第8話 姉ちゃんのお仕事と役場。
コンビニおにぎりで当面の白米欲は満たされたものの、ちょいと腹具合的に足りなかったので、前の世界で貰ったサンドイッチを三人分、取り出す。
あの世界にプラスチックフィルムはないから、皿の上に載せた形だね。
オレの収納に時間経過はないから、表面が乾燥しすぎるなんてことはないから問題ない。
「ナニソレ旨そう」
「サンドイッチ?……あんた料理はしないよね?」
素直に食欲が優先されるリケラ、姉ちゃんからは疑惑の目。
「友達に凄腕調理人がいてね、餞別にいろいろ貰って来た。
オレの収納、時間停止型だから心配しないで食べて?」
オレも一つ前の世界での放浪生活中に簡単なごった煮くらいは作れるようになってるけど、この世界で同じ材料が揃う訳でもないだろうから、そこはまあ言わなくてもいいや。
昼間ならコンビニも営業してるみたいだし、問題ないない。
「うっま……」
「ガチのお店のサンドイッチの味……」
そして二人もサンドイッチの味は絶賛だ。そうだよなあ、あの世界の宮廷料理人が教えを乞うレベルの凄腕が作ったシロモノだし……
ただ、いちばん旨いのは卵サンドなんだが、それは持ち出し禁止だったんだよなあ。
卵の提供者に断られるとかいう謎展開だったよね。
いやまあ、そいつらもただのニワトリじゃなかったけどさ。
「他にもなんかあるのね?」
「あるけど食いつくすのはナシだぞ」
「いや、フードコピーの人に提供できないかなって」
「……それはアリだな……?」
旨いものを皆でいっぱい食べられるなら、それに越したことはない。
あとはフードコピーという魔法の仕様がどこまで味を再現できるか、だけど、やってみなくちゃ判らないんだよなあ。
「今日はあたしは休みだからいいけど、リケっちは?」
「研究日だから実質フリー!……元勇者研究とかでもいいからねぇ」
腹と味覚を満たした女二人がこっちを見る。
「そもそも姉ちゃんの公的な仕事は何?リケラは迷宮探索者兼魔法研究者って聞いたけど」
「バリバリの専業迷宮探索者ですが何か」
「ですよね……職業として成立してるんだな」
当然のように探索者だと返されて、それが公認された職業だと把握する。
でも探索者にもいろいろ……いやビキニアーマーの性能に、このスキルと技能の構成はどう見てもソロ殴り勢だ……な……
「自己回復から身体強化まで一通り、物理アタッカー兼簡易盾役ってとこか」
「盾役も何も、普段はソロだからね。リケラと一緒の時は流石に盾も持つけど」
「結界術が苦手で済まないねえ」
「エルディムのエルフは原則アタッカーだからしょうがないわよ」
指摘したら、そんな返事だった。マジでソロなのかよ。
「そういう君のスキルと魔法の構成は……だめだ半分くらい文字化けしてる」
「流石に世界複数跨ぐとバグるらしいね。一つ前んとこでも文字化け指摘された」
まあそういうオレも、一つ前の世界で最後にできた友人たちと以外は、基本的にソロだったから、あんまり人の事は言えない。
そう考えて見比べると、成程[勇者代理]なんて称号も、さもあらん、だ。
姉弟だからスキル構成が似る、って訳でもないだろうけどなあ。
そうすると、オレのスキル構成も見える部分は姉ちゃんに近い方がそれっぽくなるな?
魔種系のスキルは慎重に隠してあるけど、リケラに見られたかどうか……
いや、そこが文字化けしてるなさては?
「とりあえず今日は役場かなあ。安宿の戸籍確認して住民票置きなおさなきゃ」
「あーそうだねー、今は住民登録ちゃんとしないと詰むもんねえ」
そういえばリケラたちエルディム系の人も住民登録とかちゃんとしてるって言ってたもんな。
恐らく迷宮探索者の報酬とか全部、住民台帳系で管理される社会になってる?
「今はウチの技術供与で、住民基本カードで報酬も買い物もひとまとめだからね」
「そういや直前にいた世界の小銭持ってるけど、扱いはどうなるかな?」
「特殊スキルでもない限り地金だねえ、貨幣はほぼ仮想化しちゃってるから」
でーすーよーねー、知ってた……
そんな訳で、女性二人に付き合って貰って近くの役場だ。
市役所の支部だった場所は、随分とその見てくれを変えていた。
「役場ってこんなに緑豊かな場所だったっけ?」
建物は三階建ての、見覚えのあるRC、つまり鉄筋コンクリート造りの、所謂豆腐建築なんだが、その壁面全体を、綺麗な淡い紫の花の咲く樹木が覆っている。
藤じゃあないし、なんだこれ?恵方巻のポスターあったんだから、冬のはずだよな?
建物の周囲も、いろんな、どれも見たことのない花が咲き誇っている。
「あー、ここね、うちの温室植物園があった場所がそのまま定着しちゃってねー。だから一月なのに暖かいっしょ?」
「何月とか教えたっけ?」
「コンビニに恵方巻の予約って貼ってあったから、一月だなぁとは思った」
そんな話をしながら役場の建物に入ったら、中にいた職員と推定一般人の、ほぼ全員に注目されたんだが?
「ちょ、ちょっと!リケ様アズ様が男連れ!?」
なんて声が聞こえてきたんですが?姉ちゃんとリケラ、アイドルなん?
思わず二人を見たら、揃って肩をすくめてきた。
なるほど、本人たちも割と不本意な奴、把握。
「お、おはようございますワカツキ様。本日はどのようなご用件で?」
「異変前に行方不明になってた弟がやっと帰ってきてね!
今の形式の住民登録はできてないはずだから今日は基礎登録をお願い」
窓口の女性と姉ちゃんは顔なじみらしく、そんな会話が展開される。
「弟さんなのですね!弟さんも探索者に?」
「今んとこその予定。じゃあ後は任せた」
その会話が終わるや否や、後ろから背中を押されて、窓口に押し出されるオレ。
なお周囲は、弟という単語をざわざわとリピートしている。
「姉ちゃん、押し出す気持ちは判るけど、オレあれ治ってないから、識字障害」
「え、レベル上がってもだめなの?」
「前いたとこで、先天性で治らない奴だって判定されたよ」
そう、手書き書類書けないんですよねオレ!
読む方はもともと大丈夫なうえに、異世界言語でもなんでも自動翻訳で読めるようになったから、電子書類なら署名以外は入力可能だけど!
「ああ、ではエルディム式の魔力パターン認識で認証する形がいいですね。
書類自体は電子版もありますが、読む方は問題ないですか?」
「ああ、書けないだけで読む方は大丈夫」
なんと、エルディムの技術も導入されているのか、手書きサインじゃなくても大丈夫になっていた。役場も進化するんだなあ!
……魔力パターン認識機がバチン!とかいって止まったのは想定外。
「あれー?アタシより魔力少ないから問題ないかと思ったらだめかー」
「確かにテリケラ様より魔力は少ないのですが、一部の属性が突出して高く、装置の想定ピークより逸脱したせいですね多分……うん、これなら再起動で大丈夫です」
「どれどれ……そうね、故障まではしてない。安全装置が発動しただけね。ちょっと一時的に帯域上げる処理するわ」
リケラは自分を研究者と言ってたけど、技術者でもあるっぽい?
完全に壊れた訳じゃないと判ったので一安心だ。
再起動後の認識機はちゃんと動作して、オレ専用だというカードを作成してくれた。
カードを一回作れれば、後は記録パターンとの照合だけでいいらしい。便利だな?
エルディムは魔法科学文明だったようで。




