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第64話 迷宮に頼らないレベリング。

 但しやることはやっぱりパワレベ。

「そうだ、五斎《いつき》さんのレベリング、名城雲《なきぐも》さんと木在《きさら》さんが状態確認のために付いていきたいって言ってきたんだけど」


 食後の片づけものはだいたい〈クリーン〉で綺麗にして、食器をしまうだけなので、さっさとオレが片付けて、リビングに戻って姉ちゃん達に相談だ。

 五斎さんはお風呂も済ませて、もう姉ちゃんに寝かしつけられ済みだ。


「そうねえ、その二人なら任せても大丈夫か」

「アタシも付き合うし、多分大丈夫じゃない?」


 ん?任せる?姉ちゃん、付いてこないの?まさか?


「そうですね、わたくしも当然行きますし……」

「まあ身の安全は安宿《あすか》一人でも充分確保できそうだし、オッケーかな」

「……姉ちゃん来ないんですか?」


 思わずちょっと丁寧語になったのは、オレ自身でも良く判らない。

 いや待て。なんか技能に反応があるぞ?……ええ……?


「お、少年、気づいた顔だ」

「はははー、話題にしないと気が付かないのか、まだまだねえ!」

「いやだってそういう想定までしてないし!!」


 そう、姉ちゃん、妊娠2か月って判定が今ぽこんとですね!!


「赤ちゃんには経験値流しちゃだめだからねー、変異が怖いんよ」

「そんなわけでレベリングも迷宮も暫くお休みよ。

 だからといってイツキの回復を遅らせるわけにはいかないからね。任せるわよ、安宿」

「……わかった。頑張る」

「じゃあ木在さん達にはわたくしから連絡を入れておきますね」

「あ、そうしてくれると助かる」


 ノノの申し出には速攻乗っかる。

 女性にメール送るの、ちょっとためらう時があるんですよ。

 ガチガチの仕事メールならいいんだけどさ、今回のは一応プライベートの方の活動だから……


「少年、がっつくとこ見せてもいいんじゃよ?」

「がっつくような相手じゃないだろ……?」


 正直に言いますとですね、年下って趣味じゃなくてですね。

 それを言い出すとリケラくらいしか対象がいなくなる疑惑もあるんだけどさ。

 そしてそのリケラに関しても、現状は友人枠からミリも出ていない。

 恋愛とか良く判らんまま、ここまで生きてきてしまったからなあ。


「……安宿は元々見た目の割に草食系オタクだからねえ」

「姉ちゃんだって五斎さんに会うまでそんなだったじゃん」

「なんの事かなー!!ああ、あたしもそろそろ寝るねー。ベッドはノノたん使ってね」

「え、わたくしも森がいいです」


 そんな感じで、その日はオレだけリビングのソファーベッド、あとは全員リケラの森で寝るという事になった。

 何故オレだけリビングかというと、ノノに寝袋を貸したからですね!

 流石にそんなものはそういくつも持ってないよ!



