シャンバラとバーリントン紅茶店
「まぁ」
戻った私を見たブレアの第一声だった。
「あなた、そんなにカモミールティーが好きなの?」
これが第二声だった。
「お前が量を言わなかったからだよ」
「あなたは聞かなかったわ」
ああ、コイツはこういう奴だった。
「余ったらバーリントン紅茶店でも出せばいいさ」私は布袋を投げ渡すと「用事が出来た」と言って屋敷を出た。
さて、ヘンリーはどこに居るだろうか。
宛もなく探し回るよりも詰所に向かうのが賢明だろう。何よりもここからすぐの場所だ。
私は、昨日連行された詰所の扉をノックした。
「どうしましたか、困り事ですか?」
中から顔を出したのはヘンリーとはまた違ったタイプの、人の良さそうな男だった。
丸顔に丸い体型。不審者や賊の追跡には不向きだろうなと思った。
「自警団から依頼を受けているボニータだ。ヘンリーに会いたいのだが」
「ヘンリーでしたら、もうそろそろ戻ると思いますよ」男はそう言うと、柔和な目尻を更に下げて「中で待ちますか?」と大きく扉を開けた。
「私はカールと申します。差し支えなければヘンリーにはどういった御用向きでしたか?」
「アンタも商売人か?ゼンと同じくらいに上位顧客を抱えた」
「どこかでお会いしましたか?」
カールは目を見開くと私の顔をまじまじと見詰めた。
「いや、言葉の端々が妙に丁寧なのと、全体的な物腰でそう思っただけだ」
「いやはやなんとも。私は飲食店を数件経営しております。若い方ですとシャンバラが馴染みがあるでしょうか」
「ああ、シャンバラか。水がタダで出てきて驚いたよ。調度品も贅沢なものばかりで、正直私には居心地が悪かったな」
私が思い出して苦笑いをすると「そんなことを仰らずに、依頼が落ち着いたらレストランの方にもお越しください。馬車道通りのエルトゥーラです」と言って再び目を細めた。
「そうだな、こんなナリで追い出されなければな」私は自身の冒険者然とした格好を見ながらそう言った。
「ヘンリーにはキースについて聞こうと思って来たんだ。出来れば彼の恋人のことも」
「キースですか」
カールの瞳に暗い陰が差した。
「あれは、酷い有様でした」
「遺体を見たのか?」
カールは深くため息を吐くとゆっくりと語り始めた。




