第50話 90層のボス部屋は。
今度こそボス戦だよー?
さて、無事腹ごしらえも魔力回復も済んだので、いよいよボス部屋の扉をオープンだ。
体力?減ってないんで問題ない。
ボス前を含む、迷宮内のすべての扉は、原則として無音で開く。
以前、ノノがボス部屋から出てきたときに音がした方がイレギュラーだ。
まあボス部屋から討伐以外の理由で退出すること自体が、仕様に存在するとはいえイレギュラーということで、あの音は実はイレギュラー通知音、つまりこれも迷宮の仕様だ。
なおこのイレギュラー通知音は、垂水では全然聞いた人がいないそうだけど、実は茂崎では普通に記録されていた。
スタンピードが発生するときにも鳴る音だからだ。
スタンピードは、原則として、迷宮が放置されてモンスターの生成数が飽和した時に発生する。
大体の場合、人類が到達したことのある階層の最深部から、モンスターが食らいあいをしながら駆けだしてくるんだとか。
当然ボス部屋も逆走してくるので、このイレギュラー通知音が鳴るという寸法だ。
……スタンピード発生時にこの音聞いた奴、良く生きてたなあ?
なお、スタンピード防止の巻き狩りは、このモンスターが食らうものを減らして、地上到達個体の強さを制限するのが主目的なんだそうだが……
複数階層を狩り尽くしてしまうと、生成数の飽和がなかったことになり、結局スタンピード自体が防止されるってのが判明して、以降は定期的に行うことが推奨されているそうな。
未到達エリアのモンスター数は、基本的に最低限一定数を維持だと言われている。
そして、人類が足を踏み込んだ途端に、人数に応じたモンスターが新規生成される。
随分みみっちい仕様だが、これは、迷宮が使えるリソースにも限りがあるのが原因だ。
そのくせ人類が一度通り抜けた部分には、みっしりモブを詰め込もうとする。
これは、人類に通過された階層だけが、スタンピードを誘発するための行動に移るってのが通説だ。
例外は、迷宮内で大量の死者が出た時。
これはモンスターの変異を引き起こす上に、短期間に大量のリソースを迷宮に供給することになるので、この場合だけは、未到達階層からも強敵が溢れ出す、質の悪いタイプのスタンピードになる。
茂崎第一迷宮界隈から一般地球人の皆さんが撤退してしまったのも、このタイプのスタンピードが発生し、周辺に大きな被害を齎したのが原因だ。
例の、ヤーさん方がドスやらチャカやら持って乗り込んで壊滅したアレだね。
ただ、この時のスタンピードは、規模の割に死者数が少なくてエルディム人が首をかしげていたらしい。
我が国、地震台風大国で防災訓練とか集団避難にある程度慣れてる上に、耐震構造の建物が頑丈だったから、じゃないかって話なんだけど。
実は今回、推定18名の死者が既に第二迷宮に吸われているので、うっかりほっとくとスタンピード確定だったらしいんだよね。
だけど、オレが駆け抜けでモブもボスも、全滅とまでは行かなくても結構な数を轢き潰してきたんで、発生は無事キャンセルされた模様。
まあどっちみち今回一回で底まで行ってコアはきっちり潰すつもりだから、スタンピード発生なんてしないんだけどな!
迷宮のスタンピードの仕様はさておき、扉の中だ。
取り合えず全員でぞろぞろと入る。パーティ単位で認識だから、一人だけ足がすくんだりした場合、暫く扉は開きっぱなしだが、ノノですらさっさと足を踏み入れてるので、背後で静かに扉が閉まる。なにげに閉まるのだけは自動なんだよな……
広い空間は、意外なことにがらんとしている。
壁面には装飾もなく、灰色の壁と床がただ広がっている。
天井は発光パネルのようなものが配置され、ランダムに明滅している。お、レイスが出入りすると点滅するんだな、あれ。
「教授なんだから研究室とか実験室とか書斎とかにしたらいいのに」
「自分の部屋とか、忘れちゃったのかなあ……?」
「家にあったものを再現する攻撃はしてきてたといえるし、攻撃時に何か生成してくるタイプかもしれないな」
道中で出てきた、ぬいぐるみや人形のカタチをした魔法生物を思い出すに、そこまで記憶は浸食されていないんじゃないか?という疑問はあるのでそういう想定をしておく。
「でもあれ、わたくしの部屋にあったものばかりで、おじいちゃんの部屋にあったものは見かけなかったと思うのです。
藤娘の木目込人形とか、木彫りの、シャケを咥えたクマとか、ありませんでしたよね?」
「藤娘……多分ない、はず。あと木彫りのクマって北海道土産の?
