第55話 迷宮の仕様と横紙破り。
97層から。なお横紙破りやらかしてるのはどっちかといえば迷宮側。
「そもそも階層制迷宮というのは、層を下るごとに、順次レベルが上がっていくものって規定があるのよね。タワータイプだと逆に上がるごとに、だけど……ご近所にないんで割愛」
唐突に、リケラの迷宮講座だ。
今喋ってる辺りは、探索者のしおりにも書いてある基本事項だが、多分ノノがその辺の勉強をしてないのでね。
「当然一番強いのが最下層領域であるべきなんだけど……ここ既にそうじゃないよね」
「そうね、91層はともかく、沼地辺りで急激にレベルが下がったし、今もレベルはそこそこだけど個体数が全然いないわね」
「検知できる範囲に3体しかいないな。全部狩らないとだめかもだが」
一体めは既にさっきの〈氷結〉で倒せているが、あと何体いるんだろう。
オレのスキルも技能も、流石にエリア全域には対応していない感じがする。
倒したモンスターは、岩に擬態しつつ礫を砕いて砂にしていく、エルディムに存在していた植物をモデルにしたモンスターだという。
つまり、なるはやで全部倒さないと、エリア全域が砂だけになり、流砂の罠仕込み放題だよ!
休憩中に聞こえていたザラザラ音は、こいつが礫を取り込む音だったんだ。
「倒されたモンスター、複数のモンスターがぐっちゃり混ぜ合わされてるカンジがしたんで、急遽差し替えっていうか既存モンスを捏ねなおしてるんだと思う」
「つまりガチのリアルタイムで階層を改変してる?」
「多分そうね。恐らくレベルでは我々を阻めないって判断したんでしょ」
うわあ、嫌な話を聞いてしまった。
どのみちなるはやでこの階層を駆け抜けるしかないじゃないか。
だけどリケラの結論はめっちゃ納得がいく。
レベル4桁以上の探索者に、そもそもここらの迷宮は対応できない。
だってここいら辺で一番レベルの高い迷宮がこの茂崎第一、そしてここのダンジョンコア自体がレベル500未満、その程度しかいねえんだよな、この界隈。
ただ、レベル4桁自体がエルディムでも比較的レアではあるようなんだが……
レベル600未満の姉ちゃんですら、ここまでで物理が通るモンスターに後れを取ったことはないもんなあ。
魔法限定だとぐぬぬってるけど、それは仕様だから……
「というわけでノノちゃんは一時的にあたしの荷物になってもらうか」
「ぴゃっ?!」
「そうだねぇ、魔法使わないからアズちんが適任」
「魔法の組み合わせどれでいくの」
「盛大に水撒いてくれたらアタシが凍らせる」
言葉と同時に姉ちゃんがノノを小脇に抱える。姉ちゃんもその姿勢セレクトするんだ?
そしてリケラから無茶振りが来た。水?
「現物召喚はリキャがまだだから、水で一本道書く感じでいい?」
「走るスペースができればだいじょぶ!」
「おっけー。じゃあ〈水路〉」
そういや勇者セットじゃない魔法に、まっすぐ水路を創る魔法があったな、と、発動させたら、水路そのものは弾かれて、水だけがだだーっとまっすぐに流れた。
「水路を刻む魔法?そんなのまであるんだ……おっと、凍らせないとね……【ショグ……」
「第一世界の学校で習った灌漑用土木魔法だね。曲げるのは才能がいるらしいし、流石に迷宮の構造に干渉はできないけど!」
オレが放った水流を、リケラが魔法でがっちり凍らせていく。
その砂混じりで凍結した氷の上を走り抜けるから、ノノの靴だと危ないんでね、姉ちゃんが抱えたって訳だ。
なお魔法の最終到達点で、さっきのでっかいモンスがびっくんびっくんしてたんで〈雷針〉でトドメを刺しておいた。多分リケラの氷魔法のダメージが通ったんだな……
同じ手順で3回まっすぐな道を即席作成して駆け抜けたら、階層が切り替わった。
1回だけ途中で魔法が不自然に途切れたんで何かと思ったらトラップだったりはしたけども。
本当にこの迷宮、階層の変化が判りにくいとき多いよなあ。
98層は、また何の変哲もない森林だった。
但し、どの植物も寄生植物に覆い尽くされていて、枯れ果てる寸前だ。
「……なんつーことを……!!いやこれ背景だわ……」
リケラがいきなり怒り心頭モードになったかと思ったら秒でスンっ、と落ち着く。
成程エルフに心理攻撃?
