第15話 中ボスというのがいるそうで。
5層ごとに中ボス、当然10層ごとの大ボスもいる。
それ以外の階層は隠密で通り抜けも可能だがその場合階層クリアにはカウントされないし、通常モードでそれやるとそもそもボスが沸かないのでボス層を通り抜けられない。
キャベツや根菜なんていう重たいものをぽいぽい収納に入れながら進んでいったら、唐突に視界が開ける。
「……蓮根?」
「せめてハス池って言いなさいよ」
そう、目の前に広がるのは巨大な池で、どこからどう見ても蓮の葉と花が、風もないのにゆらゆらと揺れている。
岸辺近くに進んだら、領域が僅かに変化した。
成程、話に聞いた中ボスがここにいるな?
「蓮根餅食べたいなあ」
と姉ちゃんが呟いたところで、無言で物理結界を展開する。これは一つ前の世界で覚えた奴で、無詠唱で展開可能だ。
ガガガガガ、と固いものが数十個、結界にぶち当たる激しい音。
「ねえこれまともに受けてたら蜂の巣では?」
「そういや蓮って、はちすとも言うわねえ」
注意喚起したら、文系の姉ちゃんらしい、呑気な返事がかえってきた。
でも二人とも大真面目な顔で、周囲を警戒している。
飛んできたものはなんだろうと地面を見たら、マキビシみたいなものが落ちていて、消えていくところだった。
「あ、菱の実だコレ」
「蓮根じゃなくて菱の実が穫れるのかしら。食品としてはレアよねえ?」
続けて角度を変えて、やはりマシンガン速度で撃ち込まれたのは、どうも今度こそ蓮の実らしい。
玉だけ回収できないかな?と思ったけど無理だった。
「おっと、〈氷結〉」
落ちた玉を気にして地面を見ていたら、ぬるりとした植物の蔓のようなものが這い上がってオレたちの足元に近づいていた。
取り合えず凍らせてみたら侵入は止まる。
「この世界の魔法と違うわね」
「最初の召喚先で貰った奴。結界の方は最後にいたとこで覚えてきた奴」
「ふむー。池だし凍らせよっか。【ショグ・セルトゥユ・シェステラ・サグダ:ゴレイズ・ガナムダナム】」
説明したところで、リケラから氷の強大な魔法が飛びだした。
足元に展開された、詠唱と同じ文字が書かれた魔法陣から、膨大な量の冷気が噴出して池の水を氷に変えていく。
「結界持ちがいると楽でいいわねえ」
「ほんそれ。でかいのの詠唱中は基本無防備になるからねえ」
氷に閉ざされた池の中でお供の雑魚が死んでいくらしく、池の畔に菱の実やらジュンサイやらがドロップ品として積みあがるのを回収していく。
ってジュンサイ!ぬめる!袋くれ袋!
幸い、収納に水汲み用の木桶が入っていたのでそこに詰めておく。
いや、収納しちゃった時点で他のアイテムとは干渉しないんだけどさ、気分の問題?
完全に池が凍ったところで、バリバリとでかい音を立てて、池の中央の分厚い氷が割れていく。
にょっきりと立ち上がったのは、蓮の……なんだろうな、これ?
蓮の根茎、つまり蓮根と茎と葉がそれぞれ絡まり合い、蛇のような体を構成している。
頭部にはいくつもの花が咲き、花弁が散ったところで、更に蓮の実の弾丸をまき散らしたので損耗していた結界を張りなおす。
「でっかいねえ!じゃあいっくよー!【飛燕飛鴛剣】!」
そして姉ちゃんが両手にそれぞれ違うデザインの、反りのある、でも日本刀とは違う構造の長剣を軽く構え、剣技スキルを発動して……
音もなくすぱりと蓮のモンスターの首っぽいところが吹き飛んだ。
「うーん、やっぱりコア探さないとだめかー」
飛んだ首は消失したけど、胴体側から、見る間に再生されていく。まあ見るからに集合体だもんな、そんなもんだ。
「コアかぁ……ああ、下だね」
水面下……氷の下に、こいつの本体といえる核があるのが伝わってくる。
これも勇者技能です!便利だな勇者!元だけど!
