地下牢
運んだワイン樽を蔵に移した。
カインはまだ樽の中で寝ている。
「どうやって屋敷に入れるんだ?」
普通に玄関から入れば誰かに見られるかもしれない。
「大丈夫。ここは貴族の屋敷よ」
ブレアはそう言うと、蔵の奥のレンガを外した。
「直すのが面倒だから、最小限だけ崩してね」
ブレアと二人で百本ほどのレンガを外すと、奥に扉が姿を現した。
「脱出用の地下通路よ」
ブレアはそう言うと、少し錆の浮いた鉄の扉を押し開けた。
魔術師ギルド以上に軋んだ音が、不快な金属音を伴って響いた。
ブレアの魔法が無ければ暗闇しかない通路だった。たとえ真昼でもそれは変わらない。一人が通るので精一杯の広さは、多勢の追跡者を寡数で迎え撃つためなのだろう。よく考えられている抜け道だ。
「なぁ、ブレア。この抜け道を作った奴はどうなったんだ?」
我ながら嫌なことを考えてしまった。
「そうね。作った人には知られてしまうわね」
「やっぱり、そうなるよな」
「貴族なんて身分、お父様が返上してくださって本当に良かったわ」
ブレアはそう言うと足取りも軽く、先へと行ってしまった。
どんどん暗くなっていく周囲に「ちょっと待てよ」とカインを背負った私は駆け出して背中を追った。
再び錆びた鉄扉が現れた。
その扉を手前に引くと、見慣れたレンガが積まれていた 。
「必要な分だけね」
また同じだけのレンガを外して出た先は、私設の地下牢だった。
「いい趣味してやがんな」
「貴族でしたから」
ブレアは答えにならない受け答えをすると「隣の房をカインの治療部屋にあてます」と言った。
鍵も掛かるし外から見える、なるほど理には叶っていた。
ブレアの精神魔法の効果で、翌朝にはカインは暴れることなく平静を保つようになってきた。
「保護されてから、ずっと禁断症状と戦っていたのね」
「周りも悪魔の仕業にして、大麻のことを疑わなかったんだろうな」
「そうね。それに私たちの多くは大麻についての知識が欠けていますし」
「駆逐した弊害か。遠ざけるだけじゃなくて、近付かない、気付ける教育も必要ということだな」
「もしも道端に自生していたとしても、知らずに通り過ぎるわね。そして、この街にはそれを知る人間が居る」
「ああ、それも邪悪な人間がな」
私はカインを預けて調査を再開することにした。赤ん坊のような喃語を背中に聞きながら、必ず償わせると心に誓った。




