番外編:垂水の英雄君に出会った。
50話到達したので番外編をちょっと。
43話に出てきた二人組探索者さんです。
「……アホボンの後入りなの、面倒だなあ」
「あいつら絶対どこか……先行組の手前で詰まるよなあ」
茂崎第二迷宮の第一層。
第一ほどではないとはいえ、広い湿地帯を前にぼやく、まあまあ若い男二人。
彼ら、初月拓斗と、星永周は迷宮管理組合の、特殊部隊のメンバーだ。
迷宮内でのトラブルや、事故の後始末などが主な仕事。
今回は、一泊予定で挑んだ中堅パーティが予定時刻を半日過ぎても帰ってこないというので、捜索の為、この茂崎第二迷宮に入ったのだが……
問題は、被捜索パーティと自分たちの間、今日の朝イチに入った13人の大所帯の方だ。
隣の垂水市でハバを利かせるアパレル会社のバカ息子が、何故かいつもの取り巻きに加えて未成年の少女を一人伴って連れ込んでいるというので、嫌な予感しかしない。
いや、迷宮内で、彼らが最初に連想した淫行行為、のみならず傷害、強盗、果ては殺人などの犯罪行為に及ぶバカも、たまにいるのだ。
大体その後二度と迷宮内に入れない、つまり出禁処分を食らうのだが。
あいつら住民カードと探索者証が紐づけされてるの、判ってないよね?が、出禁の為の処理を行う、そしてそれに関連するクレーマーを塩対応であしらう職員たちの基本の感想だ。
「それもだが、あのちびっこ、偽装証だったろ」
「だなぁ、だがそっちは現状俺たちの仕事じゃないし……おや?」
報告は一応したのだが、上層部の方の反応がなんだか宜しくないので、それは自分たちの仕事じゃない、と一旦判断したところで、後方に新たなる迷宮参入者の気配。
「あれ、英雄君じゃん」
「だがソロだな?」
振り返ってみた先、この迷宮で唯一、入るも出るも自由な魔法陣が設置された場所にいるのは、長身の黒髪に、ライムグリーンの瞳がやけに馴染んだ若い男性。
垂水第一踏破記念のパーティの一つに出たから、二人は知っている。
彼が、垂水第一の踏破に貢献したという、夜楠安宿だ、と。
基本的に常時、姉である『[勇者代理]アズ』と、エルディム一のハイパー魔力エルフ、リケラのコンビと、現れて以降ほぼいつも一緒にいる『垂水の英雄君』、掲示板の一部勢によれば『アズ様の弟君』が、何故か、ソロ。
それにしても随分軽装だなあ、普通に地上のコンビニ行く姿では?と思う、それなりに重装備の二人。
「すいません、今からちょっと駆け抜けやらなきゃいけないんで、できたら退避願います」
スルーして追い抜いて行くかと思いきや、おもむろに話しかけられる。しかもいきなり退避要請だ。
「うん?垂水の英雄君じゃん。ソロ踏破狙うの?」
「いや、合流地点に姉ちゃん達を待たせてるんで急ぎたいんで」
そして探るために軽く話を合わせたら、合流、という単語。
いや待て、茂崎迷宮、確かに前から噂にはあったが、本当に繋がってるのか?と内心驚く男二人。
「……マジで中繋がってんのか!うん、佳境っぽいのは判った。ここ、潰すんだな?」
「多分。かなり底の方がヤバいんで、維持は無理だと思う」
そして、あっさりと迷宮を潰すという言葉が出た自分たちに驚く間もなく、相手はさらりと維持が不可能だと断言する。
あ、これ、ホンモノだ。
二人は交し合う目線だけでお互いの認識を確認する。
彼らが職務として裏方的な仕事を主にしているのは、この名状しがたい理解力、または勘の良さが買われてのことだ。
「おっけー、健闘を祈るが、俺らの前に入ったの、垂水のアホボンのはずだから説得は無理かも!」
「あ、板に情報流していい?あとアホボンの前に入った奴らの消息判ったらあとで教えて」
だから、次に出てきたセリフは二人とも完全に相手の言葉を肯定した結果の返しだったし、若い星永の方はちゃっかり仕事を丸投げだ。
「うわあマジか、情報ありがとう!!ああ、探索者板にも話は流しておいて!」
そしてその事実に気付いているのか、いないのか、垂水の英雄氏はそう述べると、さっさと踵を返した自分たちに手を振ってくれた。
