第13話 いざ、迷宮。
やっと迷宮だよ!!
突然の事態に首をかしげるリケラを姉ちゃんが引っ張って、予定のバス停で降りる。
茂崎から川まででぼちぼち増え続けていた乗客もほぼ全員がここで降りた。
そしてここから乗り込んでいく人たちも、皆武装している。
ファンタジー的な鎧やローブの類を着ている人が大半だが、サバゲ勢みたいな戦闘服の連中も結構いるのがなかなかカオスだね。
降りたら真冬ってほどでもないけど結構気温が低かったので、パーカを羽織ってフードも被る。
うん、いい感じに不審者かも。
茂崎の迷宮入り口の倍くらいの幅がある大きなコンクリ製の、扉の付いた四角い建物は、やはり扉は厳重に封じられている。
そしてここの管理事務所も一見するとプレハブだ。但し大きさは茂崎のそれの五倍はある。
「こっちは食材がとにかく良く出るから人気なのよね」
「ここ、植物系が多いから、いずれ今はない香辛料が出るんじゃないかって噂もあるし」
成程、迷宮によって出るモノが違う。
そうだな、ここが一番世界樹の中心に近い迷宮だから、世界樹の影響を受けていてもおかしくはないな。
すんなりそう納得してしまったのは、どうもさっき付いた称号の効果であるらしい。
「おはよーございます!今日は弟の引率に予定変更です!」
「おはようございますワカツキ様。弟さん?ですか?」
「初めまして、夜楠安宿といいます。若附東后の実弟です」
入ってすぐに受付がある。
姉ちゃんの挨拶の後、リケラに促されたので、名乗って魔力認証。
ほう、ここではエラーは出ない。参照するだけだからか?
「ああ、昨日通達が来てた方ですね、成程確かにこのピークは調整も要るはずです」
どうやら役所間でオレの情報が飛んでたらしい。まあ機器が壊れたらまずいからね、しょうがないね。
「レベルの数値が見えないですが、どこまで行かれます?」
「あたしの最終到達層でいいと思うわ」
「いきなりですか」
「ああ、だいじょぶだいじょぶ、この子他所で多分結構場数踏んでる」
「今の到達層もトラップはないから大丈夫だと思う」
「では仮パス発行と最初の説明をしますね」
そんな感じで簡単な情報交換がされたのち、住民カードに付与する形で仮パスが発行された。
このパスに書かれた指定層までは入ってもいいですよ、という事らしい。
これを攻略して次の層に行ければ、そのまま正規パスになるんだって。
但し再発行は効かないし、一定以上の攻略貢献が認められないと正規パスへは変換されないとの事。
あとは
・探索者同士の私闘はこの迷宮では不可能である。
・ゴミとドロップ品は可能な限り持ち帰る事。迷宮に吸い取られると迷宮が育つ可能性があるため。
・万一吸い取られてない探索者の死体を発見した場合は可能な限り持ち帰る事。
・迷宮の出入りに転移魔法は使えない。但し最寄りの開通済み転移ゲートに戻る事は可能。
などが基本ルールであると伝えられた。
……つまり迷宮ごとに細かいルールが違うし、探索者同士討ちの可能な迷宮も、あるな?
プレハブ事務所の最奥、迷宮入り口の建物に接しているところに、魔法陣が書かれている。
ここからロビーと呼ばれる場所に飛ぶんだそうだ。
「ロビーは固定なんだ」
「そうね、そこから更に各々の希望する層に、これも魔法陣を使って入っていく形」
オレが仮発行を受けたり説明されたりしている間にも、十人程の単位で武装した人間が飛ばされて行き、逆に数人ずつ、そのもう一つ横の魔法陣から戻ってくる。
「魔法陣は行き来共用だと混雑するんで分けてるの」
リケラの簡潔な説明、リキャストタイムこそなさそうだけど、この人数だったらそうなるのは納得しかない。
なお、同じ構造の部屋が四つ並んでいるそうだ。超人気。
「あの見せかけの入り口は?」
「スタンピードが確定してしまった時の為のモノで迷宮入り口の共通仕様ね。
迷宮を食い破って出てくると、どこに出るか判らないから、あそこに誘い込んで殲滅するの。垂水で使われたことはないけどね」
「思ったより殺伐とした理由だった……」
地上に出てしまうと、フレンドリーファイアが有効化されてしまうそうなので、魔法使いがまず入り口に可能な限りの殲滅魔法を撃ち込んだのち、肉弾戦だそうだ。
なお地獄の釜の蓋が開いたと形容されていた二か所には、常時自衛軍と旧エルディムの主要国家のどこぞの軍が陣取って、戦略兵器と殲滅魔法を昼夜ぶち込み続けているらしい。ガチの地獄だってよ!
