第14話 いきなりの45層。
Q:そんな甘いというかユルい事で大丈夫か?
『垂水第一迷宮』は、現状では50層を超えている、としか判らない、未踏破大迷宮だ。
それ以外、第二から第五まであるという小・中規模迷宮は底まで踏破されてはいるそうで、未踏破はうちから通える範囲だと、ここと茂崎第一・第二迷宮の三つだけだという。
踏破された迷宮は、不要なものはコアを完全に破壊され、破却される。
コアが破壊された迷宮は、内包していたすべての外来者を地上に放り出しながら消滅するんだと。
取り扱いしやすい食料や有用な資材が確認された迷宮は、踏破後もコアにヒビを入れて増殖不可能な状態にして維持される。
これはエルディム世界での常識に従って運用されていて、この今の世界でも同じ、だそうだ。
問題はこの界隈に残った未踏破の迷宮が、どちらも順調に成長し続けていること、であるらしい。
「成長速度の速い、もしくは成長期間の長い迷宮にはダンジョンマスターが存在する可能性が高い。
それを解放してやらねばならんのさ」
種族伝統の戦闘用衣装だという、透けそうなくらいの薄手の布、戦場的というよりは煽情的なデザインの、金と宝石の装飾をふんだんに使った衣装のリケラが、地上でのギャル系仕草を捨てた、真面目な口調で語る。
この迷宮のダンジョンマスターとは、地上の知的生命体を拉致して、ダンジョンコアに隷属させ、その知識をコアが奪い取って迷宮の成長に反映させるもの、だそうだ。
そして、この『垂水第一迷宮』のダンジョンマスターは、恐らく茂崎に本拠地を置いているスーパーマーケットグループの創始者で、当時は垂水に住んでいた名誉会長だった人だと推測されているのだそうだ。
成程、だから食材系迷宮?
到着してまず最初に見かけたのがですね、ごろんごろんと推定進行方向から爆速で転がりながら接近してくる巨大なキャベツでしてね?
なお背景は疎林だ。通れる場所は獣道よりはちょっと整備されてる感じの、土がむき出しの田舎道。
「……キャベツ。」
「踏まれると痛いわよ、あんなんでも」
「だろうねえ、うーん……〈防壁〉」
まっすぐ突き進んでくるキャベツに向かって、まずは物理防壁を立ててみる。
うん、最初の世界で覚えた魔法はあの世界のキーワード詠唱で大丈夫。
どっかん!とばかでかい音を立てて、巨大キャベツが魔法で生成された半透明の壁にぶつかり、べろんと外側の葉が剥がれ落ちてから、ざらりと崩れて消える。
……え?衝突ダメージだけで昇天すんのお前?この45層って結構深いんだろ?
巨大キャベツが消えたあとには、大玉の立派なキャベツが四個、地面に転がっていたので取りあえず回収する。
冬キャベツかと思ったらこれグリーンボールって奴だな?
「……成程、奴の速度で自滅させればいいのかー」
あたし防護系苦手だからあのキャベツめんどくさかったのよねえ、と姉ちゃんが呑気な口調で述べる。
「あれ転がり続けるからアズの手札だとやりにくいのよねえ」
「魔法で倒すと地味に味が落ちるのがいやらしい」
「ああ、グリーンボールとか春キャベツって加熱しない方が旨いしなあ」
魔法で倒すとドロップ品の味と評価が落ちるんだそうだ。
これが原因でこの階層を進みあぐねていた訳でもないだろうけど……
時々転がってくるキャベツのドロップは、キャベツ各種だ。
春キャベツも冬キャベツも芽キャベツもあったし、なんなら縮緬キャベツなんてレア品も混ざってる。
「収納無制限じゃないとドロップ品で荷物が埋まって、途中で帰る羽目になるのよねえ。
ゴミ捨て禁止なのはさっき聞いたでしょ?ドロップ品の放置も原則禁止だからさー」
「これで毎回中盤で帰る羽目になってんの、アタシの収納にはキャベツと大根が物理的に重い!」
成程???