「じゃあこれも貰うかな。〈雷針〉」
コアだけを貫くように、雷の魔法を落とす。
オレが知っている雷系の魔法で、唯一拡散しない奴。
そういや氷は電気通したっけ?覚えてないな?
バシン!!と落雷の音がして、ぼろぼろと蓮のモンスターが崩れ落ちていくから、ちゃんと通ったんだろう。
まあ魔法だし、物理法則に従うとは限らないよな!
ドロップは大量の蓮根と、そこそこの分量の蓮の実、そして謎の箱が三つだ。
「箱?」
「ボスドロップね。他所の迷宮だと装備品や薬品の事が多いけど」
「一人一つずつ貰える。どれを選んでも結果は同じ、らしいけど」
三人で一つずつ箱を取り、ドロップ品を片付けたら、池も綺麗に消えていた。
まっすぐ続く道の先には、次の階層への魔法陣があるんだという。
「まあしかしあっさりねえ」
「もともとの攻略が滞ってた理由が酷かったからね……」
「姉ちゃんたち、茂崎の迷宮はどこまで進んでるの?」
「あっちは65層ね。あそこは階層システムがこことは違って、一層からいちいち降りないといけない関係で、どんなに急いでも食事と水がそこらへんで切れるから」
そっちが滞ってる理由も実力……火力不足ではないとか、ほんと[勇者代理]なんて称号を背負ってるだけのことはあるな、姉ちゃん……
「そっちは何が出るのさ」
「薬草とかポーションの原液とか」
「薬かあ」
「大学のと最深部で繋がってるって説が有力なのよ。薬が多いのはそのせいじゃないかって」
そういや医科薬科大学だったね、迷宮できたの。
そしてその場所も茂崎には違いない。
……迷宮、自治体単位で区分可能なんだ?
まっすぐ道を進んでいくと、唐突に部屋の中に出た。
エリアが切り替わったんだなこれ?
魔力が一瞬飛んだけど、どうも認証系システムと同じ気配だから、クリア確認とかそんな奴かな?危険はないっぽいや。
「と、まあ……こんな感じで、迷宮の風景なんて、ただのオブジェクト」
「実際にあの広さを持っているわけですらないのよね」
簡単な解説。自然豊かに見えたとしてもまやかし、か。
なお迷宮によっては、それこそ古のゲームのように、石の壁でできた通路と部屋で構成されてたりもするらしい。
部屋の真ん中には魔法陣。これはロビーとここを行き来できるものだそうだ。
これを避けて奥に行くと、次の階層への魔法陣が置かれていて、そのどちらかを踏むと両方とも開通し、階層クリア認定となるんだってさ。
「箱はこのまま持ち帰り?」
「初物は箱で持って帰らないとだめなのよ、記録取らないといけないから」
わあ、世知辛い。
いや、この迷宮が破却されることなんてまずないだろうから、記録は必須か。
今日はお試しで潜っただけなので、ここで一旦引き返すらしい。
まあオレの収納が無制限といっても、キャベツとダイコンとレンコンの分量やべーからなぁ、一回放出したいのは確かだな!
魔法陣に乗っかってロビーに戻ったら、ざわめかれた。
毎回こうなんですか姉ちゃんたち?
「随分早いじゃねえか」
「とりま45層終わったから報告」
「お?ついにか」
「うちの弟ぐう有能」
土田さんと姉ちゃんのそんな会話のあと、買い取り窓口に向かう。
「ワカツキ様、今日はもうご精算ですか?」
「弟のお試しだったからね。まあ45層はクリアしてきたから、箱査定お願い」
「ついにですか!流石ですわ。人員手配しますね」
どうやら箱の中身は複数の人で確認するらしい。何が入ってんのかねえ?
土田君は探索者ではなく今はロビーの警備員さんなので潜ってない。




