お茶会
キッシャーの隣にブレアは立った。
「キッシャー、奥様のこと——」
「ああ、バーリントン様にまでご心配頂いて、勿体ない話です。帰ってきたら妻に話してやります」
キッシャーは恐縮しきった様子だった。
「奥様のご友人や、よく行かれる場所はなかったのですか?」
「いえ、妻はこの土地の人間ではないので、特に親しい友人は居ないと思います」
「奥様はどちらの出身なんですか?」
ブレアは一度だけ私を見た。
そこで私も、以前キッシャーがそう言っていたことを思い出した。
迂闊だった。ベスはあれがどんな草か知っていた可能性がある。そしてキッシャーや、おそらくベスの身体にも出来ていただろう赤いかぶれが何の影響かということも。
「キッシャー!」
つい出してしまった大声に、キッシャーだけではなく、ブレアもビクりと身体を震わせた。
「香油は、香油は何に使っていた?」
「私とエバの手や腕に」
キッシャーは右腕に触れてそう言った。
「失礼する」
私はそう言うと、季節にそぐわない長袖をまくった。
「痛っ」顔を歪めたキッシャーに「済まない」と事務的に言うと、患部をブレアに見せた。
「効いてないな」
「これは——辛かったでしょう。よく頑張りましたね」
カインの時も感じたが、ブレアは聖母のような顔を見せる時があった。普段はどこかズレた物言いだというのに。
私がそんなことを思っていると、キッシャーは突然大粒の涙を無言で流し始めた。
「傷口に染みるわ」
ブレアはキッシャーの目元をハンカチ拭うと、そのまま「使って」と手渡した。
「魔法で治せるのか?」
私がそう尋ねるとブレアは首を振った。
「魔法はそんなに便利なものではないの」
「伝承じゃ死者すら蘇らせたって聞くぞ」
「そうね。失われた古代魔法はこの世の法則も理もねじ曲げたと聞くわね。魔術師ギルドではそうした研究もしているわ」
「で、蘇生どころか回復も未だ叶わないって話か」
我ながら嫌味な言い方だったと思った。
「叶わないから別の手段が発達するのよ。ボニータ、後でお茶会をしましょう」
「それとキッシャーに何が——」
「キッシャー、明日もこの店で会いましょう」ブレアは私の言葉を遮ると、一方的な約束をして店を出た。
私はパンを抱えたままで「お茶会って何だよ」と言ったが、ブレアは楽しげに微笑むばかりで答えることはなかった。




