オレンジ連盟
「キースの傷を見たか?」
射し込む西日のオレンジの中、私の質問にゼン以外が頷いた。
そして全員が暗く淀んだ表情の中に、怒りの色が見て取れた。
「それじゃぁ、一人ずつ個別に聞くから呼んだら来てくれ。先ずはディックから」
そう言って隣の仮眠室に向かおうと背を向けると「ここじゃダメなのか?」と質問をされた。おそらくヘンリーの声だ。
「記憶ってのは上書きされるからな。あと待ってる間に、当時のことを皆で話し合うのもダメだ。理由は——分かるよな」
そう言ってヘンリーの顔を見ると「分かった」と首を縦に振った。
仮眠室には簡素なベッドが上下に二つあるだけだった。私は立ったまま、ディックをベッドに座らせると遺体の詳細について尋ねた。
「酷い有様だった。食い破られた腹からは腸の一部が垂れていたよ」
「岩場には遺体だけか?」
「引きずったような血の跡があったから、他で襲われた後にそこで喰われたのだと思ったんだ」
「それは何故だ?」
「他の獣に横取りされないようにだと」
「ではディックの初見では襲った獣は小型、もしくは中型の肉食獣ということか」
「ええ。熊であればそういったことも少ないでしょうし、何より頭部が無事でした」
「ほう、なるほど」
私は片方の眉を上げた。やはり彼は非常に優秀な自警団のトップだ。
「熊は大抵、上半身を襲います。彼の身体には噛み傷や爪による裂傷のようなものはありましたが——」
「挫滅や粉砕されたような壊滅的な痕跡は無かった」私の言葉に「はい」と静かにディックは答えた。
「あなたの観察眼は素晴らしいと思う。だからこそ聞きたい。岩場に獣の足跡はあったか?キースの血を踏んだ足跡が」
「それは......無かったです」
「分かった。次はヘンリーを呼んでくれ」
ディックが出ていくと、ヘンリーが呼ばれて入ってきた。
「座ってくれ」
私はディックと同じように座らせると、同様に詳細を尋ねた。
ヘンリーは何度も目を瞑り、ときおり首を振りながらも丁寧に答えてくれた。
「傷口は綺麗だったと思います。他があまりに凄惨で気が行きませんでしたが、思い返せばどれも切り裂いたようでした」
「狼などの噛み傷を見たことはあるか?」
「はい。肉は抉り取られたように千切られ、皮膚はズタズタに裂かれます」
「彼どうだった?」
「内臓こそ無くなっていましたが、傷口に抉り取られたような痕跡やズタズタになった皮膚の跡はありませんでした」
「ありがとう、辛かったな」
私はヘンリーの背中を軽く叩いて立たせると、質問をやめた。
「嫌な質問に答えてくれて感謝する」
私は仮眠室を出るとそう言って頭を下げた。
「結論を言うと、キースを殺したのは人間だ。それも、獣害を知識でしか知らない部類の人間だ」
「それは誰ですか?」
ゼンが強ばった表情で口を開いた。
「ハルドゥの悪魔も、名前を騙った人間の仕業だ」私は質問に答えずにそう続けた。
「一体誰が!?」今度はヘンリーだった。
「すまないが、まだ明かせない。ただ、数日内に根拠も添えて明らかにするつもりだ。そしてこの事件は他言無用だ。漏れた時には全員が死ぬだろう」
そう告げると室内がシンと静まり返った。
部屋の陰が少しだけ濃さを増して、私たちの影を伸ばした。
「オレンジ連盟ですね」
夕陽に当たる皆を見回して、カールがそう力強く言った。




