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第66話 全力で、漏れてた。

 Q:さて、ここで問題です。繁殖期でもないのに凶暴な鹿とは?

 ……あー、そういうことか。

 唐突に、点と線が繋がったような感覚。


「少年どうした?」

「いや、凶暴でいくらでも沸いてくる鹿って、つまり」

「……スタンピード?」


 まずリケラがオレの表情の変化に気付き、オレの回答で木在《きさら》さんが答えを導き出す。


「おそらくは。レベルが低いから、迷宮の規模自体がせいぜい3層くらいなんじゃないか」

「でもスタンピードが発生しているということは、誰かが入ったってことですよね?」

「……あー!!あのクッソ爺、重要情報隠してやがったわね?!」


 そして、ノノがオレの言葉に首を傾げたところで、木在さんがおもむろにキレた。

 なんだなんだ?木在さんでも、キレることあるんだ??


「どういうことです?」

「先日、そう、先月末くらいから、市議会の古参の爺さんがですね、やたら鹿の駆除に探索者を寄越せってうるさかったのですけど……

 恐らくあの爺の身内が迷宮をつついたのを隠蔽したかったんじゃないかしら。

 我々を第一発見者に仕立て上げたかったのなら、あの派遣要請のしつこさは納得がいくというものです」


 まあスタンピードが発生してるなら手遅れですけどねー、と投げやりな調子で木在さんが説明をしてくれたけど……


「……川沿いをもう少し上がって、右手に入り口があるよ。僕を、呼んでる」


 おもむろに、五斎《いつき》さんがそう述べて進行方向に手を伸ばす。


「行かないでくださいね?」

「あんなところ、もう嫌だよ」


 おや?ダンマスの頃の記憶が、何か残っている?

 でも、嫌だと言ったところで、五斎さんは首を傾げた。

 そんな言葉を言うつもりじゃなかった、そんな風に。


「ふむ。記憶に残ってなくても、身体が嫌だと覚えてるとかかな?」

「ないとは言い切れないですねえ。取り合えず迷宮は潰す方向です?」

「あるなら潰しておくべきだよなあ……」

「じゃあちょっと行ってくるわー」


 そして、おもむろに動き出したのは名城雲《なきぐも》さんだ。

 あっという間に、五斎さんが示した方に走り去って行ったんだけど……


「にゃー!!!!!!!!!」

 と、ネコみたいな悲鳴と共にすっ飛んで帰ってきた。なんだなんだ?


「いやああああああダニがいっぱいいいいいいい」

「もしかして:鹿はある程度野生モノで、主にダニが迷宮から溢れてる?」

「なにそれ嫌すぎません?」

「……あったなぁ、エルディムでもそんな奴……」


 あーあーあー。流石に探索者といえども、虫というかダニ系は女性はだめかー。

 幸い、レベル差がものをいってか、名城雲さん、噛まれたりはしていない。鳥肌満載だけど!


 改めて確認すると、周囲にもいっぱいダニがいる!

 五斎さん、よく噛まれてないな、と思うけど、何故か彼の周りにだけ、ダニがいない。


「僕には寄ってこないね。取り込みたい相手を攻撃したらだめ、あたりかな?」

「でも鹿は来るんだよね……ってことはやっぱり鹿は野良か」

「別の迷宮から出た個体かもしれません。雄と雌が均等に混ざっていましたから、この国の土着の鹿とは生態が違っていますね」


 なんでも鹿は繁殖期以外は雌雄別の群れになるんだとか。

 って事はオレ達、もしくは迷宮側のそれぞれの検知域の外側に他にも迷宮があるってことですかソレ!


(ああ、はい。確認しました。山のふもとまで行くと鹿の出処であるらしき迷宮がありますの。モンスター鹿の流出で恐らく在来種の鹿が駆逐されていますので破却推奨ですわ)


「……奥にもう一つ、鹿の出てきた迷宮があるって世界樹様が言ってる」

「流石にこの面子で山のふもとまで歩くのはちょっときついかなあ、〈クリーン〉」

「交信できるとそんなことも判るんですねえ」


 世界樹さんの言葉を拾ったリケラが嫌そうな顔をする。

 感心した顔の木在さん。オレはといえば、名城雲さんの服にダニと枯葉がくっついてたので一旦掃除。

 お、ダニ、クリーンで落ちる。レベル1の雑魚だとこうなるのか。


「それもだけど、その間にもうひとつ、あるよ」

「規模とかは判ります?」

「全部ちいさいよ、どれも同じくらい……鹿のところはまだ遠いから、わからない」

「ある程度大きければ、うちの職員が気が付きますから、基本このあたりにあるのは10層未満の極小迷宮だと推定されます」


 そして五斎さんは完全に迷宮サーチャーというか迷宮ホイホイだなこれ……?

