第56話 99層と最終層。
一気に行くぞー!行けたらなー!
あと前提条件:姉ちゃんはオタ女だぞ。
99層に入ったら、秒で結界を張る。
足元に残るモノにはさっくり〈氷結〉で一掃しておく。
ドロップアイテムは……また水だよ!どんだけ蒸留水好きなの!
もう一種類、なんとオレのスキルでは鑑定不可能な瓶が出たけど、なんだろうなコレ?
一旦しまっとこう。
うん!足の踏み場もないとはこのことだな!
ごっつい触手とこれもごっつい寄生植物の蔓が混じりあって、結界の外、視界一面でごちゃごちゃうねうねしている。
「うわぁ嫌な絶景?」
「割といろいろ台無し」
「エロ漫画の導入でもここまではやらない」
「うにゃうにゃしていますね……」
ノノは安全のために姉ちゃんの小脇に抱えられたままだったんだが、大正解だなコレ?
あと姉ちゃん、ちょっと発言自重。
「焼くか凍らせるか雷撃キメてもらうか……」
「試しに〈ファイアウォール〉……あっだめか、〈水路〉に〈氷壁〉」
第三世界で覚えた炎の壁を出してみる。
うん、いい感じに延焼するけどこれだめだな!こっちまで煙に巻かれるパターンだ!
慌てて水路魔法で水を流し、延焼の熱を緩和するために氷の壁を立てる。
「臭い、煙い、いいことないわね??」
「しかも有毒!〈クリーン〉」
「吸い込まなければ掃除できるのかぁ」
「匂い消すのと理屈は同じだよ!〈解毒〉」
うっかり煙を吸い込んだ上にレジれなかったノノさんに解毒魔法。
うん、流石にここまで来るとレベル200程度だと普通に耐性抜いてくるね。
そりゃそうだ、あと2層だもの。次は、ボス部屋だ。
何が出てくるか判らんけど……流石にダンマス本人がぽいっとお出しされることはないそうだし。
「火がダメだし雷かねぇ?」
「そうだなぁ。ちょっと派手に行くか。【積層詠唱】〈雷撃〉」
「魔力消費大丈夫なのそれ」
「フルで重ねても超級護法の半分も使わないよー」
第一世界の魔法はマジで魔力的にはリーズナブルなんでねえ!
十二層重ねても超級護法〈遮断〉の4割くらいの消費だよ!
しかも今回は2層分余ってキャンセルしたしな……!
見える範囲の全触手君と全蔓植物君を一掃したら、残ったのはただの荒れ地だった。
可能な限り進んでいくけど、どうも、あのごちゃごちゃした光景、あのうねうねでトラップを隠すのが主用途だったらしくてですね……
「これは ひどい」
「トラップの残骸なんてあるんですね」
「普通は残骸までは行かない気もする?」
「雷属性が通ってトラップそのものが動作不良を起こすってパターンもあるんだなあ……」
トラバサミ系というのか、アイアンメイデン系というのか、そんな類の残骸がところどころに転がっている。トゲトゲの付いた鉄の、折りたたむ系の機構が付いた構造物だね。
いやこれあれだな?形状としてはハエトリソウ?植物ベースだしな、ここのコア。
「ところで安宿、魔力の残り大丈夫?」
「8割だから問題ない。っつかこれだけ魔法偏重ルートできたら最後は物理じゃねえの?」
「魔法オンリーで消耗させて物理無効で来るパターンもあるからなあ」
確かにそれはそう。どっちの備えもしておくべき。
でもリケラさん今魔力フルだよね?
オレだって8割回復したって事は、あとは自動回復任せで全快ラインだし。
「……正直言って、そもそも魔力で押し通るエリアじゃなかった気もするんですけど……?」
ノノさん、そこでド正論ぶつんだ……!?
「まあ、なんだ……規格外しかいないんでオレら……」
「あたし最初は普通だったわよ?今でも魔力は普通よ?」
「アズちん、アタシに最初から付いてこれてたからどうかなあ?」
……ちょっと待ってリケラさん?姉ちゃんにどういうスパルタかましたの?
そんな過去への疑問がふつふつと沸いてきたところで、階層移動だ。
ガチでここのコア、空気読まねえなあ!
いや待て、そんな心情を読んでくる方が怖いな?
