第60話 探索者を目指すということ。
そして少女は決断する。
「ふふ、今日からわたしは正式に、ノノね」
「仮カードだから制限はあるよ、それ以前に未成年だしねえ」
カードをしまいながら、嬉しそうなノノに、早速ジーシャさんが釘を刺している。
「それはもう!承知してます。でも、レベルを上げなおすくらいはできますよね?」
「それは親権者が許可すれば大丈夫。上げなおす?」
「ダンマス救助の時に、480越えてたレベルを譲渡して今の数字まで下がったんよ。
その時にはスキル、進化状態で健在だったから。
んでレベルが下がったらスキルが消えちゃったん」
ジーシャさんの疑問に、リケラが改めて解説している。
「幸いジョブが残ったので、レベルを上げたら探索者さんになれなくもないかな、って」
おや?前に迷宮内で話したときには、探索者になるつもりはない、って言っていたのにな、どういう変化だろう?
「前はならないからいいやって言ってなかった?」
「自立のためには職業があった方がいいでしょう?」
「いや、多分ここの踏破報酬、キミにも出るから……生活には困らんと思うよ……」
リケラも同じ疑問を抱いたようで、そんな会話が繰り広げられる。
「そういや踏破報酬どうなるん?残す方の踏破と潰すんじゃ金額が違うって話は前にどっかで見たけど、具体的な話知らねえんだけど、オレも」
せっかくなので踏破報酬の話もここでしてしまおう。
「えーと、第二迷宮に関しては、ヤグス様のソロ踏破として記録されております。
あれでも、このコアを潰したのはパーティリーダーのアズミ様ですね?」
「第二70と第一71が繋がってて、第二のコアは第一の90層にあったからね」
「えぇ……この場合の査定はどうすれば」
「エルディムでも3回くらいしか例がないからねえ……簡潔に処理するなら、第二70までの踏破がヤグス氏の個人報酬、それ以後はパーティ報酬、かな」
統合後初の事態だと頭を抱えた第一側の事務所の人に、ジーシャさんが入れ知恵している。
「ああ、それが一番判りやすいですね」
「そんな感じでいいんじゃないかな。ダブってる10層分の片面は誤差の範囲だろうし」
実際踏破時間的にも誤差みたいなもんだから、それでいいとオレは思うよ。
そもそも垂水第一の踏破報酬もまだ結構残ってるしさ。
当事者のオレが了承したので、以後の査定はさっくり進む。
「そういえば箱はどうする?」
「個人で開けていただいて大丈夫です。迷宮自体が無くなってしまいましたしね」
「あいつラスト報酬も出せないレベルで最下層改変してたからどうせ中身はゴミでしょ」
「えぇ……よくそれで迷宮崩壊しなかったわね?」
ジーシャさんによれば、ダンジョンコアによる無理な迷宮改変は、当該迷宮が崩壊自滅しかねない、本来なら完全禁忌事項であるらしい。
いやぁあのコア、どんだけアホなんだよ……
「あのコアかなり捨て鉢だったよねえ。最後も少年が一発殴って終わりだったよね?」
「ぺらっぺらになってたからなあ。自分まで削って、何がしたかったんだか……」
「それは完全にコアの本能からも外れてるねえ……ダンジョンマスターがかなり抵抗したんじゃないかな」
ジーシャさんによれば、ダンジョンマスターがコアに対して全力で抵抗する場合もあるんだそうだ。
そのジーシャさん視点でも、垂水の爺ちゃんは完全に規格外だそうだけど。
通常の場合、ダンマスの抵抗の仕方は、主に精神域への干渉による意識改変。
あるコアは平和主義者に転換して迷宮の支配権をダンジョンマスターに明け渡し、あるコアは自滅の道を辿らされた。
そんな事例も、エルディム側にはいくつか記録されているんだそうだ。
それと、この世界になってからも、砂に埋まったエリアからやってきた、善良な研究者系エルダーリッチ達に似た証言をする者がいるんだとか。
あー、うん。五斎さんの性格なら、自滅ルート取らせるだろうな……
納得、できてしまった。
「では査定完了ですが……申し訳ございません、金額的に、月額制、3年かけての分割払いになります……」
「全然問題なし」
「いいよいいよー、管理局コケたら本末転倒だもん」
「生活できればなんでもいいです」
その場の全員が即答したので、多数決扱いで支払い方式も決定。
即時住民カードに第一回報酬が振り込まれたけど……わあ、この時点で垂水と同額じゃねえか!