 結局、レベリングに五斎さんを連れ出せたのは、一週間くらい経ってからだった。

 思った以上に知識の欠けが酷くてなあ……

 これでも1年かけて、エルディム式の治療で、生活に必要な情報は習得できているほう、らしいんだけどさ。

 五斎さん、魔力のない人なんだよね、現状。

 だもんでまず、文字……自分の名前を書けるようにならないと、住民カードが作れなかった。


 あとスキルもないし腕力も足りなくて、経験値を得させる為だけにオレの裏技を使う決断をせざるを得なくなったりとか。

 いや裏技といってもリケラは知ってる【譲渡《アサイン》】なんだけどさ。


「……使える、わけじゃあないんだね……」

「ああ、五斎さん、現状だと魔力自体がないしね。今回の場合は『治癒魔法を持ってる』のが重要だから、今使える必要はないんだ。

 そもそも今日のメンバーで地上で怪我できる人、多分五斎さん本人だけだし……」


 譲渡したのは、第二世界版の治癒魔法だ。例によって使い勝手が微妙な奴。

 同じく第二世界版の属性強化とどっちにするか迷ったけど、何らかの事態で使えるようになる可能性があるなら、まだ治癒の方がましかなって……

 譲渡しちゃうと自分じゃ使えなくなるから、自分が使うものは譲れないんで難しいところ。


「治癒魔法や強化魔法持ちだと、モンスターへのダメージを与えられない人でも経験値の分配があるんよ。これは迷宮でも地上でも同じなのね。

 イツキのレベルは今1にリセットされてるから、初期状態で魔法を持ってない時点で魔力はあったとしても0か1だからそこは一旦諦めて」

「リセット?」

「うん。ノノたんが迷宮で緊急的にレベル譲渡してくれた分、治療で使っちゃったん」


 ある程度レベル残ってなかったっけ、と思ったらそんな回答だ。

 エルディムの技術、謎だなあ。


「レベルの譲渡って今もできるのかな?」

「いえ、今はわたくしのスキルの構成自体が以前と変わっちゃったので無理ですね」


 ノノのスキルは、ジョブ『天地の星』を得てからのレベル上げで随分と変化したらしい。

 オレもまだ全体像は知らないんだけど。

 というのも、相変わらず『前世の彼女』が強く関わると、ノノのスキルには変化があるので……

 リケラもまだ全容が判らない、らしい。



 そんな風にあれこれ準備をしたら、いよいよパワーレベリングのスタートだ。

 今回の目的地は垂水と茂崎の間の川を遡った先にある森だ。

 垂水の姉ちゃん宅から、バスで茂崎との間を繋ぐ橋のたもとにあるバス停まで移動、そこからは歩いて川上に向かう。

 メンバーはオレがリーダー役、それにリケラ、ノノ、木在さん、名城雲さん、そして五斎さんだ。

 全員山歩きできる長袖長ズボン系にブーツ装備だね。

 季節的にはそろそろ虫が出ますので……いや、世界樹の周辺の森だと刺す虫とかあんまり出ないらしいんだけどね。

 鹿があっちこっちで増えてるなら、他所から連れてきてる可能性も十分あるからなあ、ダニとかさあ。


(そのまままっすぐ行けば最初の群れに遭遇しましてよ。

 増えすぎて私の領域にダメージが及びかねないんですの)


 そして今回のパワレベは、なんと世界樹さんのナビ付きだ。

 そう、この川沿いも全部世界樹の領域なんだよね!

 そして本人が語る通り、鹿の食害がだいぶやばいことになっている模様。


「……ここって、世界樹の森、なのですか?」

「ここに限らず、今は垂水とその周辺の森林全部そうだよん」


 森の始まる辺りで、木在さんが首を傾げ、リケラが頷いて状況を教える。

 世界樹の領域だと、守護者であるオレの能力、2割増しらしいんだけど……そんなに要らなくないですかね……


(過剰なのは間違いないのですけど、仕様ですもので)


 そこはしょうがないよね。オレが規格外なだけだし。


「まっすぐ先にひと群れ居るねぇ」


 リケラも群れの存在に気付いて、奥を見透かすしぐさ。


「えぇ、検知範囲外ぃ」

「流石リケラさんですねえ」

「あ、気配は判るのです……なんか機嫌が悪そう……」

「ノノさん優秀……!」


 そして地球系女子たちのなかで、最初に群れの気配を察知したのはノノだった。

 最年少ではあるけど、実際には一番レベル高いからね、そんなもんだろう。


 しかし草食動物にしては、随分イキり散らかした雰囲気の群れだな。

 こっちに角下げて向かってくる気配がするぞ?


「取り合えず結界は張るとしてー、〈雷撃《クルガロ》〉?」

「疑問形なんだ」

「野生動物への魔法の効き具合とか、良く判らない……!」


 そう、ダンジョンと地上ではいろんなルールが違う。

 オレは[世界樹の守護者]だから、雑に範囲魔法を放っても領域の樹木に影響は出ないけど、他の人がやるとたまに大変なことになるってよ?


「……消し炭ですね」

「肉が穫れないよー」

「駆除が主目的だからなあ。毛皮が要るとかなら氷結系か首落とす方向に変えるけど」

「物理じゃないんですか」


 結果、木在さんの言葉通り、ひと群れまるごと、黒焦げの消し炭になりました。2割増しやべえ。

 リケラさん、肉が穫れないっつーけど、多分迷宮産のお肉の方がジビエより品質いいぞ?


「数が居る時に物理は面倒」

「お兄さんに物理のイメージがあんまりないです」


 ノノにまでそんなことを言われる。魔法生物層とかガチ拳だけでやってたじゃん!

 ってそうだ、ノノさん目瞑ってたり魅了食らいかけたりであの辺あんまり見てないんだった。


 五斎さんの方はというと、不思議そうに周辺の状況やら、黒焦げの鹿の炭を眺めたりで、無言だ。

 レベルの方は上がった様子がないんだけど……

 他のメンバーに経験値の入らない状態のはずだし、ひと群れで普通の人なら2レベルくらい上がるのでは……?

 普通ならそうなんだけどねえ。<鹿ひと群れだとレベル0→2or3。

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