「何がだ?」
詰所を出てすぐのカールとの会話だった。
「ボニータさんにはバーリントン家の御令嬢が付いていらしたのですね。ブレア様はあのバーリントン子爵の英才教育を受けていると思います。最高の参謀ですよ」
「英才教育か。まぁ、いわゆる貴族様だな」
「バーリントン子爵は"戦う盾"と呼ばれた、軍師でありながら前線で戦う猛将でした」
なるほど。皮肉を込めた私の言葉への返答に、戦上手が戦下手に転落したことに納得がいった。参謀を失った軍隊などただの烏合の衆だ。
「どうせなら、神経を逆撫でしない英才教育もするべきだったな」
「それはね、ボニータさん」カールは私の名を呼ぶと、少し困ったような表情を見せた。
「おかしなことを言うと思うかもしれませんが、私たちも彼女を苛立たせてるのかもしれません」
「はぁ?なんでだよ」
「ブレア様の思考に私たちが着いていけない、理解できないからです。彼女にとって普通の思考や理論が、我々にとっては非常に難しい」
「それは私たちがバカだってことか?」
「平たく言ってしまえば——」
カールは最後は言い淀むように答えた。
私はその言葉に髪の毛が逆立つのを感じた。同時に、言葉の話せないカインへの振る舞いを思い出して大きく息をついた。
「アイツは苛立ってもいないし、私たちをバカだとも思っていないよ。物事の理解の違いを認識しているんだよ、ブレアは」
私の言葉にカールの顔が真っ赤になるのが、カンテラの揺らぐ明かりの向こうに見えた。
「いやぁ、これは恥ずかしい。私はなんて浅はかなことを」
「私だって同じさ。アンタに理解の違いってことを教えて貰うまで、ブレアにはイラついたりしていた。——きっと孤独だったのだろうな」
薄曇りの夜空を見上げると、月だけが夜空に輝いていた。
「今はあなたが居るじゃないですか、ボニータさん」
「おいおい、私は流れ者だぜ。この件が終われば街を出ていく。アンタたちが理解者になってやれよ」
「ああ、そうでしたね。なんだかあなたがずっと昔から、この街の住人だったような気がしていましたよ」
「厚かましいからな、私は」
そう言って笑うと、カールも釣られて笑った。
だがその笑顔も、潮が引くように消えていった。
私たちの左手に広がる黒い巨大な塊。アデルの森のせいだ。いくら今回の件がハルドゥの名を使った人間の仕業だと言っても、この地域に長く語られる伝承だ。気味の悪さは、すぐに拭えるものではないのだろう。
「もうすぐ教会だな」
私は努めて明るくカールに話しかけた。
「ええ、そうですね。でも神父様はお休みでしょうから、裏手の下男の小屋に向かいますね」
「ああそうだな。朝の鐘楼の音が、寝坊で遅れたら大変だ」
「ははは、そうですね。大変です」
カールは肩を小刻みに揺らしてそう言った。




