第65話 元ダンマスの制約。
この世界線のダンマスなんて人生丸損だって話。
そのあともサーチアンドデストロイって感じで、群れを探し出しては殲滅していく。
居場所は世界樹さんが教えてくれるんだけどね!
「……またいた……多くねえ?」
「同規模の群れが5つめですか。流石にちょっと多すぎますね」
「そもそもなんで小規模な群れに分散してるの?
平城の鹿とか、もっとまとまってたわよ?」
「ああ、平城は鹿が開けた草原にいるから大規模な群れになるのよ。
ここは森林地帯だから大きな群れにはならないし、なれないんですって」
思わずぼやいたら、木在さんからは多いという同意。
そして平城方面に行ったことがあるらしい名城雲さんからは疑問。
そういやなんでだろう、と思ったら、即座に木在さんがその理由を解説してくれる。
流石敏腕受付嬢、知識量もすげえな?
結局案の定ダニ持ってるっぽかったし、オレの無制限収納があるとはいえ、いちいち持ち帰るのも面倒な数、という理由で、鹿たちは消し炭コースだ。
ごめんなー、活用してやれなくて。骨まで炭になっちゃうから、自然に還るというか、樹木の滋養になると思うしかないか。
「あ」
7つめの群れを殲滅したところで、五斎さんから声が上がる。
おお、やっとレベルアップだ!
「魔力が0から2になりましたね」
「ほぼ物理職の線じゃないです?」
「それが他のステも上がりが1とか2なのよねえ」
木在さんが早速ステータスをチェックしているので、オレも倣う。
うーん、ステの上がり方が一般的ノービスより少ないなあ。
「それよりもなんでこんなにレベルアップまで時間がかかったのか」
「……ダンマス、多分レベルアップにマイナス補正が付いてる」
そして、疑問をお出ししたら、リケラから爆弾情報だ。
いや、ノノのレベル移譲の時にも移譲効率より更に取得レベルが低かったんだし、そこで推定して然るべき、だったかな……
「多分、なんですか」
「元ダンマスのレベリングの例自体が少ないんよ」
そのまま話を聞くに、ダンマスの救出例はエルディムでもそれなりにあったそうだけど、五斎さんほど激しく収奪を受けたケースでの生存例がほぼないんだそう。
そうだよな、五斎さんだって、ノノやオレがいなければ、助かるとはほぼ思えない状態だったのは確かだ。しかもオレが手を出すケースだと、人外コースまっしぐらだった訳で……
普通は、ある程度稼働していた迷宮なら、もうちょっとダンマス側にも経験値が流れて、ダンマス自身がレベル100くらいあったりするんだそうだ。
例外は垂水迷宮のように、滅多なことでは死人が出ないタイプのユルい迷宮。
それでも精霊化した時点で会長の爺ちゃん、レベル50くらいはあったらしいしなあ。
「でもそうすると……まあこの近隣の鹿は殲滅でいいとして」
「そんなにいるの?」
「そんなにいるんですよ。迷宮管理局にも探索者を駆除のために貸してくれって話は結構来ていたんですけど、流石に迷宮関連以外には、本当ならスキルや魔法持ちの探索者を斡旋するのってだめなんですよね……」
実のところ、迷宮でバリバリ魔法やスキル、武技を駆使して働いてる探索者ってのは、地上では活動を原則として制限されている。
当然だろう、戦技や魔法って、うっかり誤爆とかしたら普通に危ないからな。
なんなら、茂崎第二を攻略しに行った時のオレみたいに、不用意につっ走ろうとするだけでもお巡りさんがすっ飛んでくる。だって普通に乗用車やバイク並みに危ないから。
だから、探索者証には、迷宮以外での攻撃系の魔法・スキルの使用は禁止、という制限が、本来は付いている。
そこに、迷宮に入れないけどレベリングはした方がいいという五斎さんの案件が転がり込んできたので、探索者のオレが問題なく引率できるように、あくまでも私的な活動として、ある程度制限解除して動けるように手配をしてくれたのが木在さん、という訳だな。
私的活動である事は問題ない。なんせオレからすれば義理の兄だからね、五斎さんは。
家族の世話ですよ?何の問題が?
