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第51話 エルダーリッチの本分?

 ……から全然ずれてるとかいう話。これでも一応フロアボス戦。

 狼狽の声と共に姿を現したのは、思いのほかオレのイメージに合致したタイプのエルダーリッチ、って奴だった。テンプレ的な?


 随分細長い印象の、恐らくオレよりだいぶんと高い位置に頭がある長身は、骸骨に薄っすら乾いた皮が張り付いている、所謂ミイラって奴で。

 色褪せて破れほつれ、黒と灰色の斑になったローブを着込み、頭には僅かに残ったざんばら髪を押さえつけるような、光沢のない金冠。

 ……生前の姫酸実教授は結構小柄な人だった記憶があるので、正直このエルダーリッチとは結びつかない感じはする。


「おじいちゃん、随分身長盛ったんですね……?」

【私の希望など聞かれておらん姿だ!無駄にでかすぎるし、指の微細な動きが到底再現できん!これでは調剤どころではないではないか!】

「いや教授って確か、実務は教授着任のだいぶ前に退いておられますよね」


 ノノさんが相変わらず辛辣で、思わず口を挟む。体験講義で配られたレジュメと一緒に、研究者と薬剤師を兼業してたって経歴が載ってたのを、なんとか思い出せたから。


「安宿《あすか》の口調が学生に戻ってる」

「思い出したのがそこらへんの頃の話だから、つい」

「おにーさん、大学生だったんですね」

「元だよ、学校なくなっちゃったから」

「あ、そっか。ともかくおじいちゃん、研究もできなくなってるなら、そろそろ成仏してくださらないです?」


 そしてノノの要求は残酷にもド直球だ。

 うん、エルダーリッチがミイラ顔にあからさまな動揺とショックを浮かべております。

 ……ちょっとかわいそう。


【ななななな……それが……孫の台詞かあああああ?!】


 おお!言葉と同時に【呪い(カース)】が飛んできた!!

 やっとエルダーリッチっぽくなってきたぞ!!当然防ぐけど!!

 今のオレ自身が呪い完全無効だから、飛んできた呪力を手掴みしてやれば、そのまま呪力は雲散霧消だ。楽でいいな!


「安宿、そこで嬉しそうにするのやめなさい?」

「いやだってエルダーリッチとしては、こんな風に通常トークに織り交ぜて無詠唱呪詛とか繰り出してくる方がそれっぽいというか」

「残念ながらわかりみしかない……地球人《アースノイド》系エルダーリッチ、どうにもこうにも変なのおおすぎ……」


 そして姉ちゃんには態度を窘められ、リケラには何故か全面同意された。

 ……いや待って、他にもそんな残念系しかいねえの?今のこの世界のエルダーリッチ……?


 後で聞いたら、種族はエルダーリッチのまま、嬉々として人類側でモンスターや古代言語の研究に励んでる、推定元ダンマス個体がいるそうだ。それも複数。なんでだよ!

 元ダンマス個体じゃないかってのは、垂水の爺ちゃんの件から芋づる式に判明したらしいけど。

 砂に埋まった国のいくつかで、エルダーリッチだけがぽつんと存在してた事例が複数あるんだと。

 そして過半数は討伐されたけど、何故かさっくり白旗上げた奴らが、生前いなかったモンスターの研究に張り切ったり、翻訳機能で読めるようになった古代文書に歓声を上げて飛びついたりしたんだそうで……

 ……やっぱこれあれか、悪意系の感情が薄口なの、自然発生モノじゃないからか?

 そういう悪意や恨みつらみを蓄積する時間がないと、こうなる?


 ただ、今回のエルダーリッチ化した教授は、どっちにせよ討伐せざるを得ない。

 何せ、フロアボスだから……っておい?フロアボス?復活するんじゃねえのこれ?


