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第59話 踏破判定と地上の経緯。

 ノノさんの今後をどうするか回。

「それにしてもノノたん、いや本名別だっけ、どうしよっか」

 リケラの言葉は、ノノ本人というより、迷宮管理事務所の面々に向けられている、そんな感じだ。


「基本的には本来の住民カードを捜索して復帰手続き、ですかねえ。踏破記録を移すのはできなかった気がしますけど」

「茂崎迷宮は潰れたから踏破記録はなくてもいいんじゃ?」

「報酬の件があるっしょ!ダンマス救出に関してはノノたんはガチめに功労者じゃん!」

「あ、そうだった……!」


 そうだった、ノノにも正当な報酬が必要なんだよ。

 正直、五斎《いつき》さんの状態、普段のオレの手にちょっと余るかな、裏技出さないとだめかな、って感じだったのに、普通の人類として生き残れる状態まで引き上げられたのは、『前世の彼女』、つまりノノのおかげだものな……


「それなのですが、わたし、今の名前でくらしたいです」


 そして、ノノからは思いもかけない言葉。


「それ、あの連中が勝手につけた名前だろう?縁起悪くない?」

「それでも、まえのわたしはこの名前しかないし……第二ダンマスの孫、の方が生きにくいかもしれないですから」

「あー……確かにマスコミが煩いだろうから、未成年を偽名で保護するんはアリだぁね?」


 当然の事ながら、スタンピードで何度か被害を出しているこの茂崎迷宮の崩壊は、大々的に公表されることになる。

 ある程度経緯は端折るにしても、第二マスターの件は隠せない、と迷宮管理事務所側は言うので……

 それなら、確かに偽名の『ノノ』のまま当面生活する方が無難と言えば無難か……


 それに、『前世の彼女』にはこの名前しかない、というノノの主張も確かだ。

 彼女は後ろに引っ込む、と言っていた。つまり消失はしていない。

 それなら、その縁を無理に断ち切ることもないだろう。

 本人もそれを望んでるっぽいしなあ。っていうか『前世の彼女』の事は自覚あるんだな、この子。



「……うわぁ、正規カードの原紙使ってる……内部監査だー……」

「マジかよ監査ならアタシが出張らなきゃじゃん」

「いやむしろキサラ貸して。あんたのスキルが要るわ」

「畏まりました。その程度で宜しければいくらでもお付き合いします。今回の件は我々にもかなりな失態が確定していますしね……」


 面倒ごとはさっさと片付けるに限る!という理屈で、オレ達が今いる迷宮管理事務所に呼びつけられたジーシャさんが、ノノの偽造住民カードを見て、盛大に顔をしかめる。

 そしてキサラと呼ばれて頷いたのは、第二迷宮側にいた方の受付嬢さんだ。


「何やらかしたん」

「砂沸く条件になりうるヤバめのスキル持ちを囮に使った。オレが回収したんで無事だけど」

「……あー、持衰ちゃんか……ってそこに本人いるわね?」

「ああ、諸事情でスキル消えちゃったのよ。ダンマス救助の時にちょっと無理して貰っちゃってさ」


 ジーシャさんもノノが迷宮に入った過程の話は既に知っているようで、簡単な説明で済ます。


「無理というほどでも……うん、レベルの状態も落ち着いてきたんで、今は大丈夫ですよ」

「確かに喋り方がだいぶ滑らかに戻ったねー」


 確かにリケラが言う通り、ノノの喋り方、ジーシャさんが来るまでにだいぶん改善されているな?

 100に少し届かない程度とはいえ、レベルが残ったから補正効果が出てるんだろうか。


「それでですね、身を隠す意味もあって、当面このカードで活動できるようにして欲しいのです」

「保護者の許可は?」

「両親が行方不明なんでアタシが仮保護者で」

「あんた未婚じゃん」

「1585歳に未婚も何もなくね?!」


 リケラさん自分の年齢も積極的にバラすタイプかーそっかー。

 っつか1500年生きてても1年単位で年齢ちゃんとカウントするんだなー。

 オレ、途中でどうでもいいかになってたよ?バトル中だったせいもあるけど。


 なおオレ自身は数えるのを放棄したけど、システムはちゃんと記録していたので、バトルの経過時間だけで992年、らしい。

 それに第二世界でのバトルまでの経過時間と、第三世界で300年遊んでたのとそこから転移魔法の研究してた時間と、更に元の年齢を足すから、1370歳くらいかな?