「一見綺麗な花が咲いているのも、寄生植物なのですね」
「ああ、ストライガだなあれ。トウモロコシ畑とかに入られると畑終了になる奴……」
「この世界にあるものも再現するんだコイツ?ストライガって日本には未侵入よね?」
「熱帯植物だからまだだろうなあ」
やや近縁の半寄生植物なら川沿いに生えてたりしたけど、あれは作物被害の話はまだ聞いたことないしなあ。
今目の前で咲いている花は鮮やかな赤や桃紫、ライトブルーで、それらとは種が違う。背もだいたい高いし。
ストライガ、厄介なんだよな。種が細かくてしつこいし数が多くて防除しづらいし、寄生されたイネ科植物とか、組み合わせによっては収穫量ゼロになるレベルで搾取されるし。
おまけに、この目立つ花が咲いてる時点で宿主は完全に手遅れだというね。
まあこの迷宮で今目にしているコレはまがいもの、モンスターの一部だ。
この世界の迷宮に生息しているのはすべてモンスターだからな。
ドロップ品は純正の動植物由来の品も出るけども、それは迷宮に課せられた制約の一つだそうだし。
「でもなんだか、迷宮の存在そのものを象徴するみたいな風景ね」
「確かに……他世界への寄生者だもんな」
でもだとしたら、迷宮の開花、実りってなんだろう?更なる他世界への伝播と増殖?
だとしたら、最終的に世界が壊れるか、こいつらを駆逐するかの二択になる……?
「エルディムは壊れる寸前まで侵略されて、最終的にこの世界に落ちて、我々は生き延びたけど、迷宮も持ち込んでしまったよね」
「あれ、思ったよりピンチだったのか」
「でなきゃ世界の壁を越えてぶつかるなんてしないよ。ぶつけにいったのは恐らく迷宮、だけど……」
そこら辺は末期の混乱って奴で判然としないらしい。
ま、今追及することでもないしな。
「普通に歩いて行けそうではあるのですが」
「歩いて行くのは普通に行けるな。トラップは山盛りだけど」
「判定できてる時点で掛からないからなあ……」
これも迷宮の仕様だ。踏む前に存在が検知されたトラップは原則検知した人間には無効。
原則、なのは物理設置系だと解除不可能なものがあるからだな、落とし穴とか。
で、だ。
一本道のど真ん中に巨大落とし穴置きやがったよダンジョンコア。
底の方では何か触手系の連中がごちゃごちゃうねうねしている。溶かす系かなあ?
「うっわあ。ここにきてエロ触手混ぜる?」
そしてリケラが爆弾発言だ。エロ触手?そんなもん実在するの?!
「なになに?感度何千倍とかそういうやつ?」
「そこまですごくないけど性感アップとか聞いたことはある。食らったことはない」
「医療分野で活躍できそうだよなあ感度アップって」
エロ触手って医療目的で使ったら立派なリハビリツールになるんじゃねえか論ってあったよねー。あと姉ちゃんなんで楽しそうなの。自重!
「残念ながら性的目的以外には使えません」
「逆方向に残念だわ」
「いや、なんか目的絞らないと実装できないシロモノらしくてさぁ」
「どちらにしても皮膚や筋肉を溶かす系と一緒じゃ意味ないですねそれ?」
ノノさーん、それ会話内容判ってて言ってる?未成年も自重?
「触手談義はいいのでここ越えますよ、〈木橋〉」
「丸太橋なの?!」
「魔力の節約!」
危ない方向にトークが進む前に進行するよ!第一世界で〈水路〉と一緒に習った土木系魔法でゴー!
「安宿、あんた迷宮がなくなっても仕事に困らなさそうね」
「時間制限ありだからだめだよ!さっさと渡る!」
「孤立した人の救助には使えそう……」
魔法の詳細をリケラが知りたそうにしてるけど、後日だ後日!
結局エリアを抜けるまでに4回橋を架けた。
モンスター自体は穴の底でうねってる触手だけだったので、最後の穴の分だけ〈雷撃〉で一応吹き飛ばしておいた。
いやだって倒してないならクリア条件未達!とかやってきそうだからさ、ここのダンジョンコア……
正解だよ^^<クリア条件




