第12話 隣の市に移動しよう。
やっと迷宮に向かうでござる。移動回。
翌日も、昨日とほぼ同じ時間に目が覚める。
これは一つ前の世界に漂着してから、普通に眠った日なら、ずっと同じ時間だ。
寝ないで活動することもあったけどね、一つ前の世界では殆どなかったし、そして帰還した今は必要ない、はずだ。
あと流石に不老不死ではなくなったし、そこまで無理しない方がいいようなイメージはある。
とはいえ、多分並の人間よりは丈夫なままのはずだ。レベルの表示はないけどなんかカッ飛んでる気配だし。
「おはよう少年」
「少年って歳でもない気がするが、おはよう」
「流石に二百年どころじゃなく年下だとネー?」
ごめんオレ、戸籍上はともかく、主観時間でならリケラより年上。言わないけど。
……いや、『どころじゃなく』?
「……エルディムのエルフって寿命なかったりする?」
「わおご明察!年金制度が崩壊するってお役人に泣かれた!まあ千五百年くらいしか生きてないからアタシは若造だけどね!」
訂正。オレより本気で年上だこのヒト!
「他所の知り合いでも千年越えはあんまりいないレベル」
「お?お?その辺もいつか聞かせてくれる?他世界の情報も集めてるから」
リケラ曰く、衝突時の混乱が収まってくるなら、他世界からの漂着や侵入の可能性を考慮した方がいい、のだそうだ。
確かに前の世界でのオレの友人達には、元の世界を侵略的崩壊で失った奴らがいたしな。
その話を聞いた時には、そんなむやみに他世界に手を延ばす奴がいるのかと驚いたが。
よく考えたら異世界から人間を召喚するのも干渉なんだよなあ。オレ二回もやられたけど!
「うん、伝聞も含めればそれなりの情報は出せると思う。環境が落ち着いてからにしたいけど」
「だよね!そろそろアズちんも起きるから朝ごはんの支度するねー」
そう言いながら、冷蔵庫から勝手知ったる様子で何か取り出すリケラ。
「やっぱりあった!消費期限は大丈夫だからー」
手にしたのは豆腐だ。ロングライフパックって書いてあるけど消費期限は数日後。
「みそ汁と冷ややっこどっちがいい?」
「みそしる」
ここは即答だ。
そんな訳で、朝ごはんはコンビニおにぎり(シャケとツナマヨ)と、わかめと豆腐と葱の味噌汁になった。
「おにぎりなんだ」
「ごめん流石に白ご飯は炊かないともうない」
調理途中で起きてきた姉ちゃんにてへぺろされた。
すみません懐かしすぎてカレーライス二回おかわりしたオレのせいですね!
「もうちょい動物性たんぱく質が欲しいかなあ」
動き回る予定だからな、と、自分のストックからコンビニ再現シリーズの揚げ鶏を取り出して配る。
「む、揚げ鶏だ!」
「この辺あのコンビニないから貴重……わあガチで同じ味じゃんこれ!」
「同じなのか。違うトコ出身の奴のコンビニ再現シリーズなんだけど」
いい食材で限界まで元のチープさを引き出すとかいう謎技術。
といっても使用されている肉は一つ前の世界で普通に流通していた鶏肉だ。
あの世界もブロイラー生産する技術、あったからなー。
取り合えず揚げ鶏は現状の世界でも同じ味が維持されているらしい。
姉ちゃんが引っ越した方の市じゃないとあのコンビニないけど。
「世界をまたいでも同じ味。コンビニパワーやばない?」
「海外の地名が結構違ってたから、分岐した同根世界ってわけじゃなさそうなんだけどなあ」
実際コンビニ再現シリーズとして渡されたものには、全然見たことないものも含まれている。
なんすか山賊揚げって?ブツとしてはこれもチキンで、美味しかったけど。
腹を満たしたら出発だ。
施錠はオート、というより住人指定された人間が出入りするときしか鍵が開かない仕様だそうだ。便利だな?
