カールの話③
「この先に崩れた岩場があるんです。足場になっていて、いつもそこから降りています」
シムスはさらに奥の方を指差すと、先頭を歩き始めました。私は"いつも"という言葉に、彼の楽天的な迂闊さを危ぶみました。いくら人目を忍んだところで、彼は口から身を滅ぼすだろうと思いました。
その先はシムスの言う通り、崩れた岩場が階段状に広がって、我々は労せず崖下へと降りることが出来ました。
「あの中洲の岩場までは、流れが急すぎて近付くことが出来なかったんですよ」
確かにこの崖下に降りた途端、大声でなければ会話もおぼつかないほどに、川のごうごうという音が絶え間なく聞こえていました。
その時ふとあることに気付きました。
遠目に死体を見てから、ヘンリーの口数が極端に減っていたのです。
「ヘンリー、さっきからどうしたんだい?」
私がそう尋ねると「キースかもしれない」と、耳を寄せてようやく聞こえるような声で呟きました。
「まさかキースくんが?」
そう言ったは良かったのですが、彼は早朝に出たきりでした。どんなに長引いても、ヘンリーよりも後に戻ることは無いはずでした。
「カール、岩にロープを結んでくれ」
大声に顔を向けると、胴にロープを結んだディックが手を振っていました。
「カールさん、私のもお願いします」ヘンリーも自身の胴に結び始めて、片方の端を私に渡しました。
私はそれぞれのロープを結いつけると、大きく手を振って合図しました。
ふたりはそれを見ると、激流の中に身を投じました。私とシムスはロープを引きながら、彼らの身体を支えました。
——支えるつもりでした。
彼らが水に入った瞬間に、私たちは足元の石ごと引きずられました。重りの役にも立たず転げながら見た光景は、一気に流されながらも近くの岩にしがみつく彼らでした。
私は比較的安定した姿勢のディックのロープを放すと、ヘンリーのロープをシムスと引きました。
ヘンリーはロープが張られたことに気付くと、ゆっくりと動き始めました。何度も流れに揉まれながら、死体のある大岩に取り付くと、ヘンリーは小さく手を挙げました。
次はディックの番です。
ディックはヘンリーのロープを目指しました。
ヘンリーと私たちが張っているロープです。
急流の盾になっていた岩陰を離れた途端に、ディックは足を滑らせました。
瞬間、私は数歩前に出ました。
ロープがたるみ、川に沈みました。
刹那、ロープが一気に引かれました。
私とシムス、岩場のヘンリーは一気にロープを水上に張りました。
そこには両腕を引っ掛けてぶら下がる、ずぶ濡れのディックがいました。