 身体的には多分2回目に飛ばされた時、誕生日前だから19歳、と変わらない感じだけどね。


「まあ最悪姉ちゃんに引受人やってもらう感じでいいんじゃね」

「あ、そっか、アズちん旦那戻ってきたしそれでいいか。実務は我々がやればいい!」

「うん、姉ちゃんは当分五斎さんについていて貰わないとだしね」

「なに?ダンマス救助成功したとは聞いたけど、状態悪いの?」


 オレ達の会話に、ジーシャさんが怪訝……いや、心配そうな顔をする。


「命に別状はない、ってところまでは回復できたのですけれど……コアに奪われたものが多くって……」


 そしてそれにいち早く回答するのは、実際に初期処置をしたノノだ。

 この子自身にはないけど、『前世の彼女』の方は診断技能持ってたからなあ。

 今の彼女は、その辺の過程もきっちり覚えている様子だな。


「その処置で迷宮突破中に上がったレベル殆どつぎ込んじゃったんよ、ノノたん。

 その乱高下の加減でスキルが消えたっぽい?」


 その辺の機序はまだよくわかんないけど、とリケラが続ける。

 前世の魂とかにはあんまご縁がない感じなのかな?エルディムの人。


「ああ、この子の両親、発見はされてるよ。

 ただその場で緊急搬送判定されて病院送りになったけど……親権維持は不可能だろうね」

「え、生きていましたか」


 そこにジーシャさんが爆弾発言だ。何?そこまで地上も事件が進んでたの?

 そしてご両親の超ピンチ情報に、やたら淡白なノノさんの回答。


「架空の借金のカタに娘売り飛ばしただけじゃ足りねえとか言われて、本人たちも実験台にされてたそうで、マトモな受け答えもできかねる状態、ほぼ廃人。

 元持衰ちゃんと違って魂魄強度自体が落ちてるんで、下手にレベリング療法もできないそうでね。ぶっちゃけエルディム人にはお手上げよー」

「どんだけゴミカスなのあの企業」

「アパレルの『ナイジェラ』自体は、一応真っ当な会社よ。

 裏で資金流用して創業者とその一族が、我らが身内の恥たるクズ犯罪者と組んでやりたい放題してただけでね」


 まぁこんなことになったら廃業必至だろうけどねー、と、つまらなさそうな顔で述べるジーシャさん。

 普段の見た目はほぼ幼女だけど、そういう表情をすると、ちゃんと大人の女の顔だなと思う。

 実際この人既婚者だしな。旦那さんも小柄なエルフさんだそうだよ。


「クズは?」

「拘束できた。極刑予定」


 え、エルディムの法ってそんな短期間に判決出るの?


「あー、20ヶ条違反?そっか、今回のスキル改変で4つめだもんな、裁判要らないねえ」

「そ。それに加えて別件の累積もあるからダブル役満で本来ならその場で首飛ばしていい奴。

 一応地球人向けの証拠固め用の尋問中なんでまだ生かしてるけど」


 あ、ハイ。エルディム時代にもやらかしてた把握。

 そういやエルフの二人、そいつの事ずっと名前で呼んでないな。


 エルフにとって名前は大事なものらしい。

 身分と出自を同時に表示するものでもあるんだそうでね。


 なのでエルフ族での重い刑罰の一つに、奪名、という独自の刑がある。

 犯罪者の名を奪い、本人の記憶からも、記録からも実質消去するというものだそう。

 犯罪者名簿にだけ、元なんとか氏族の誰それの子、みたいに記録されるそうだけど。


 だからノノの件でも、リケラはあくまでも『ノノ』は偽名に過ぎない、というスタンスを崩していない。

 オレ視点だと『ノノ』はもう、『前世の彼女』の名前として馴染んでしまっていると見えるのだけどね。


 結局ジーシャさんは『ノノ』の偽住民カードを、仮発行カードとして処理し、最低限の身分照会と個人口座が使えるように処置していった。


 といっても個人口座は未成年だから制限付きだそうで、最低限の生活費しか利用できない制限が付いているそうだ。


 踏破報酬いくらだろうね。垂水の例を考えると、成人までお金に困ることはなさそうだけど。

 両親とノノの現状の差は『もともとスキルがあったかなかったか』で変わりました。

 ないもの無理やり突っ込まれたら魂魄壊れるんですよ……だからスキル弄るのは大罪なんだよ……

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