第9話 迷宮に入るその前に。
準備するよー。
新しい住民カードとやらには、写真も組み込まれている。
何時撮ったんだろうと思ったら、パターン認識の時に内蔵の魔法機械が連動して写真が撮影されるんだそうだ。
うむ、やっぱり目の色ライムグリーンだな、写真でも。
ホントこれいつ色変わったんだろうなあ、全然判らん……
「成程……並んでおられると血縁の方だって感じがしますねえ」
受付のお姉さんが機材を片付けながら、オレと姉ちゃんを見比べる。
まあ確かに昔からオレと姉ちゃんは似ているってよく言われてたと思う。
オレが女顔って訳でもないし、姉ちゃんが男っぽい訳じゃなくても、だ。
っつか姉ちゃん割と美人の範疇なんだよな。オレは自分はフツメンだと思ってるけど。
カードに関してはなくさないようにと言われたけど、普通に収納にぶち込んでおけばいいらしいので、さっさとしまう。
「あれ、弟さんは収納持ちなんですね」
「そうなのよ!弟の癖に生意気にも!!
で、実はこの子ちょっとイイ感じの食品持って帰ってきてるんで、フードコピーできる人とマッチングお願いしたい!」
「食品、ですか。食材ではなく?」
姉ちゃんは流れるように食事のコピーの話に入り、受付のお姉さんはオレの方を見る。
「食材もないではないけど、オレ自身がほぼ料理しないんで、基本は食事、ってイメージでいいかな。
帰ってくる前にいたとこで腕のいい調理人の友人ができて、餞別に貰ったものがあるんだ。
朝飯に少し出してこの三人で食べてみたんで、食品としては問題ないはず」
朝飯に出したサンドイッチはツナマヨキュウリとBLTだったんだけど、実はツナもベーコンも、あの世界の独自素材だったんだよね。
三人で普通に美味しく食えたから、あの世界のモノを出すのは問題ない事だけは判ってる。
「なるほどなるほど。それだとジーシャさんがよさそうだけど、今日いたかなー?」
「はいはーい!なんか変わった子が来たって聞いて!」
受付さんが名前を出したのとほぼ同時に、小柄な、幼女にすら見えるエルフっ子がひょっこりカウンターの下から顔を出した。
多分リケラと同族だけど、髪の色はクリームイエローとでもいうべき色で、瞳は明るい緑だ。
「お、ジーシャ、おはよ。確かにあの味覚の再現まで考えるとキミが適任かも」
リケラとも知り合いのようで、彼女はうんうんと頷いている。
「え?なに?リケラがそこまで言うレベルの旨いモンあるの?!」
そしてその言葉を聞いたジーシャさんはがば!とカウンターの上に飛び乗ってきた。お目めキラッキラですね?食べるのも好きなんだな、きっと?
「おおおおおおおおおおおおおおお……!!」
二品くらい、携帯性のいいものを出してくれと言われたので、ホットドッグとチーズバーガーを出す。
見た目は普通だと思うんだが、ジーシャさんは見た瞬間に声を上げた。
「なにこれ!!!パティもソーセージも見たことない肉!」
「見ただけで判るんだ?」
「当然っす!コレ、食べていいんだよね?」
薄いゴム手袋のようなものを装着するや、素早く一つずつ持ち上げて全体の構造を把握し、素材ごとに分割して観察し、また綺麗に形を戻す。目にも止まらぬ早業だ。
オレには一応見えてたけど。
「もちろん。再現には味覚情報も必要だろ?」
そういやこの二つって材料なんだっけ?ヒポ肉とか聞いたような?
