第10話 買い物事情の変わりよう。
予定は変わるもの(
役場での用事は、魔法陣の完成とその再現テストに付き合った時点で終わりだ。
オレやリケラの魔力なら、最低限の素材でもほぼ同レベルの味が再現できたので、本当にこの〈フードコピー〉って魔法、破格のチートだなあ。
「まあ魔力補正が大きくなると、魔力提供者以外が食べると微妙に味が落ちるっていう仕様もあるけどね、このレベルで旨いものなら誤差だわ。
迷宮で高ランク素材を入手できれば、誤差は縮まるだろうし」
ヒポグリフが狩れれば文句なしねえ、とジーシャさんは述べた。
そして早速オレの住民カードには、新商品の提供とテストの礼金として、結構な金額が振り込まれた。
手元に使えるカネがあるってこんなに安心できるんだな……
「次がイケるようになったら教えて。多分この子まだ他にも持ってるから」
「ぜひぜひ!食の充実はやる気直結だからね!」
リケラとジーシャさんが勝手に何やら取り決めているけど、世間に旨いものが増えるのはいい事だとオレも思っているので、頷いておく。
〈フードコピー〉の新規魔法陣作成には三つ作るごとに三日~一週間のリキャストタイムが設定されているんだそうで、今日は物理的に打ち止めらしい。
その日は魔力消費が結構多かった(再現テストで複数回、できた魔法陣に突っ込んだからね、作成したものは職員さんがたにも試食して貰った)から、迷宮はナシ、ということになった。
帰りは小転移でも良かったけど、時間はあるからと歩いて帰る。
日本は、今は迷宮対策を中心とした生活にすっかり順応しているんだという。
近所のどこか見覚えのあるような、でも絶対この顔では見たことがないぞ、っておばさんとすれ違ったら、あれは実家の三軒隣にいたヨネばあさんよ、と姉ちゃんが教えてくれた。
嘘だろ、あの人八十超えてたじゃん!今通りすがった人、どう高く見積もっても五十代前半だよ!
そこまで若返るんだ……?
流石に赤の他人のステータスを勝手に覗き見したりはしないからね、判らんかった。
姉ちゃんは身内だからノーカンだし、リケラの時は先に見られてるから見返しただけだよ!
迷宮の前を通りがかったら、事務所も入り口も、やっぱり閉じたままだった。
「ここは先週大掃除したから、最短でも来月まではお休みかな」
「町の中にある迷宮とか危ないからね。
定期的に役所の職員とか高レベル探索者で中層まで巻き狩りして、スタンピードの兆候を抑え込むのさ」
「壊せないのか?」
「ここのはコアが激烈深いんで難しいわね」
なるほど、高レベル探索者でも届かない場所にコアがある?
「……つまり、コアが壊せれば迷宮は消える?」
「ええ。あんたならやれるかもね。ここを攻めあぐねているのって、収納持ちが少なすぎて補給が滞るせいだから」
言われて考える。
今の収納の食料の手持ちだと……ソロなら三か月くらいかなあ、活動限界。
水は一つ前の世界で覚えた〈湧水〉が使えるからそれでいけるはずだし。
「今ある収納の中身全活用して三か月くらいかな」
「それは勿体ないから普通の安くておいしいご飯入れてからにしよ?」
回答したら食い気優先のリケラにダメ出しされた。
「それは言えてる。というかコメ抜きの生活はもう無理、コンビニ寄っていいすか」
「おっけー!」
「あたしもちょっと買い足しするからいこっか」
意見が一致したので、帰還して最初に見かけたコンビニに行くことになった。
「いらっしゃいませーこんにちはー!」
「おおう?」
入店時の音楽やら、店員の挨拶は聞きなれたそれだ。
だが、店内の様相は思ったより変わっている。
棚の構成やら品揃えが、なんか随分と、違う。
店員のいるレジカウンターの背後に並んでいるのは、たばこやレンジじゃなく、小型の武器や薬品の並んだ、魔力を帯びたガラス扉の付いた棚だ。お、ポーションが複数種類あるな?
