第11話 懐かしの実家で、カレーを。
つくるよ!
現在の実家は、姉ちゃんが茂崎での拠点として使っているのだそうで、姉ちゃんが手も触れずにカギを開けて中に入る。
ん?何かの認証システムがオレに作動したぞ?ハイテク?いやこれ魔力式だ。
「よし、これであんたも解錠可能になったから、好きな時に帰ってこれるわよ!
でも、あんたの部屋は最後にいた時のままだから、ちょっと掃除しないとだめかも」
普段そこまで気を使ってる暇なくってねえ、と姉ちゃんが殊勝なことを言いつつ、台所に向かう。
いや、姉ちゃんは性格のわりに生活は堅実かつ家事はなんでも出来るタイプだったから、その辺は変わってない、の方が正しいんだろう。
「部屋があるだけで御の字。掃除は……あ、〈クリーン〉が使えるな。直前にいたとこでは使えなかったんだけど。これはラッキー」
直前にいた世界では、スキルはともかく、魔法の仕様は本当に制限がきつくって、その前の二つの世界で覚えてた魔法がほぼ全部使えなかったからなあ。
転移魔法だけはその世界を蝕む黒幕をブチ倒したら使えるようになったけど。
それでも、異世界の間を飛ぶためには、何年も研究と研鑽を重ね、友人たちの助力を得る必要があったしな。
「ナニソレ素敵。今度うちの掃除のバイトして!」
「リケラんちの掃除?ってあの森?」
「ううん、研究室!物理で掃除する人を入れると高確率でコンタミ起こすからさあ」
なるほど?よく判らんが、小銭収入があるならと承諾する。
野菜はタマネギ、ニンジン、ジャガイモ、セロリ。肉は今回は魔猪肉だ。
「魔猪っていっても肉質はほぼ豚肉で使いやすいのよ。ここいらの迷宮、牛系はいるけど低層すぎるせいか、ドロップが悪すぎて品質がレベルなりのくせにちょっと高いし」
「うちのカレーは昔からチキンか豚っしょ」
「そうそう!だから今日は実質豚よー」
同級生の家なんかは圧倒的にカレーはビーフ派が多かったけど、うちは母さんが牛脂で胸焼け起こすからって、いつも鶏モモか豚だったからね、カレー。
その胸焼けの本当の原因が、病気のせいだったって、母さんが倒れるまで誰も気付けなかったんだよな……
父さんの方はといえば、それより前に事故で死んでいる。
ただ、この事故は相手が百パーセント悪い案件な上に相手が社用車だったんで、個人はともかく相手側の会社からの賠償金で、オレと姉ちゃんは大学まで行くことはできた。
オレは召喚による二回の失踪で、入っただけで出られなかったけどな!
「そういや学籍どうなってんのオレ?」
「残念ながら大学自体が廃校よ。あの学校のど真ん中にも迷宮ができちゃったの」
なんとまあ、学校自体が物理的に無くなってた。
「違うトコで復学したいなら学籍簿の再発行はできるけど」
「現状だと要らないかなあ。今の知識でコンビニにあったポーションは解析可能だったから」
面白い事に、体力用ポーションは最初に召喚された世界の物とよく似ていたみたいで、成分解析ができたんだ。魔力用は知らない成分が入ってるとしか判らなかったが。
「解析?鑑定じゃなく?」
「両方ある。鑑定は勇者なら鑑定でしょう!って謎の理屈で最初の召喚先で貰ったんだが、解析はどうも自前らしいんだよ。
ただ実際に薬を作ろうとすると、計量に謎のマイナス補正が付いてるらしくてまともに完成させられなくってさ、薬剤師は無理だなって感じになっちゃったんだ」
この計量関係にマイナス補正があるのは、ひとつ前の世界で発覚したんだけど……原因も謎なら、治せるかどうかも謎って奴でね。
まあいろいろチート特盛りのオレなんで、そこら辺のマイナスで何かの調整をしてんじゃね?とは仲の良かった友人の言葉だ。
「ってことは料理もだめそうかー」
「軍隊スープ的なごった煮くらいしか作れないね。冷蔵庫の残り物処理みたいな」
「成程、アバウトでも結果が出るモノならいけるんだね」
計量自体が無関係な、洗った野菜を乱切りにする、くらいはできるので、ニンジンとタマネギはオレが担当した。重量測るのはダメだけど、サイズの認識は可能なんだよね。
ジャガイモの皮剥きもできなくはないけど、気が付いたら姉ちゃんが全部剥いてた。
セロリは細かく刻むので姉ちゃんにお任せして、別のまな板を用意して、こちらはブロック肉を角切りにする。
「……やっぱバグっててもレベル高いわね。その肉、生だと低レベルの人は切れもしないのよ」
「……そんな仕様なのこれ?流石モンスター肉というべき?」
豆腐みたいにさくさく切れて柔らかい肉だなー、なんて思ってたら姉ちゃんからそんな指摘が入った。
加熱しちゃえばごく普通の肉になるので、低レベルの人だと茹でたものを買って使うらしい。
そういや茹で肉の塊も売ってたな、見た時にはなんでだろうと思ってたんだけど。
なおこの間、リケラはにこにこしながらオレたちを眺めているだけだ。
料理、しないタイプか?
