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BB  作者: 浅見カフカ
ハルドゥの悪魔篇

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リベリオン

天使のような寝顔とは、彼女の寝顔を指すのかもしれない。陶磁器のような頬にうっすらと差した紅色。形の良い唇は閉じられて、寝息だけが聞こえた。

見蕩れたまま、起こすのを一瞬忘れた。

「おい、起きろ。もうすぐ日の出だ」

肩を揺すると「んー」と鼻を鳴らすような声を出した。

「ブレア、起きてくれ」

ゆっくりと重たそうにブレアの瞼がいた。そして焦点の合わないままで、しっかりと抗議の視線だけが私に向けられた。そしてそのままうつ伏せになると、枕に顔をうずめた。

「おいおい、起きろよ。明るくなっちまう」再び、今度は激しく肩を揺すった。

ようやくベッドから降りたブレアに「お前の瞼は、ギルドのドアより重たいな」と言ってやった。

「ハニーバターの染み込んだトーストの香りがあれば、ギルドのドアより軽やかに開くわよ」とブレアは悪びれもせずに言い返した。

「なぁ、帰りにゼンの店に寄らないか?」

「ゼンの店ってもしかしてサブレッドのこと?」

「パン屋だ。そういえば屋号は見なかったな」

「サーブレッド。彼の作るパンに感激した国王陛下が騎士サーの称号を贈ったのよ、パンにね」

「それでサブレッドか。なるほど領主様御用達も納得だな」

そこまで話したところで、衣擦れの音が止んだ。ようやく着替えが終わったらしい。

「さぁ行きましょう、サブレッドに」

「目的はそこじゃねぇよ」

シャンバラの件を思い出した。ブレアは鼻先にニンジンをぶら下げると、上手く動かせるかもしれない。

「何笑ってるの」

「いや、パンが楽しみだなって」

「ニンジンぶら下げると、言うこと聞くタイプかしら?」ブレアはそう言うと頬に指を当てて首を傾げた。

今なら殴っても神様は許してくれるような気がした、多分。

私たちはニンジンを互いの鼻先にぶら下げながら、屋敷の抜け道から裏手の通りに出た。そのまま領主の荘園までブレアを連れ出すと「この向こうが見たい」と指をさした。

「神父じゃなかったの?疑っているのは」

「どっちもだ」この向こうには絶対にアレがある。

「キッシャーって男が居るんだ。領主のところの、所謂いわゆる農奴だ」

「奥さんが行方不明になった人ね」

「アイツの手が赤く荒れていたんだ」

「境遇には同情するわ」

ブレアは眉を寄せて表情を曇らせた。

「いや——赤くただれていたと言えば、分かるか」

私はそう言ってブレアの目を見た。

ブレアの表情がクルクルと変わった。

驚きに目を開き、怒りに眉間に皺を寄せると、最後は右手で目から額を覆った。

「嘘でしょ。先代の偉大な草刈りが無意味なものになってしまう」

「なぁブレア。この塀はいつから巡らされた?おまえが物心着く頃には既になかったか?」

「どういう意味?」

「そのまんまだ。そしてお前の父上が爵位を返上した理由も、そこにあるんじゃないか」

「父は変わり者なんかじゃなくて——」ブレアの手が蒼白く光り始めた。

私の身体はゆっくりと大地のくびきから解き放たれて、ふわりと浮き上がった。

「ああ、沈黙の反乱者リベリオンだ」

高い塀の向こうには、広大な大麻草の圃場が広がっていた。


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