「……うっまあああああああああああああああ?!?!!!」
そしてジーシャさんはホットドッグの最初の一口で一声叫ぶと、無心で食べ始めた。
あっという間に二つとも、完食。
「……完全再現は、難しいかも……できる限りは頑張るけど」
そう述べると、おもむろに紙を取り出し、丸く魔法陣を書き始めるジーシャさん。
「へえ、魔法陣魔法なんだ」
「最終的に量産するからベースは魔法陣に落とし込んで誰でも動かせるようにするのよ」
そんなのもあるんだな、と口にしたら、リケラから解説が入った。
魔法陣にはまず流麗な文字で食品名が書き込まれ、そこからコピーコマンド、材料と比率の指定、と続いていく。
推定するに肉の種類の部分で手が止まったので、どうもヒポ……確かヒポグリフ、はこの世界では少なくとも食肉としては知られていないらしい。
「少年、これ肉の種類何?食べたことなかったけどどっちも二種類は入ってるよね?」
「パティはヒポグリフと蹴撃兎、ソーセージはヒポとケートス、とか言ってたかなあ?割合はどっちもオレじゃ判らない」
「うわあヒポグリフ!?あのハゲ、こんな美味なのか!!」
「安宿、もしかしてサンドイッチのベーコン」
「あれはヒポじゃなくてドルメッセっていうにょろにょろした海獣」
前に聞いた解説ではそうだったはず。
って、この世界のヒポグリフもハゲで嫌われ者なのか……
「うわあ聞いたことない名前来た、いやこっちの素材には入ってない大丈夫」
「近似種……海獣でベーコン作れるっつーと鯨系か?ヒレ持ち?ヒレ足持ち?」
「ヒレ持ちだけど、顔はちょっとアシカっぽいと思った。北方の生き物にしては毛がなかったっけ」
記憶を思い起こしながらエルフたちに説明するけど、この世界にいない生き物の話を人前でして大丈夫かこれ?
「……ケートス……?あれ食べていいものなの……?」
そして、我に返った様子で手が止まるジーシャさん。ケートスいるんだ今の世界?
「死ぬしかなくなった個体を許可取って解体したもの、って聞いてるから多分大丈夫?」
「大胆すぎる……成程、製作者は人類じゃないな?」
「ケートスに関しては上位種からおすそ分けを貰っただけで、料理の製作者は一応人類だよ」
その辺の経緯は最初に食べた時に聞かされているから、そのまま答える。
「ふむ、まあ食べるのはあくまでもコピーなんだから問題ないか、材料よっぽどいいの持ち込まないと再現できなさそうだけど」
「〈フードコピー〉の仕様が判らないのでそこは何とも言えない」
「流石に完全な無から有は生み出せないって話よ。動力及び物質補完用として魔力と、触媒としてできるだけ近い属性の食材がある程度必要。全部じゃなくてもいいけど」
なるほど、無尽蔵に食品が生み出せる便利魔法って訳じゃないんだな。
「魔力が食材の不足部分を充当もするから、ふんだんに魔力を込めていいなら、材料は最低限でもいい。魔力をケチりたいなら、できるだけ材料は揃えるべき」
「割と庶民に厳しそうな魔法だった」
「働いてカネで買えばいいのよ。若い迷宮探索者の過半数は旨いものの為に戦ってるわ」
素直な感想を述べたら、世知辛い現実が帰って来た。
いや、旨いものの為に働く、は悪くないかもしれない。命がけなのを除けば、だが。
「庶民臭いこと言ってるけど、安宿、あんたこっち側だからね?魔力量の時点で庶民じゃないからね?」
「身分制度あるんすか」
「ない。レベル上げがエイジングになるからって、庶民も金持ちだった人も、ダメージ与えることができる人ならみんな迷宮に入り浸ってるし、収入格差はあっても実力とイコールだから」
詳しく聞いたら、地球に既存の武器でも倒せるモンスターがいるらしく、スキルや魔法がなくとも、余程の年齢や病気でそういったものを持てないような人以外は、皆レベリングに励んでいるのが今の世界だそうだ。
日本人こういう努力好きだしなあ、しょうがない。
男子あるある:自分の顔面に自覚がない。
なおケートスはおとモフ世界とほぼ類似のエルディム産種が現代の海にいたりする。