 その言葉を、周辺データもある程度把握しているらしい木在さんが裏付ける。


「まあダニが出てくるような迷宮が10層もあったらびっくりよね。生えたてで1層か2層しかないのを、素人の発見者が面倒くさがってコアを割らずに帰ってきたとかかなあ」

「素人でも割れるの?」

「5層未満の迷宮なら、山菜取りのばーちゃんでも、ナタの一つも持ってれば一撃だよん」

「そうですねえ、この辺は昔はイノシシが多くいましたから、最低限の備えをして歩くものでしたしね」


 木在さんはイノシシを例に出したけど、オレが子供の頃に熊も出たことあるぞ、この先の山。

 登山客が落としてったゴミを漁るようになってて駆除された覚えがある。

 ……いやだから、なんでそういう事は覚えてんだよ、オレ。


「そうなのよ、だからレベル100越えてる今の私なら素手でも一発かなと思ったんだけど……

 無理……あの量のダニは無理……」


 そうだね、名城雲さん、魔法とか持ってないしね……近接スキルはあるそうだけど、どの武器でもジョブなしで使えるスキルは単発だからなあ。


「じゃあちょっち結界張って、っと。ここから出ないでね?駆除してきまーす」

「そだねー、少年のが適任か、いってら」


 リケラが動こうとしなかったので、見やすいタイプの結界でメンバーを保護しておいて、オレが行くことにする。

 リケラも女の子だからな、ダニとかは嫌なんだろう、多分。



 堤防だった場所を少し下れば、迷宮の入り口が見えた。

 ダニはレベルがあるんだかないんだか、だったから雑に魔力をぶつけて消しておく。

 ここは迷宮に入らなければ世界樹さんの領域だからな、守護者のオレの回復力もアップ中だ。

 この程度なら、ざっくり魔力を散らしておけばそれで充分だし、回復はあっという間だ。

 数が多すぎて、不用意に魔法を構築した場合、漏れが出るんだよね、こういうの。


 ……腹は減るので、収納からミニサイズのサンドイッチを二つほど口に放り込む。

 うん、旨い。魔力の回復も捗る旨さ。


 防空壕の跡地です、みたいな見てくれの、中途半端に人工物の混ざったような入り口を通れば、領域が切り替わる。


 わあ、2層しかない。

 一部屋しかない、土を掘っただけ、みたいな内部空間もダニがびっしりだったので、魔力解放で吹き飛ばす。

 奥から出てくるのも、ダニだ。

 っつかここ、スタンピード自体は継続中なんだな……めんどくさい……


 雑に魔力で吹き飛ばした後は、自分に結界魔法を纏って押し通る。

 2層だからボスもいないしなあ……クリア条件自体が設定されてなさそう。


 奥にあった、なだらかな傾斜の道を通った2層目もワンルーム、当然ダニで溢れている。

 結界魔法どころか放出魔力に触れただけで吹き飛ぶ雑魚なのに変わりはないが。


 そこを一旦一掃したら、奥の壁が崩れて、コアルームへの道がぽこりと開く。

 今まで見たコアのどれよりも小さい、グレーの球体を叩き割った瞬間に、迷宮が崩れて外の堤防のところに放り出されるオレ。


 うむ、お掃除完了だ!

 川沿いの見えるところにもう一つ口が開いていたので、そちらも処分しておく。

 これは1層しかない、まさに生えたての迷宮だったようで、コアが部屋の真ん中に最初からいて、ガチで割るだけだった。


「ただいまー。2つあったんで潰してきた。片方は生えたてで何もいなかったけど」

「ああ、生えたての時はコアの持ち出しも可能ですから、次遭遇したら持ってきてください」


 なぬ?木在さんが思いもかけないことを言う。


「あ、いいね。小さいコアなら、食えそう」


 え?何言い出したの五斎さん??コアを、食う?

 どういう意味だよそれ???

 A:迷宮ダニに操られてたり奥の迷宮から出てきたモンスター鹿だったり。

 ダニにやられてた分は逃げると思うがモンスターの方は変わらずにやってきますね。

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