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第46話 割とガチめな迷宮の悪意。

 タイムアタック後半戦。

 さて、休憩が済んだので再び出発、だが……

 その前にやるべきことがある。


「ちょっとごめんな、……【反転《フリップ》】」

「え?あ?ええ?」


 普段は文字化け状態で格納されているスキルのひとつを、ノノのスキル【持衰《じさい》】に使用する。

 スキルの名称自体は変わらないが、効果が反転している状態だ。


 つまり、ノノが受けたダメージを、周辺の人間に肩代わりさせる状態。

 この【反転】、通常状態で使うと、効果は1時間だ。


 まあそのくらいあればこの層は抜けられるはず。

 但し、火の鳥野郎が逃げ回らなければ、なんで……今回は念のため、2時間指定だ。


 今回の場合、周囲にいる人間はオレだけなので、オレが全部肩代わりだが……

 ここまで一回として、オレにダメージが通ったケースがないので、さてどうなるやら?


 高温軽減の護符と結界を準備して、61層に足を踏み入れる。

 ……うん、問題ないな。

 ダメージがもりもりオレに転嫁されてきてるけど、体力が削れる感覚自体が、まるでない。

 これはオレの現在のレベルと体力が多すぎるのが主原因なので、平常仕様だ。


「え?なんで?え?」

 宇宙猫モードのノノを小脇に抱えたまま、まっすぐルートを駆け抜ける。

 飛んでくる火の玉は全部スルーだ。

 ボス部屋を持たない、徘徊タイプのボスには雑魚討伐は必要ないんでな!



 大体大雑把に駆け抜けて、70層に入ったら、なんだか様相がおかしい。


 おーい、道がねえぞ?


「迷宮ってリアルタイム改変ありなのか?反則じゃね?」

「そ、そうなのです……?

 垂水第一が3日前くらいに10~19層を改装するので閉鎖、という謎の通知が来ていて、実際そこだけ飛べなくなってますけれど……」

「あそこは……諸事情でそういうのもアリになった……そう滅多にはないはずだけど」


 爺ちゃん早速改装してんのかよ!早いわ!

 あーでも、あそこの実情は迷宮管理組合の幹部周りには通達済みで、生ごみとか産業廃棄物の一部を迷宮に持ち込む契約がもうできてるからなあ……


 なおアホボンが先日、今日とこっちに来てたのは、そのせいもあったらしい。

 レベル酔いしない程度のパワレベが目的なら、階層的には合ってたのかな?



 それはさておき、ここに長時間留まるのは、ありかなしかでいえば、ナシだ。

 流石にねえ、オレだって暑いんですよこのレベルの温度だと!


 でもその前に、『現品召喚《リアルオーダー》』のリキャストは……おっけー。

 といっても、あれは同じものを2回連続は呼べないんだけどね。


 確認していたら、上空から熱と殺意。

 成程、ファッキンファイヤーバード氏は上からお出ましか。


「足止めだったんだ?意味ないなあ。〈瀑布召喚《オーダー・ヴィクトリア》:サイドアタック〉」


 済まんな、別の滝なら呼べちゃうんだわ!

 まさか、勇者なんて胡散臭いモノになってから、学校で真面目に勉強しといてよかった!なんて思うとはねえ……


 オレの足止めをしつつ確実に仕留めようと上から急降下してきた火の鳥君は、今回は横殴りの水に押し流されることになった。


 流石に上から降らせると、こっちも変なことになりそうだったんでね。

 結界張ってるから平気ではあるんだろうけど、ノノにダメージが行く可能性がゼロではなかったんで……


「あの、今、なにを」

「世界三大瀑布の一つをちょびっとだけ借りました」


 真面目な話、魔力量の都合があるんで、実際の大瀑布の、ほんのちょびっとしか呼んでません。

 それで、この威力。自然ってやべー。


 なお、秒で押し流されて見えなくなった火の鳥君は、無事ぺったんこになったらしく、気づけば足元にはドロップ品と箱がひとつだ。

 速攻スキルが回収してくれたけど。


 大量の水で一時的にマグマが冷えたのか、ボスがいなくなって通り抜けの条件を満たしたせいなのか、やはり温度が下がって、一気に走りやすくなった道を進めば、転送魔法陣だ。



 特に問題なく転移した先は、やはり石の壁、だったんだが……


 80層じゃないな、ここ?

 探索者カードで確認したところ、どうやらここ、71層。

 ご丁寧に到達階層のところに、『79層:L』『70層:R』の文字が。

 右が第二で左が第一なのか。

 なお探索者カード部分に記載される到達階層は、踏破済みのものだけが表示なので、この表示で合ってはいる。


「もっかい80まで走れと?まあやるけど」

「腕、お疲れじゃないですか……」

「このくらいならまだ全然平気。君は軽いし」


 まあ、あのゴーレムなら別に大したことはないし、ミミックは今回はトラップ絡みで迂回する場所以外は全スルーでいいしな。


 と思って走り出したのは良かったんだが……


 出てくる敵が、違うじゃねえか!!