「物理鍵は宝箱解錠用のアンロックで開いちゃうからね……」
わあ、世知辛い話だった。でもさもありなん?
尚オレも〈解錠〉は、実は使える。隠蔽してるけど。
宝箱がダンジョンで出るなら使うかもな?くらいの奴で、実際に使ったことは実はないんだが。
……なんで勇者セットに含まれてたんだよコレ。
オレの過去への些末な疑問は置いておいて、隣の市、姉ちゃんが結婚時に移転した垂水市への移動だ。
電車はないけどバスは走っているというので利用することにする。
幸い昨日貰った報酬でお金はあるからな。
ごく普通のバスが、ごく普通にバス停に到着する。
乗り込んだら魔力認証。収納に入っている住民カードにアクセスがある。
「収納の中のものもアクセス可能なのか」
「住民カードが例外処理されてるの。他のものは他人からは干渉不可だから安心して」
「住民カードだけは収納持っていない人でも格納できるようになってるしね」
なんと、あのカード自体が特別仕様らしい。
収納のカードを確認したら、カード自体に空間属性が張り付いてた。すげーなこの技術。
バスの動力は今は魔力だそうだ。
運転手さんには魔力の高い人が重宝されている。
魔力が高くても有用な魔法を持っていない、そんな人に人気の就職先でもあるそうだ。
茂崎から、町の領域の外に出た瞬間、周囲の風景が変わる。
まっ平な土地は早春の草原。真ん中に川。あの川自体は前からあるもののはずだけど、平たい土地の真ん中を堤防もなく流れるような川ではなかったはずだ。
橋は昔と同じ形のものが掛かっていて、その土台部分にだけ、堤防だったものが残っている。
反対側の垂水の手前もまっ平っぽいけど、そちらには鬱蒼とした森林が川沿いに続いている。
「この橋が残ったのは幸運だったよねー」
「これがないと陸の孤島だもんね茂崎」
女子二人の会話によれば、どうも他の場所には橋すら残らなかったらしい。
なおバスの中には他にも何人か乗客がいるけど、皆武装している。
全員迷宮目当て?
「きっちり武装してるヒト多いけど、皆迷宮なん?」
「この時間から動く人はだいたいそうだねー。そういや少年の防具どうしよう」
オレの今日の服装は、自室にあった昔の着替えから、薄手のトレーナーとチノパンだ。
あと防風仕様のパーカも持ってきてる。一月でも暖かいのは流石に地元だけらしいんだよね。
……ホント言うと、気温変化、今のオレには何の影響もないんだけどね。
周囲に合わせておこう、ってだけの話だ。
「多分収納のが使えるから問題ない」
「流石に持ってるかあ」
はい、千年バトルでも損耗しなかったトンデモ防具が眠ってます。
一つ前の世界だと結界魔法だけでどうとでもなったし、見た目がクソ派手だから、最近全然使ってなくて。
バスが再び人の営みの世界、つまり市街地に入る。
ここも見た感じはオレが見たことのある垂水市、そのまんまだ。
ところどころに謎ジャングルできてるけど。
「こっちはずいぶんと緑が多くなったね?」
「世界樹の森林地帯がかぶさったのよねココ。世界樹そのものは行方不明になっちゃったけど」
世界樹かあ……最初に召喚された世界にもあったな。
……ん?
行方不明とリケラは言ったけど、あるじゃん、ここに。
但しその場所は地底深く、遥か遠い場所だ。
……これ地球さんと同化してない?
そう認識した瞬間に、周囲から入ってくる情報が変わる。
わあ、ジャングル部分や河原の森、全部世界樹の末端だコレ!
「……んんん?世界の情報更新???……え???世界樹????ここにあんの???」
何らかの機能で世界樹の情報が更新されたリケラが鳩豆顔だ。
オレもそんな顔がしたい気分だ。
称号に、なんか増えたぞ。[世界樹の守護者]って?
……隠しとこう。
エルディムは高度魔法科学文明だった。
茂崎はなんとか郡茂崎町ですね(郡まで設定してねえっす)