油を敷いた鍋で塩コショウした肉の表面に焼き色を付け、ジャガイモを含む野菜を炒め、スープの素と水を注いで煮込む。
ローリエなんてものは流石に最近は手に入らないのかと思ったら、国産品があるんだとかで、こいつも投入。
そういや温帯で育つから、一つ前の、熱帯地方が長らく人類圏から外れてた世界にも漂着当時からあったっけ。
カレールウは市販のものだ。隠し味には醤油。
「流石にカルダモン単体は手に入らないわねえ」
「あれ熱帯植物だもんなあ。コリアンダーはこの気温ならこの辺りでも育つだろうけど」
「パクチーの種だもんね」
パクチーの匂いは余り好きじゃないが、種であるコリアンダーの香りは結構好きなんだよな。
なんであんなに香りが変わるんだか。
ごはんは今日は冷凍してあるものを解凍した。
姉ちゃんはそういうところも割とマメな人だ。
これまた千年ちょっとぶりのカレーは、確かに記憶にある、我が家の味だった。
ジャガイモも一緒に煮て、煮崩すのがうち流なんだ。
……本当に、帰ってこれたんだな。
「どしたの安宿、美味しくない?」
「ううん、美味しい。記憶通りのうちの味だもん。……本当に帰ってこれたんだな、って」
「少年、意外とナーバス?」
「いや実は先日までいたとこ、コメもなければカレーもスパイス不足で作れない有様でさあ」
「あー、それはしんどいな……」
リケラも何のためらいもなくオレたちと一緒の食卓でカレーライスを食べているけど、なんとカレーがないのがしんどいのは判る、などと言い出した。
どんだけ日本の食に染まってるんだこのエルフ?
食事も無事に終わり、後片付けも済ませたら、これも千年ぶりの自分の部屋だ。
……なんにも変わってない、らしい。
ホコリが結構溜まっていたから、早速〈クリーン〉の魔法で綺麗にする。
うん、問題なく掃除はできるな、誤作動もしてなさそう。
夕食の間に相談した結果、明日はオレも姉ちゃんの仕事に付き合って迷宮に潜ってみることになった。
資格とか要らないのかと思ったら、高レベル引率者と入るときには、簡単な届け出をするだけでいいらしい。
そういや姉ちゃんベテラン探索者なんだよなあ。ビキニアーマーだけど……
いやあの装備、初心者が着られるようなもんじゃないもんな、見た目がアレなだけで……
取り合えず今日は休んで、明日に備えるべき、だよな。
リケっちは普段は料理しない人です(できないわけではない)。
そしてアスカのスパイス知識は主に前の世界のプラントハンター女子のせいですね。
学校がなくなったのは迷宮と魔法とレベルシステムによる環境の変化も原因。
計量をミスるんじゃなく、重量を計ろうとすると自動失敗するエラー因子が云々。