ハードコピーの魔法がなかったら資金切れで詰んでただろう、だって。こっわ。
十人乗ると、魔法陣が自動で起動する。
少ない時は手動だそうだが、ここ『垂水第一迷宮』の入り口ではまずそんなことは起こらないという。
飛ばされた先のロビーは、かなり広い空間だった。
あちらこちらにモニターがあって、階層の混雑状況や危険度数が表示されている。
オレたちが現れた瞬間に空気がざわりと動く。
……聞こえてくる声がやっぱりあらかた『なんでアズ様リケ様が男連れ!?』なのは、もう草も生えない。
「よぉアズ、45層行き詰ってるとは聞いてたが、普段着の初心者引率するほど暇なのか?」
そこに声を掛けてきたのは、紫の髪をモヒカンに突っ立てた、やけにガタイのいい兄さんだった。
っつか装備が完全に某世紀末漫画仕様なんですが?
迷宮探索者、予想以上にフリーダムだなこれ?
「聞いてよツッチー!とうとう弟が帰って来たの!んで今から実力検証!」
「え?アズの弟?って異変前に行方不明になってた?」
どうやらオレが二回目の召喚を食らって異変が発生するまでの間に既に知り合いだった人物らしく、彼は驚きながらも嬉しそうな顔をしてくれた。
「夜楠安宿です。姉がお世話に?」
「迷宮沸いてからは俺っちが世話になってた方だな!姓と名前どっちで呼べばいい?」
「アの音被ると非常時に聞き取りづらいからヤグスって呼んじゃって」
「姉ちゃんが決めるのソレ?」
「この迷宮ではあたしが先輩!そもそも弟は姉に従うもの!」
「アッハイ」
雑に応答していたら、やっぱり『弟』という単語がざわざわと伝言ゲームされていく。
「あ、俺っちは土田逸聖。イツキの同僚だったんだ、宜しくな」
「はい、改めて、よろしくお願いします」
そうか、五斎さんの同僚か。それなら姉ちゃんの知り合いでもおかしくはないな?
最初に召喚されたときに、オレを捜索するために、ある程度自分の会社や五斎さんの会社の同僚の手も借りたと聞いてるし。
そんなやり取りのあと、いよいよ迷宮に侵入だ。
この『垂水第一迷宮』は、現状で最高踏破階層は45層。今まさに飛ぼうとしているところだな!
「いきなり最深部は草」
「スパルタってレベルじゃなくねえ?」
土田さんとその仲間から疑問が飛ぶ。
「この子、文化包丁で生の魔猪肉を豆腐みたいに切るから多分イケる」
そしてリケラの解説はこれだ。
リケラが夜手伝わなかったの、オレをチェックしてたから、だったのか……
「装備は?」
「結界魔法がそれなりに使えるんで、瞬間移動する奴がいないならいける?」
「だとしたら中ボス次第ねえ」
中ボスいるんだ。
そういえば、システム的な説明は聞いたけど、どういう場所かとか全然聞いてないな?
と思っている間にも姉ちゃんたちに付いて歩いていたせいで、気付けば魔法陣からすっ飛ばされていた。
いやまあ、苦手なモンスターとか特にないから問題ないだろ、多分。
リケラが料理をしたりしなかったりには、それとは別にかなりどうでもいい理由があります。




