キース
アデルの森と教会の中間。建物が見えなくなるくらいの所にカモミールの群生地があった。
「採り放題だな」私はそう独りごちると、四つん這いで葉を摘み始めた。
そういえば収穫してくる量を聞き忘れたが、袋いっぱいに詰めて帰れば文句は無いだろう。
そうして夢中になって摘んでいると「何をしているんだ?」と声を掛けられた。
(ああ、またか)そう思って「お茶会の準備だよ」と言って振り向いた。
「そいつは優雅だな」そこには目を丸くしたクリスが立っていた。
「なんだ、クリスか」
「なんだは酷いな」
クリスは少し戸惑ったように頬を掻いた。
「ああ、悪い。自警団かと思った」
「自警団ってボニータ、お前なにかしでかしたのか?」
「濡れ衣だよ。街の構造と植生を調べてたら捕まった」
「いや、それは十分に怪しいだろ。植生は別として」
「その植生の方で捕まったんだよ」
「なるほど、だからハーブを摘んでいて自警団と思ったのか」
クリスは豪快に笑うと急に真顔で「どうして植生なんだ?」と尋ねた。
「えっ?そんなの——」そこまで言ったところで背筋に冷たいものが走った。
「なぁ、クリス」私はクリスの目を見詰めた。言っていいものだろうか。「——自警団の連中は、大麻草の知識はあるのか?」私はためらいながらそれを尋ねた。
大麻草を見たことのある若い世代はほぼいない——
それはアデルの森でクリスから聞いた言葉だ。
ならばその知識はどこから得ている?
どのようにして覚える?
あの善意の塊のようなゼンや、娘の身を案じて依頼したマスター、彼らが到底関わっているようには思えなかった。
「俺は自警団の仕事していないから分からないなぁ。でも俺が思うに、ボニータが考えているようなことは杞憂じゃないかな」
「そうだと思いたい。だが、何故そう言える?」
「自警団の中にも居るんだよ。恋人が行方不明になった男が」
「誰だ、ソイツは?どうして連中はそれを隠していたんだ!?」思わず無関係なクリスに詰め寄っていた。
「それはきっと——」クリスは言いかけて逡巡したが、一度唾を飲み込むと「死んだんだ」と言った。
「死んだって、まさか殺されたのか?」
「いや、事故だと聞いている」
「事故?他殺でも自殺でもなく、事故?」
「恋人の捜索をしていて獣に襲われたらしい」
クリスは首を横に振ってそう答えた。
「詳しい話は自警団のヘンリーに聞くといい。彼は亡くなったキースと仲が良かったから」
「ヘンリーか、アイツに捕まったんだよ」
「悪いやつじゃ無かっただろ」
「クソ真面目な良い奴だ」
私はクリスに礼を言うと、ハーブの詰まった袋を担いでブレアの元に向かった。