「見たことない数字です……」
「ほーん?潰す方が高いんだ?」
「スタンピード履歴の複数回ある迷宮を潰したから、割り増しついてんのよー」
「なお優良迷宮を事故で潰すとペナルティが付きますのでご注意ください」
「この辺残ってるのは原則優良管理迷宮になったから、今後は名前付いてる迷宮では素材集めかピクニックだけね」
素直な感想を述べたら、リケラから解説、職員さんから釘刺しが飛んできて、最後にジーシャさんからピクニックのご提案だ。いや提案ではないか。
「レベリングとかはどうしようか。多分いずれ五斎さんにも要るよね」
「元ダンマスは迷宮には入れないから、そっちは地上でやるしかないねえ……」
なんだと?そんな制限、あるのか。
そして地上でレベリング、可能?
いやそうだ、そこら辺の蚊に1~3くらいだけどレベル付いた話があったな。
あの理屈でそれなりにでかいものを倒せば、イケる?
「ああ、鹿が増えすぎてるらしいからアレの駆除お勧めだよー。
一体辺りのレベルは10から20くらいまでだから、ノノちゃんは流石に適応外だけど」
「鹿……っていわゆるニホンジカとか?」
「うむー、在来種ー。レベル持ったせいで在来種の生物もだいたい頑丈になって死ににくくなっちゃったみたいでねえ!
捕食者も丈夫にはなったけど、そっちは草食動物みたいに急には増えないから、鹿とか、地域によっては兎がすっごく増えてんだそうよ」
後で調べたら、ここ50~100年以内くらいで入ってきたような最近の外来種を除く生き物にレベルが付いて、まずレベルの付与されなかった外来種がだいたい駆逐され、それから全体にシカ類や兎系なんかの、純草食の動物が増えたんだそうだ。
割合的に意外と増えてないのがイノシシで、サルは個体数維持状態、らしい。
まあサルは一産一子だからなあ。そうすぐには増えないか。
外来種の線引きは割と微妙であるらしい。ソウギョとかアメザリは減少しつつも残ってはいるそうだし。
大きいものだと、定着したといわれてたアライグマは姿を消し、ハクビシンはそれまで通り存在しているとか。
そういった野外事情が明らかになり始めたの自体が、ここ一年くらいの事らしいから、調査も調整もまだまだこれから、らしいんだよな。
「よくこれで鼠が増えてないな」
「増えたけど、小さいのに関しては蛇とかイタチも爆増して食っちゃったから、災害化まではしなかったんよ」
あっ、捕食者でもよく増える奴、いたね!
なるほどなー、それで蛇やイタチじゃ手出しできない鹿が一番増えたってオチかー。
「お疲れさまでした!それじゃ今日はこの後病院かな?」
「そうですね、大丈夫な気はしますけど、気がするだけかもしれないですし」
事務的な用事は全部済んだし、ノノも通院には同意したので、帰宅するというジーシャさんと一緒に、事務所を出て、バス乗り場まで移動する。
収納の中でボス箱を開封できたので開けてみたけど、ヤマタノオロチの箱が中級魔力ポーション、火の鳥の箱は第一が準エリクシール、第二が大回復ポーション。
80ボスの方はエリクシール原液だったからこれは後でリケラにあげよう。
90ボスの箱は……見なかったことにしよう、封印。
んで90コアの箱は?こっちは意外とまともだなぁ。使うかどうかと言われたら、多分使わねえけど……
「箱の中身、なんでしょうねー。落ち着く家が決まったら開けようかな」
「今日病院お泊まりじゃなかったらウチにおいでよ、森でキャンプ気分しよ!」
ちょっぴりわくわく顔のノノに、リケラがなかなかアウトドア派には魅力的な提案をしている。
ああ、平和だな。
じゃあこのコアの箱も封印で。
レベル補正ポーションって名称だけで、効果不明だけどもね、現状要らないだろう。
迷宮に入れない人間には、この種の薬は効果ないという話だし……
あー、姉ちゃん多分病院泊まりだから、今日は晩飯自前だなあ。
こないだ出した軍隊スープの残りでも食べておくか……
というところで第二章はおしまいです!
人物紹介同時更新!