 ほんっとうに根性悪いな、ここのコア!!


 なお出てきたのは、動く人形だ。但しどうみてもホラー作品に出てくる、祟る奴。

 市松人形、ビスクドール、商標絡みがめんどくさそうなビニール系の着せ替え人形、それにテディベアやら、動物のぬいぐるみ。


 それらが何故かホラーアレンジされた状態、つまり血まみれだったり、怖い顔していたり、ところどころ壊れていたりの状態で、こっちににじり寄ってくる。


「え、あ、うそ……」


 抱えているノノが、何故かそれを見て震えだす。なんだ?

 いや、オレよりこういうものに触れる機会は確実に多かったはずだろうけど、女の子だし……

 うちは姉ちゃんが人形にあまり興味を示さないタイプだったから、着せ替え人形辺りはさっぱり判らん。ぬいぐるみは今も実家にいっぱいあるけど。


「……大丈夫か?」

「わから、ないです。あれは、ほんものですか」

「魔法生物分類だから、モデルになった人形はあるのかもだが、迷宮が魔力で生成している、要するにパチモンだね」


 そう答えたら、少しほっとした顔になるノノ。

 ……どうやら、この人形群の見た目に、心当たりがあるようだな……


「倒すしかないから、見たくないなら目を閉じてな」

「そう、します」


 ありきたりなアドバイスをしたら、ノノは目をぎゅっと瞑って、空いていた自分の手で耳を塞いだ。

 そういうところはちゃんと機転が利くんだな。


 なお人形群の強度自体は、ゴーレムよりちょっとヤワいくらいだった。

 但し、ゴーレムと違って、呪いのようなものや、魔法攻撃もも織り交ぜてくる、割とめんどくさい奴だ。


 ノノのスキルに掛けた【反転】、念のために効果時間2時間に延長しといて大正解だったよ。

 この呪い、範囲攻撃じゃねえか、面倒な!


 なおオレ自身は現在は呪詛系も完全無効だ。

 昔は、エルダーリッチの最後っ屁を食らったこともあったけどね。

 あれから更に光属性も闇属性も伸びたんで、もう君を呪うのは下手したら魔王でも無理ねー、と、大巫女のねーさんに言われたからな。


 そんなわけで、第二にしちゃ殺意の割り増し加減が酷いなあと思ったけど、そういえばここはもう第一迷宮の領域なんだよな。

 それなら、この殺意は納得だ。


 ただ、強さはともかく、根性の悪さは第二も大概だと思う。

 それでも確かに、こっちの方が倒しやすいのがいたけども。オロチ君とか。


 そういや武器のチェックしてないな。

 第二だし呪われたりしてそうだけど、と、収納に収まった武器を見る。

 うん、ぶっちゃけね、ドロップは自動回収で速攻収納送りにしてたから、見てなかったんだ。


 ああ、はい。そうですよね。ヤマタノオロチといえば、神剣でしたね。


《『あめくも』:神剣レプリカ。現在のこの武器に大きな能力はない》


 鑑定結果は微妙なものだ。

 育てる系、今のところ用がないっていうかそのー。

 今3本くらい、死蔵してるんで、育成済み神剣……


 ……正直なんで3本もあるんだよ感は、自分でも、否めない。



 ドロップ品にがっかりしつつも、どうにか80層のドアに到着だ。

 そして、流石にここまで来れば、女子二人《パーティメンバー》の状態は判るようになる。


 ……うん、特に問題なくおやつタイムしてますね。予想以上に平穏だった。


 そんじゃ、ドア開けますよ!


 ……あれ、妙に反対側の扉と壁、近くないですかね?

 ぐるりと見回すと、ボス部屋前で突っ立って、仲良くポテチを食べている女二人。

 姉ちゃんもリケラも、完全に平常進行ですね。知ってた。


「お、到着早いー!ってなにその子」

「少年おかえりー!でもなんで幼女連れなん?」

「途中で拾った。あと例のアホボン死んだぞ。20層でボスに返り討ち」

「マジか、人間あっけないなー」


 ああ、なんとか姉ちゃんのご機嫌が悪くなる前に戻ってこれたぞ!!

 ほんっとマジここの迷宮コア、絶対オレの手でカチ割る!根性悪すぎる!!

 実は時間経過で壁が狭まるタイプだった。

 ……が、主人公の全速は完全に想定外だった模様。

 なお一章で世界樹さんにスキル貸した時に使ってた〈反転〉はスキルじゃなくて魔法なのでルビが違う。

 ※ノノしかいないので油断して素でスキル使ったよこの子。

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