ハルドゥの遣い
「葬儀屋はどうするんだ?」
「失礼だけれども、エバの経済状況で葬儀屋を頼むのは不自然ね。墓掘り人に穴を掘らせて私たちで埋葬しましょう」
ブレアは私の質問に、まるで用意していたように淀みなく答えた。
「では棺桶の用意ですね」
カールがズボンの乾き具合を確かめながら、段取りの確認をした。
「子供用はダメよ、高いから。既製品の大人用で」
「そこまでやるのか?」
ブレアの注意に、思わず口を出してしまった。
「やらなくちゃ意味が無いわ。だって、私たちは騙す相手が誰かも分からないのよ」
「じゃぁ——」
私は革袋から銅貨を半分に切ったハーフペニーを選んで取り出した。
「棺も葬儀費用もカンパだよな」
「なるほど、あまりに銅貨が多いと不自然ですね」ヘンリーもハーフペニーや、更に半分に切ったファージングを取り出して帽子に入れた。
「カンパっぽくなったな」
重さで歪な形になった帽子を見たディックが、目を細めて言った。
「では私が棺桶を買いに行ってきます」
いち早くズボンが乾いたゼンが、足を通しながら言うと「私も行こう」と川に入っていないディックが手を挙げた。
「こんな時間で平気なのか?」
もうすっかり夜も更けて、寝ているのが普通の時間だ。
「なぁに、自警団まで出るかなりの大騒ぎだ。棺桶職人としては、我々が沈痛な面持ちで訪れるのを今か今かと待っているさ」
ディックがニッと歯を見せる横で、ゼンが何度も頷いていた。
「不幸で食ってる人間の性か」
私が納得すると「私は誰かの空腹で食ってる人間ですよ。誰しもが誰かの何かを飯のタネにしているものです」とゼンが含蓄のある言葉を口にした。
「ああ、失礼な物言いだった。訂正するよ」
私はそう言ってゼンに頭を下げた。
「それでは私たちは墓掘り人を叩き起してきましょうか」カールがそう言って私の方を見た。
「起きてるんじゃないのか?」
「彼は教会の下男ですからね。収入に影響しないでしょうから寝ていますよ」
「はっ、そういうものか」
私は納得すると、強く息を吐くように短く笑った。
「服は乾いたかしら?」
ブレアは暖炉の前の三人を見ながらそう言うと、答えを待たずに続けた。
「ディックとゼンで棺桶の手配、ボニータとカールで墓掘り人をお願いね。ヘンリーはエバとここに残って遺体の番を。もしも弔問者が来たらお悔やみだけ受け取って帰ってもらってね」
「中には入れないのですか?」
「遺体を見せられないもの、ダメよ。神父にも使うけれども"損傷が激しい"とかで切り抜けてね」
そう言われてヘンリーは「分かりました」と答えるとモゴモゴと口の中で"損傷が激しい"と応対の練習を繰り返していた。
「エバはとにかくボーっとしてて。無理に悲しむ必要は無いわ。その安置されてるわら人形の前で呆然としてくれていればいいわ」
そしてブレアは頷いたエバと練習中のヘンリーに向かって、声のトーンを落として続けた。
「いい?きっと人はほとんど来ないわ。ただし、訪れた人のことは詳細に記憶して」
「後でお礼を?」
「ヘンリー、貴方面白いわね」
ブレアは呆れながらも可笑しそうに笑った。
本気で面白かったのだろう、目尻には涙が見えた。
「弔問者の中に監視者が居るはずよ。カインの死を確認したい監視者——ハルドゥの遣いがね」
この場の空気が一瞬で冷えた気がした。