……巨大シャケがクマ齧ってるほうならあったけど……」
「そ、それはわたくしが頂いたものです……。そちらの方がクマさんがかわいかったので……」
「お嬢さん、なんかあたしと好みが合いそうな気配がするわね?」
「シャケはいいから!真面目に前見ようねっ!」
おおう、ノノさん意外と好みがワイルド?いや、クマで選んだらしいからセーフ?いや何がセーフなんだよ?
そして姉ちゃんまで混ざって、今しなくていい確認をしていたらリケラに叱られました。
いやぁ、だってさあ。
前を見ろと言われましても、ぱっと見、無人なんすよ、ここ。
上の方でふよふよしてるレイスも全然こっちに注意すら向けてこないし。
「どこにいるんですかね」
「ボス部屋に主がいないとか流石にあり得ないんだけど?」
「っつかダンジョンマスター=ボスって構図、事故以外であるの?」
「第二マスターに限っては今までの事例が全部そうなんよ。
まあダンマス側にとってはだまし討ちみたいなものよねー。
やりたいことがあってダンマス志望したのに、やらされるのはフロアボス!無様!」
「だが自業自得!」
「それなー!ダサイよね!」
エルディム世界の頃でも、今のこの世界でも、迷宮、というかダンジョンコアは、人類の敵だ。
そのダンジョンコアに迎合し、自らダンジョンマスターになることを求めるならば、当然その人物も、人類の敵だろう。
なので、評価は自業自得、としか言いようがないんだよなあ。
まあオレもリケラも、明確に、意図的に煽ってるんだけども。
「……しかし、煽っても現れないって、どうなってるん」
「エルダーリッチって極めて一部の例外を除いては、山より高いプライドの持ち主が多いイメージなんだがなあ?」
「かいちょーもプライドはがっつり持ってるタイプだよ?」
今までは一部の例外なんて除外設定はしなかったんだが、垂水の爺ちゃんという壮大な例外がですね……と思ってたら、あの人もプライドは高いとリケラ。
普段が商人としての接客モード全開で、そういうのを見せないだけ、だそうだ。なるほど?
「重ねて言うけど、煽っても出てこないってアンデッドにあるまじき謙虚」
「アンデッド化しても耳が遠いなんて事はないはずだけどねぇ?」
「まさか、フロアボスの仕事まで、ボケてお忘れになったのかしら……?」
姉ちゃんは呆れ、まさかのノノまで煽りに走っている。いやこれ、素か?
首をかしげていたら、徐々に周囲の温度が下がりだした。
といっても、ひんやりどまりだ。温暖化してしまった茂崎よりは涼しいが、真冬の垂水の外気温よりは、まだ暖かい。
【誰が、ボケておるだと……!?】
「身内の台詞が一番効いてる……」
「うむ、身内強いな」
「実際生前はだいぶボケておられましたよ!わたくしの事をしょっちゅうおかあさんと間違えていましたよね!!」
【うっ……!】
やっと声が聞こえてきたと思ったら、またもや威厳のないタイプの予感だよ!どうなってんだよこの世界のエルダーリッチ事情!
……もしかして:エルダーリッチに転変させてるダンジョンコアどもからして、結構ポンコツ?
バトルまで行かないじゃないですかやだー!
あ、50話到達したんで番外編付きでーす。