「で、少年。転移魔法まで持ってるなら収納は無制限だよね?」
「転移育ててたら無制限になったね……」
「よっしゃこれで抜ける目途が立ったわ!」
まさかの:ドロップ品の収納ルールが攻略停滞の原因。
流石にこれはある程度改善要請した方がいいのでは?いや改善って誰にだよ。落ち着けオレ。
「何がいやらしいって、キャベツ狙いなら垂水第三の低階層で事足りるってことなのよ」
「確かに品質はここの方がいいんだけどねえ……」
姉ちゃん的にもうまみがない、ということでもあるらしい。探索者、結構世知辛い職業だな?
「低層ならポーターを雇うんだけど、30層越えられる人が居なくてさ」
「安宿が帰って来ただけでいきなり問題が解決するなんて想定外だけど有難いわー!」
キャベツ以外の敵はというと、えっほえっほと走ってきては謎のエフェクト付き開脚飛び蹴りをかましてくるセクシーダイコンと、いきなり自ら地面に埋まり、仲間に引っこ抜かれた瞬間に状態異常をシャウトするファンキーニンジン、こいつは常時三~四体セットだ。
あとは通路際から芋を地雷のようにセットして爆破してくる爆弾ジャガイモと、何故か必ずジャガイモとセットで生えていて、青くて硬い実だけをぶん投げてくるワイルドボアトマト。
重たいものばっかじゃねえか!!
ま、オレの収納にはホイホイ収まるんですがね!
なお姉ちゃんたちが倒すのに難儀するのはキャベツだけで、後は普通にサクサクと斬り倒していくので、オレの仕事はたまに壁を立ててキャベツを受け止める作業とドロップ品の回収だけだ。
リケラ、魔法アタッカーかと思ってたら弓も使うんだってよ。ジャガイモトマト連合を全部仕留めてた。
最初に会った時に提げてた銃みたいなものが、魔力を込めて展開したら美麗な弓になったんで、ちょっとワクワクしたのは秘密だ!
「収納内にコンテナ仕込みたくなる程度に多いね……」
実際折り畳みコンテナが数十個、何故か詰めてあるから出すときに使おうかな。
「流石に収納内ではその種の作業はできないよね?」
「そこまでは無理。先にコンテナ出してそこに出す、が関の山?」
「収穫物収納用のボックスは集荷所にあるからそこは大丈夫」
成程、折りコンはまだ収納の肥やしでいい、把握した。
ファンキーニンジンの叫ぶ状態異常はおよそ二分ほどの気絶・五分続く麻痺・数秒の石化、薬か魔法じゃないと治せない静寂の四つからランダムでひとつだそうだ。
即死はないだけ有情だけど、そもそも姉ちゃんは装備の付加機能で無効化、リケラは耐性を装備の宝石で底上げしてるので無効、オレは状態異常は完全耐性ありなので全くの無意味だ。
ちょっと可哀そう。
「このランクの状態異常も完全無効なのか、予想より強いな少年?」
「元だけど一応勇者ですしおすし」
そう、この状態異常完全耐性も最初の世界で貰った奴だ。
完全、なので育ちもしないし減りもしないというね。
「モンスターの形状とか生態とか、割と素直だなあ」
「この迷宮の最大の特徴ね。乱暴だけど素直な奴しかいない」
「それでも攻略しあぐねてるのは純粋に深いのと、ドロップが物理的に重いせいだからねえ」
確かに、収納に入れるのはドロップ品だけではない。
泊まりがけで攻略するなら、その為の道具も必要だしな。
……って待てよ?
「オレら無効だから気にしてないけど、迷宮内で気絶麻痺石化静寂って、ニンジン、普通にヤバい奴では?」
「……そういえばそうか。あとセクシーダイコンは魅了持ち」
「アレに見惚れるの嫌だなあ!無効だけど!」
うん、オレから見てもこの二人、普通に感覚がズレてる!
本当に高難易度で稼げる探索者なんだな……
A:全然問題ない。
???:『食べられないものはお出しできません!』
余談:大根のスキル「ねーちゃんキック」、ニンジン「パンクスシャウト」。