デリカ棚やらチキンや蒸しまんを入れていた保温ケースはなくなって、魔法陣が刻まれたトレイに、見本の写真が付いている。
これは材料費を支払い、自分の魔力で温食を生成する魔法陣だそうだ。
ポテチなんかのお菓子はそのまま売ってるけど、これも複製品ではあるらしい。
「恵方巻が予約なのって?」
「ほらここ、茂崎なんて地名の癖に内陸でしょう?魚類のストックが少ないのよ、そこの迷宮でも魚は出ないし。
肉や豆を魚に変換するより、他所から収納持ちが運んでくる方がコストが安いの」
理由を説明されてしまえば納得だ。
川魚と海魚の変換でも良くないか?とは思うが、この地域はあまり大きな川もないから、生息する魚のサイズも小さい。
結果、豆あたりと変わらないコストになってしまうんだそうだ。
「鯉の養殖の目途が付きましたから、来年あたりからはそこも改善できそうなんですよ」
店員さんからはそんな声が掛かった。
「予約受付のあれこれは季節感測るのにいいんだけどねえ。探索者やってると生活が不規則で、曜日感覚とか季節感覚が怪しくなるから」
「ええ、そういうお声も多いので、今後も季節ごとの張り紙は継続する予定です」
この辺り一帯は、エルディムの大植物園と重なってしまったせいで、年中丁度良い暖かさになってしまったのだという。まさかの、常春。
だもんで季節感を偲ぶ人たちから、そういう要望が出ているそうな。
魔力と小銭の続く限り、お弁当やらおにぎりやらを買い込むつもりでいたけど、お店の材料ストックの都合もあるから、ある程度までで抑える。
「無理にいっぺんに買うとシステムエラー出るから程々で」
と、リケラにも注意されたので!
あとは飲み物も適当にセレクト。コーヒー、炭酸飲料、エナドリ。
この辺はオレのいた異世界だとどこでも、なかったりレアものだったりしたからな。
天然炭酸水はあるけど、炭酸保持して輸送するのが難しかったりとかね。
「……カレーも長らく食べてないんだよなあ」
「あ、じゃあ今日はうちで晩御飯カレーにしよう!」
そういえばこれもあの世界にはなかったんだよな、と呟いたら、姉ちゃんが反応した。
「じゃあスーパーも寄らないとか」
リケラも頷いて言うので、実家に近いスーパーで買い物して、晩飯は実家で作るという事になった。
スーパーの方は、割と普通に野菜や肉を売っていた。
但し肉の種類が半分くらいモンスターのそれだ。魔兎とか、魔猪とか、魔鴨とか。
「……魔鴨?カモの魔物ってどんなの?」
「でっかくてもちふわで狂暴なかわいこちゃん」
「あの凶暴さがなかったらペットにする人とか多そうなんだけどねえ」
なるほど、見た目はファンシーでも人間には御せないモンスターか。
それでも繁殖率が鶏より高いらしく、お手頃に手に入るのは魔鴨の方なんだそうだ。
「鶏はどうなの」
「コカトリスは食えないんだよ」
「採卵鶏と天然記念物系は政府と農家さんの努力で維持されてるけど、肉用種育てる余裕があんまりない感じ」
「飼料の問題かあ」
「野菜も農産物としては通年提供できるものとそうじゃないものにきっちり分かれちゃったしね。
この辺りは温暖になったんで、冬野菜が出回りにくくなっちゃった。
逆にトマトやピーマンは通年露地栽培できるから他地域に出荷もしてる。
入手手段が他にもあるから高騰はしてないけど」
そんな話をしながら、見覚えのある食材を中心に買い込んで、ついに帰宅だ。
昨夜はリケラの家に泊まったから、帰還後初実家だぞ!
なお野菜も肉も地上産の方にプレミアが付いてはいる。