ただ、それだとタダ働きになるので、監視役が必要な案件に仕立て直して、木在さんと名城雲さんが付いてくることになった、というのが今回の編成になった表向きの理由だ。実際には名城雲さんの気まぐれがスタートだけど。
正直、オレ自身はタダ働きでも全然問題ないんだけどね。
でもその場合、消えた鹿の行方が判らないと無駄に調査の人手が出るよね、って事で……結局、こういう活動をしますよって届けを出してきたという訳だ。
「かわいそうな気があんまりしないのですよね、何故かしら」
「そんな気が起こる前に倒してるから?」
ノノが唐突に鹿の事を口にする。
オレは適当に答えたけど他の人は違った。
「逃げずに向かってくるからだねー。なんか妙に敵意が強いよ、ここの鹿」
「そうねえ、平城の鹿も寄ってくるタイプではあったけど、あれはエサくれだったし」
「あそこの鹿は図々しいんですよね。人が危害を加えてこないのを知ってるから」
そうだなぁ、確かに突っ込んでくる個体が必ずいるなあ。
そして、それを意識した時に判るのは……
なんで、五斎さんに向かってくるんだろうな、この鹿ども。
後ろも要注意だなあ……あ、来てた。
「やっぱり変だな、この鹿たち……〈雷撃〉」
「後ろにまで?」
「おにいさんが狙われてる?」
「鹿が狙う理由が判らない。というか、さっきから、鹿しか見ないわよね?」
(鹿以外の動物は鹿に追われて別のエリアに逃げ出していますの。
ここの鹿には、何らかの異変が発生しています……)
「えー?鹿が他の動物を追い出す?」
「なんですそれ?どこ情報です?」
世界樹さんの言葉は、リケラにも届いていたようで、リケラが先にリアクションして、全員の注目を集めてしまう。
「リケラは世界樹さんの世話係的な役目がある人だからね」
「そういえばそんな話をジーシャさんに聞いた気もしますね」
「ジシャっちそんなことまでバラしてんの?!あんの口軽幼女!!」
「それはさておき、五斎さんが狙われてるっぽいのは、やっぱりレベル差問題かな」
「一番ありそうなのはそれかな」
なにせ先日のパワレベで、木在さんは126、名城雲さんも109までレベルが上がっているからね。野生のレベル20くらいの鹿じゃ太刀打ちできないのはあちらにも判っていそうだ。
「うーん。多分だけど、レベルじゃないよ」
そこに五斎さん本人から、抑揚が薄いながらも、否定の言葉。
「なに?理由、判るんです?」
「多分ね、僕が、異物だから……いや、違うなあ……なんだろ」
そして、感覚を言語に落とし込むことができないのか、考え込む五斎さん。
「ダンマスだった、という事がまだフラグ的に残ってるってことかなあ」
「あー、それが、近いかもしれない」
取り合えず、思いついた事を言語化してみる。
うん、五斎さん的には、比較的近いところに感じる様子。
「いや待って?それだとあんまり垂水から離れるの、良くない、かも」
「良くない?」
「野良迷宮が埋まってたら、引っ張られるかもしれな……あっ」
リケラが解説しているそばから、なんか見たことがあるようでない魔法陣が、五斎さんの足元に展開されてるんだが!?
「こんにゃろ〈アースクエイク〉!」
思わず地面を揺らす魔法。ほら、この魔法、植物の生えてる場所だと根っこが動くからさ、キャンセルできるかもって。
「おお、消えた!」
「面白い魔法使うわねえヤグス君」
「根っこが動いて消えたというより、少年の魔力に上書きされて消えた感が否めない」
何故か感動顔の五斎さん、オレが魔法を使うところは初めて見る名城雲さんはびっくり顔、前にも〈アースクエイク〉を見たことがあるリケラは冷静に挙動を分析。
「流石に高レベルの方は反応が早いですねえ……」
「魔法自体の発動が早いのはレベルというより技能の【ファストキャスト】かなー」
そして木在さんは、感心した様子でそう述べる。
ので、ネタバレを軽くしておく。
「えーっと、近くに未発見の迷宮があるってことですか?」
「未発見の、ダンマスがいない迷宮ってことね」
ノノの指摘に全員が頷き、リケラが補足説明。
「……何?迷宮ができてからでもダンマス取り込みとかするんだ?」
「滅多にないけど、ゼロではない、らしいんだよね。研究所のリッチずに聞いただけなんだけど、アタシも」
え、あの研究所、善良組エルダーリッチ、いるんだ?気が付かなかったなあ。
それにしても迷宮、どこまでも祟るな……
入り口さえ判れば潰してやるんだが。
次回は鹿の答え合わせ。
エルダーリッチくんたちは3人ほど勤務してますね、あの研究所。
(標準タイプのでかいのはひとりしかいないけど。