……ダンジョンサブマスターは、その地位を望んだ者がなるという。
その欲望を、ヒトの望みを、ダンジョンコアは読み取れると考える方が自然だよなあ……
いやオレ自身の場合は恐らく勇者セットのシステムが、そういう外部からの思考読み取りの類は弾いてるとは思うんだが。
「で、まさかのまた豆腐なのかよ」
「流石にこの天丼は想定外ねえ?」
そう、転送された第100層、この茂崎第一迷宮の底層は、以前見た垂水第一の未完成階層と同じく、なんにもない、豆腐の中身のような白くて四角い部屋だった。
とはいえ、90層のボス部屋程度の広さはあるし、よく見ると、何かを撤去した跡が壁にも天井にも床にも残っている。
「……残存リソースを無理やり我々を阻止するための改造につぎ込んで、ここの本来の設備も剥がしたっぽい?必死が過ぎるというか空しくなるわね」
リケラの解説には何となく納得だが……
本末転倒も甚だしいのでは?
【……貴様らに勝てる気がしないそうでな】
おや、不機嫌そうな返事がある。流石にコアではなくフロアボスのようだが。
部屋の中央に黒い渦が生まれ、ずるりと這い出してきたのは、ドラゴンの形をした何か、だった。
ドラゴンそのものではない。気配が知っているどのタイプの龍種とも違う。
そして漂ってくる、饐えた臭い。
「……ドラゴンゾンビに植物が寄生している……?」
【不本意ながら、そうだ。我は既に死しているから、ブレスで小癪な蔓を焼き払うこともできん】
どうやら、元になったドラゴン種の意識が強い存在らしい。やけに言葉が理知的だ。
大きな、黒ずんだ緑色の、ところどころ骨が見える半ば腐ったドラゴンの死体に纏わり付くのは、太さも様々な、寄生植物の蔓。
締め上げるかのように体を覆うそれは、動きを制限するもののようにも見えるけれど、実際には彼を動かしているのはこの蔓の方であるらしい。
「その蔓、燃やすと漏れなく毒と状態異常複数付いてくる煙を吐くからなあ」
【完全レジストした輩が何か言うておる】
なんだろう、オレ、ボスに突っ込み入れられる率高くねえ?
「……そうやって喋るのも戦術かい?残念だよ」
そしてリケラがぼそりと呟く。
うん、そうだよな。オレが喋る相手に手が緩むのを知ってて、こいつは言葉を発している。
無論このドラゴンの意識自体が残ってるのも確かではあるんだが……
蔓がオレ達の足元を僅かに避けるようにしながら、魔法陣を描きつつあることぐらい気が付いているさ。その内容もな。
これまたノノだけ引っかかるなあ。させないけど。
「〈アースクエイク〉」
せめてもの情け、詠唱はしてやろう。
この、第三世界の土属性魔法は、植物の根の類がある場所で使うと、その根っこを巻き込んで挙動を変える。
オレの魔力とステータスとレベルに、モンスターであるはずの蔓が抵抗しきれずにその形を崩す。
そして床に貼り付けられかけていた魔法陣は雲散霧消した。
【ぬぬぬ……!流石にあからさまが過ぎたか……】
「時間稼ぎなのが見え見えすぎてねえ」
「……んでこれ物理で行っていい奴?」
「多分おっけー。ダメならちゃんと追撃するよ」
そしてオレの言葉に、姉ちゃんはノノをさっと降ろして、即行動で応えた。
その足で駆け上がるごとにすぱりと両断されるドラゴンのでかい首。羽根。胴体。
無言でスキル発動もできるんだ。こえー。
「だめー!くっさーい!!」
「はいはい〈クリーン〉」
天井を蹴ってこちら側に着地した姉ちゃんの装備を綺麗にしてやる。
なんかやたら粉っぽかったのはあの寄生植物の中身か?
「掃除した方がいいねえ」
【そうじしたほうがいいねえ……ぐぐ……】
お、声の挙動が変わった。これ茸の胞子みたいな寄生子だったりする?
「〈暴風〉、〈極光〉、ついでに〈水路〉」
風の力で反対側に押し流し、光魔法で影響を相殺し、漏れた分は水で押し流す。
【……見事なり……】
なんとまあ、死せる竜種は、最後まで己をどうにか保った状態で逝ったらしい。
最後の最後で褒められた。
ドラゴンゾンビだったものがざらりと消失すると同時に、白い豆腐みたいな部屋だったものが、その全体から謎の光を放つ。
これも今回初の挙動だなあ?
「コアルームへの道が開くよ。気を付けてね、ここのコアかなり根性悪そうだから」
リケラが真面目な顔で述べるので、取り合えず頷く。
「……うぇ、き、きもちわるい……」
え、ノノさんまたレベル酔い!?あいつレベルいくつだったんだよ!!?
220→480は流石に酔う。




