夜半の水難
「見つかったぞー!」
ヘンリーの大声に野次馬が集まり始めた。
川の比較的浅い場所でカンテラを振って合図を送っていた。
カールとゼンが川に入って、ヘンリーの元に集まった。
「ほらほら、ダメだ下がれ、下がって!」
ディックが野次馬を遠ざけるように押さえている。
私はその横をエバを連れて、土手を降りて行った。
川の中からヘンリーたちが、麻袋を掛けた塊を岸辺に上げた。
(あの麻袋の素材を見たことがないんだよな、この街の住人は)
私はついそんなことを思いながら、エバを麻袋の傍らに立たせた。
エバはヘンリーがめくった麻袋の中を見るとフラフラと、膝から崩れてしまった。
そのまますがりついて泣きわめくと、カールに引き離されて離れた場所へ連れて行かれた。
私は荷車に濡れた麻袋を乗せるのを手伝おうとして、両腕で抱えた。
重たい。水を含んで見た目以上に重たい麻袋を必死で抱え持つと、どうにか荷車に乗せた。
端がめくれて見えそうになっていたのを慌てて直すと、ヘンリーに手を挙げた。
ヘンリーは強く頷くと、ゼンと共に荷車を運んで行った。
「事故に見せかけて殺したのなら、私たちは事故に見せかけて生かしましょう」
数刻前——
ブレアの笑顔の提案からこの大芝居は始まった。
私がエバの家を訪れて、ブレアの絵図を説明した。そして私はカインの名を叫びながら家を飛び出すと、貧民街を走り抜けた。
自警団への説明はブレアが担当してくれた。
そしていつもの見回りの体で歩いていたゼンに、私が呼び止められて騒ぎを街中に広めていった。
それにしても濡れた藁束の重さには驚いたが、エバの女優っぷりには更に驚かされた。
「藁人形にすがりついて泣きわめくって、アンタもよくやるな」
カールと共に慰める振りをしながらエバに言うと「子供を守る為なら親はなんだってするさ。母親なら特にね」と、エバではなくカールが答えた。
「ボニータさんがくれたあの子の未来です。私はなんだってやります」
そう言ったエバの顔は、最初に会った時の虚ろな女の印象はすっかり消え失せていた。
遺体を装った藁人形は自警団の詰所に運ばれた。
「上手くいったみたいね」
ブレアが到着した私たちにそう声を掛けた。
「あまりに急遽でボロが出ないか心配だったぞ」
私がそう言うと「夜陰に乗じないとボロが隠せないじゃない。だから急いだのよ」とシレッとした顔でブレアは言った。
「でもさ、夏でも夜の川は冷たくてたまらないよ」と、脱いだズボンと靴を季節外れの暖炉の火に当てたヘンリーが言うと、同様に下着姿のゼンとカールが何度も大きく頷いた。
「それで、神父様も騙すのか?」
私がブレアに尋ねると「そこを騙さないと貴方が言っていた監視者を騙せないじゃない」と当然至極の答えが返ってきた。
私は香油の時のあの疑わしいまでの誠実さに、嘘をつくのは忍びないと心の中で神様に詫びた。