少しして、やや遠くから、ドン!という音。
「……うわぁソニックブームって奴?よく判んねーけど」
「速度全振り系エルフでも音速越えた奴はまだいねーぞ?」
「……気を使ってもらったなこれ?戻るかぁ」
「はいよ」
顔を見合せた後、出入り口の魔法陣を踏む二人である。
地上に戻ったら戻ったで、受付嬢が宇宙猫顔のままで魔法陣をガン見していた。
どうやら、さっきの彼以降、ここに訪問者はいないようだ。
但し、それ自体はいつもの事だ。
食料が出ない上に難易度の高い茂崎の迷宮は、基本的に人気がないのだ。
金欠初級錬金術師が素材を求めて浅層をうろつくか、魔力ポーションが必要な魔法ユーザーに依頼された中堅どころの連中が時々潜る程度なのが、ここの日常だ。
第一エリアが湿地帯、というのが更にその人気薄に拍車をかけている、というのが薬品確保のために、日常的に渋々潜る職員勢のほぼ統一された見解だ。
「おいおい木在、何呆けてんの。一大事だぞ」
「転勤準備しないとだぞ!」
だが、迷宮から早々に戻ってきた男二人の発言は、随分と軽い。
「いやいやいやいや、転勤て、どういう意味です?冗談きついですよ初月さん」
我に返った受付嬢、木在がいつもの調子に戻って年長の男の方に向かって苦笑する。
「垂水の英雄君に話聞いてるだろ?ここ、潰れるぞ」
「え、でも可能なんですか、そもそもこの短期間に80層って」
「さっき音速越えてたからイケんじゃね」
そう口々に述べているものの、既に仕事というより雑談モードになっているのは、星永がスマホで掲示板に情報を書き込んでいるからだろうか。
「……垂水市警だ。令状が出ている、従わねば逮捕だ」
そこに現れたのは、警察の腕章だけを着用した、私服警官らしき数名の武装した男たち。
それでも、男二人も受付嬢も、まるで動じた様子がない。
「おう?警官さん方どうしたよ?」
「どうしたじゃないですよ!偽装探索者証通したでしょあんたら!」
「未成年ですよあれ!」
「……はいはい、ここまで茶番」
そして、提示された令状とやらを見た受付嬢の顔が、唐突に冷たい無表情に変わると共に、一見脈絡のない言葉を放つ。
「ちゃ、茶番だと」
「令状自体が偽物じゃないですか。迷宮管理組合をナメて貰っちゃ困るんですよ」
「……あー、垂水のアレか」
「月さん星さん、やっちゃってください」
「何?!わあ?!」
そして、雑に受付嬢――彼女は、【真贋看破】というレアスキルをお持ちだ――に呼ばれた男二人は、一切躊躇わなかった。
多勢に無勢のはずが、あっという間にたった二人に制圧される偽警官たち。
「ねえ木在ちゃん、その時代劇みたいな台詞、なんとかなんない?」
「えー、かっこいいじゃないですかー」
「はいはい住民カードの偽装も確認!物証げっとー」
「つーても正規警察もあいつら相手だとまともに動かんよなあ」
そして口にするのは権力側の腐敗。
なにせ、住民カードの偽装をひっぺがしたら、ホンモノの警察官がひとり混ざっている体たらく、だったので。
そんな違法侵入者達は、無事?に、エルディム人の多い役所の方に引き渡された。
住民カードの偽装は、生活インフラの根底を揺るがすタイプの大罪だし、システム構築を主導したエルディム人の沽券に係わる一大事なので。
「魔力痕跡確認。あのクソガキ、案の定ナイジェラと組んでやがったな?」
「ナイジェラ?あ、あのアホボンのとこか」
「前からスキル偽装だの改変だの誘拐だの、裏での噂はあったんだけどね、これでガサ入れまで持ってけそうだわ」
魔力系の証拠固めのために派遣されてきた、技術屋でもある見た目だけ幼女エルフの乱暴な言葉に、そういやあいつらも今こっちの迷宮にいるな、と思い出し……
まさかな?と、嫌な可能性に思い当たる職員一同である。
その可能性が杞憂だと確定するまで、今暫し。
というわけで地上も既にドタバタが始まっている。
二人組、探索者を探索する勢なんで、実は人類の上振れ組です。
しかしこいつら釣る為にノノちゃん通すとか無茶するなあ(あとでリケラにしこたま叱られる奴)