「なあリケラ、フロアボスだよなこれ」

「第二マスターはフロアボスだけど、討伐したらこの場にサブコアが沸くからカチ割れば復活はしない」

「ねえそれ第二マスターがいる方がリスキーなのでは?」

「普通はそんな簡単に討伐できないのがエルダーリッチ、の、はず」


【こちらは真面目に敵対しておるのに!ぐだぐだと!駄弁るな!講義中にも私語するタイプか貴様ら!!】


 そして条件を確認してたら教授リッチに叱られた。解せぬ。

 当然のように台詞に被せるように闇属性魔法とか呪い系攻撃が飛んできてるけど、結界で全部弾ける程度だ。

 流石に随時張替えは必要だけど、元から多重に貼ってるから、特に問題はない。


「攻撃通してから言ってください。あ、ささやかですがお返しです、〈極光《スフェアラ》〉どうぞ」

【グアアアアアアアアア!!?!】


 大人げない返事をしつつ、光範囲魔法で攻撃。

 天井でフヨってたレイスの大半が一発で消失したものの、流石にエルダーリッチだけあって、教授の体力はまだ結構残っていそう。


「流れるように魔法が飛ぶ……光がきれいです」

「少年、道中の倍の結界展開してその台詞は大人げない!」

「これでも会話が成立してる分控えめだぞ?」

「安宿、これ、優しさを発揮するシーンじゃないからね?」


 いや、別に優しさを発揮してるわけじゃなくてだな。

 こっち向きに考え方変えてきたらどうしよう、とか思ってるだけだから。

 まあ今回の場合、そういうことはなさそうだけど……


 正直ノノの感情が読めないんで、一気に倒しちゃっていいのか迷ってるところが、ないとは言えない。

 彼女の言葉と態度はきっちり倒されてください、で一貫してるんだけどさ。

 肉親相手にそんなにきっちり割り切れるものなのかなあ、という疑問がですね。


 ……いや、言い訳だな。

 これはオレ自身の問題だ。

 意思疎通が可能に見える相手だと、どうしても、手が緩む。

 最初に倒した魔王、あいつのことを、未だに引きずってんだなぁ、オレ。

 でもしょうがないよな?あいつ、オレの最初の親友だったんだからさ。


 元居たこの世界では、オレは識字障害を抱えたまま、それでも進学したくて必死になっていたし、両親が早くに死んだ加減で、寄ってくる奴も少なかったから、親友なんてとてもとても。

 クラスメイトどまりで、友人らしい友人も、いなかったからな……


 うん、暗黒青春時代。最初の召喚先の学園生活の方がよほど充実してた。

 試験でお古のワープロ使わせてくれたこっちの高校と違って、あっちの文字も結局書けなかったから、成績はそっちの方が悪かったけど!


「じゃあ終わらせちゃっていいですか」

「やらないと進まないでしょ!」

「わたくしに許可を取る必要はございません……」

【余裕ぶるのも大概にしたまえ!!失敬な!!】


 ……討伐対象の教授本人にまで叱られました。済まぬ。

 確かに舐めプ気味の思考になってたな、反省。


「確かに失礼しましたー!じゃあ全力でやらせて戴きます!【複層詠唱】〈光環《スフィリカ》〉」


 元勇者としての全力、ではないけど、自分の魔術師としての全力で行くことにする。

 【複層詠唱】は友人に教えてもらったスキルだ。多重詠唱は八重《オクタ》が仕様上の限界だが、こっちなら鍛錬の結果、12層まで重ねられる。

 ……それでも友人には追い付けなかった。あいつ最後に見た時は20層行ってたし、オレと違って複数種類の魔法を重ねられたからな。オレだとそっちは多重じゃないとできない。

 普通は逆だって呆れられたけど……そもそも両方取得できるのがイレギュラーらしいからなあ。


【ぬおおおおおおおおおおおおおおお……おぉ……】


 12個の、不規則に輝く光の環状の帯がエルダーリッチの全身を締め上げ、そのまま分解していく。

 拘束型の魔法にしたのは、最後っ屁防止だ。

 エルダーリッチなんだから、そのくらいしてくるよな?


 結局、エルダーリッチは姫酸実教授の顔を見せることなく、最後っ屁の何かも不発させたまま、光の環に存在を相殺されて消えていった。


「おじいちゃん……おやすみなさい」


 ノノが、ぽつりと呟く。

 でもその言葉に、昏さはない。どちらかというと、含まれているのは安心、だろうか。


 さて、サブダンマスは倒した。リケラによれば、ここにコアが出てくるらしいが……

 多分この世界の一番一般的なエルダーリッチだったはず<教授

 垂水のじいちゃんはイレギュラーの極北個体だったので……


 翻訳機能は本来文字は非対応だけど、音が判ってれば読み上げて翻訳が可能なのだ……

 ……多分それを逆手にとって音価確定とかもしてるんじゃないかな……

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