カールの話④
ディックはしばらくぶら下がった後、私たちに手を振りました。そしてロープを伝ってヘンリーの元に向かいました。
合流したふたりは岩場によじ登ると、首を下に向けていました。私たちの場所からは見えませんでしたが、そこに死体があったのだと思います。
そしてすぐにヘンリーが、手と膝をついて崩れました。その様子に私は、キースの遺体だったのだと悟りました。
ですが私たちに、悲しんでいる時間はありませんでした。上空にカラスの鳴き声が響き始めました。キースの遺体に彼らも気付いたのでしょう。一羽、また一羽と岩場上を旋回し始めました。
ヘンリーは自らのシャツとズボンを脱ぐと、袖とズボンの足をロープに通しました。
そうして作った即席の担架に遺体を乗せると、岩の突起と窪みにロープを結んで掛けました。
ふたりは再び川に入ると、ロープを伝い担架を引きながら私たちの方へと向かいました。
激流に上手く動けないふたりの様子に、数羽のカラスが降りて来ました。激流の轟音に混じってヘンリーの怒声が聞こえました。手を振ってカラスを払う様子が水煙の向こうに見えました。ディックも同様に、何度もバランスを崩しながらカラスを払い担架を引いていました。
ようやくこちらまで戻って来たふたりは、息も絶え絶えで当然ながらずぶ濡れでした。
ですが反して、キースの遺体はほとんど濡れずにありました。
「ああ、キースくん」
そう声が漏れました。
獣に襲われたのでしょう。無数の鋭い傷が彼の服と皮膚を裂き、喉と腹が食い破られていました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カールはそこまで話すと、吐き気を抑えるように胸元をさすった。
「喉が食い破られていたんだな?」
私は念を押すようにカールに尋ねた。
「はい。きっと苦しかったでしょうに」
沈痛な面持ちのカールに、私は質問を続けた。
「腕や脚の傷はどうだった?」
「ええと——」
カールは少し上に視線を向けると、記憶を辿るように首をかたむけた。
「細かい傷がたくさんありました。同様に衣服も裂けたり破れたりしていました」
「肉が引きちぎられたりはしていなかったか?」
「いいえ、どれも裂けた感じに見えました」
「食い破られた腹の傷は?」
少し語気が強かったかもしれない。
カールは少し上体を逸らして「鋭い爪か牙で裂かれたようでした」と答えた。
「カール、信用出来る数人で共有したい。ディックと、ヘンリー、ゼンを呼んでくれ。これは獣害ではない」
私がそう言うと、カールの表情から柔和さが消えた。
「——つまり、キースは殺されたと言うのですか?」カールは生唾を飲み込むと、絞り出すようにそう言った。
私はその問いに無言で頷いた。




