教会
丘を登ると見えて来た。
美しいステンドグラスやフラスコ画を用いて装飾された教会とは真逆の、質素な教会。
唯一、高い尖塔が無ければ教会とは気づけないかもしれなかった。
中へと足を踏み入れると、中央の通路を挟んで木製の長椅子が左右に五列並んで備えられていた。
奥の祭壇脇には右に懺悔室、左にオルガンが置かれていた。
コツン、コツン。
床を歩く音がよく響く。
聖歌や説法の為の設計だろうか。
「おや、どうしました?悔い改めにいらしたのですか、それとも祈りを捧げに?」
振り向くといつの間にか神父が立っていた。不意に掛けられた声だったが、その柔らかさに驚くことはなかった。
「いや、そのどちらでもない。香油を譲って頂きたい」
「そうでしたか。どなたかがご病気なのですか?」
柔和な表情を僅かに曇らせて神父は尋ねた。
「ああ、療養しているんだ」
私はカインを思い浮かべて、そう答えた。
「それは気の毒に。旅先での病臥はさぞ心細いでしょう」
「旅先?」
「違うのですか?あなたの姿が冒険者のように見えたので、てっきりお仲間が倒れたのかと」
神父は怪訝な表情を浮かべてそう言うと「それに失礼ながら、礼拝でお見掛けしたこともなかったので」と続けた。
「ああ、そうだ。すまない、神父様の洞察が鋭くて驚いてしまった」
「では、ご用意しますので」
神父は再び柔和な表情を浮かべると、香油を取りに奥の部屋へ入って行った。
部屋の扉はさほど間をおかず開かれて、香油の小瓶を手にした神父が戻って来た。
「こちらを」
差し出した香油を受け取った私に、神父は少し歯切れ悪く「寄付として小銅貨三枚をお願いしているのです。もしも困窮されていらっしゃるのでしたら、共に神に祈りを捧げていただければ寄付は結構ですので」と苦笑いをして見せた。
「小銅貨三枚だと瓶代にもならないだろう」
「はい。ですが、神の奇跡を代価で計ることは本来は罪深いことでして」
神父はそう言うと赦しを請うように、祈りの身振りをして両手を合わせ握った。
「済まないが、細かい持ち合わせが無くてね」私はそう言うと銅貨一枚を渡した。
「小銅貨七枚、お返ししますのでお待ちを」そう言って踵を返そうとした神父呼び止めた私は「寄付なら奇跡を買ったことにはならないだろ」と言って、教会を後にした。
陽の光に茶色い小瓶を透かして振ってみた。瓶の内側に薄い波跡を残した香油は、やがてまた穏やかな油面に戻っていった。
カインに塗れば良くなるだろうか。
ブレアが良いと言えば塗ってやろう。
ただ今は、この小瓶で確かめなくてはいけないものがあった。
剣と羊亭へ行こう。私は丘を駆け下りるように、街へと歩を進めた。




