第44話 『贄の娘』というハンデ?
ハンデっていうんだろうか、これ。
なお非常にキリが悪かったため、何時もより文字数多めです。
改めてスキルを確認したら、彼女のスキルの【持衰】、使えたシロモノじゃなかった。
確かに、蘇生には違いないんだが……その代償は、彼女自身だ。
つまり、誰か一人だけ生き返らせる、イコール、彼女の死だ。
させられるわけないだろ、そんな無意味な生贄に、なんて。
「……あの連中に使ってやる理由はどこにもないな」
「ですけど、わたくし、借金のカタで人権停止を受けておりまして」
「本当に君自身の借金であっても、未成年の人権を一企業に弄れるわけないんだが?」
君そもそも未成年だろ、と突っ込んだら、少女はうっ、と言葉を詰まらせた。
垂水一のアパレル会社、『ナイジェラ』だったかな。
……なんか叩いたらいっぱい埃が出てきそうだなぁ。
いや、それよりこの子どうするかな?連れて行くのは無理なような、いけなくもないような。
この少女、自称ノノは、体力も魔力も多くない。
魔法も使えなければ、スキルも【持衰】ひとつだけだ。
ノノというのも本名ではない。
探索者証は仮のものだし、住民カードも空間属性の付いてない偽物だった。
なんでこれで迷宮通行許可が出たのか、謎だ。
とはいえ、そこいら辺の経緯そのものは今のオレには関係ないので意識の外に追いやる。
仮称ノノは、このレベルでこのエリアに置いておこうものなら、確実に毒蛇の餌食だ。
あいつら結構探知範囲が広いし、移動範囲も広いようなんだよな。
蛇を討伐したボス部屋に置いていくのも不可だ。
オレとパーティを組んでいるわけじゃないから、恐らく一緒に入ったとしても、彼女の方には討伐フラグがいかない。
パーティリーダーは姉ちゃんだから、オレではパーティに組み込むための操作ができないんだよ。
そして姉ちゃんは第一の奥にいるので、現在の第二の浅層にいるオレとは連絡が付かない。
地上に送り届ける時間は……ないわけでもなかったんだが、それを彼女の事情の聞き取りにうっかり使っちまったよなあ、オレ。久々に、やらかした。
勇者補正って言うんですかね。
理不尽な目に遭っている人を見ると、助けたくなっちゃうんだよ。
勇者セットに振り回される、数少ない瞬間ともいう。
ま、やっちまったモンはしょうがない。
ノノはリケラよりだいぶ身長も低いし、体型も細すぎる気はするけど、子供のそれだから……うん、なんとかなる。
「んじゃちょっと暫く荷物になってもらうかな、どうみても戦力外だし」
「えっ」
「ここに置いておくのは無理だし、戻る時間もちょっと厳しいんでね。タイムアタックに付き合ってもらう。
ネタは割れていて死にはしないから、そこは安心してていいよ」
しいて言えば61層からの炎熱エリアが問題だが、一応対策はある。
だから、不安要素は口にしない。
ノノの服が汚れたままだったので、〈クリーン〉をかける。
さっき治癒魔法はかけたけど、古傷や痣が、手足と、見えてないけど服の下にもあるのが、その時に判ってしまってですね。
理由を確認したくなったけど、これ以上時間はかけられない。もうボス部屋は開くのだ。
「ではちょっと失礼して」
「え?きゃっ」
鳩豆顔のままのノノを、左腕で小脇に抱える。
ここのモンス、割と積極的にバックアタックかましてくるから背中はだめそうなんだよな。
まあ触れさせる気は当然ないけども。
空いた手でボス部屋の扉を開く。
明らかに第一で倒したそれより強そうな、短い角のようなモノが生え、色も単色から斑模様に変わった毒蛇が、シャアッ!と威嚇の音を立てる。
まあ〈ウィンドエッジ〉で瞬殺なのに変わりはないんですが。
数か所を輪切りにしたら、ざらっと崩れて消える蛇。
箱は当然自動回収、案の定一つだから、ノノに討伐フラグは付いてない。
ここで箱が出ていたら、この場所から出ないように厳命するだけでよかったんだがなあ。
「つ、つよい……」
「さっき第一の80まで行ったからね、オレ補助役だったけど」
補助メインだったのは本当だぞ!
姉ちゃん、バトル中はオレの事をちょいちょい忘れてるから討伐の仕事、あんま回ってこない!
あれ、ノノのレベル、上がったな。パーティ外でも密着してれば経験値流れるんだ?
まあいい、レベルが上がる事自体は悪い事じゃない。
中学生なら、レベリングも親の許可があればできるそうだし。
通過地点に過ぎない蛇部屋からは速攻で出て、今度は……あー、キマイラ沸かす奴か。
取り合えずエリア際まで普通の人より少し速い程度の速度で走る。
ここのモンスター、俊足型が多いなあ、蛇まできっちり追跡してくる。
「うわ、あの、すごく、ついてきてる」
「ある程度倒さないとボスが出ないんで仕様です。〈雷撃〉」
ビビるノノに答えて、ついでのように雷魔法をぶっぱなす。
当然一掃だ、撃ち漏らしするような階層じゃない。
但し階層ごとにやるから、同じ工程を10回だ。面倒。
途中からはダッシュ速度を上げて、引っ掛けるモブを三分の一くらいまで減らしたが、ボス扉は問題なく開く。
中央でライオンの首だけが吠えるキマイラは通常個体だ。
やっぱり探索者を返り討ちにすると変化するんだな、こいつら?
こいつも姉ちゃんに倣って、〈ウィンドエッジ〉で全部の首と肢と尾を落とせば終わり。
箱はやはり一つだ。うん、経験値しか恩恵ないんだな、パワレベって。
「レベルだけ、あがるのですが」
「パワーレベリングって奴かなあ、レベル差無関係に経験値は流れる仕様っぽいね」
オレには経験値は一切入っていない、はず。リケラどころか今の姉ちゃんですら、経験値が入るのは40層以降らしいし。
……それにしちゃ、姉ちゃん、500台後半ってレベル高いな?
今判らないことは置いておいて、ここもさっさと抜けて、次はヒポグリフゾーンだ。
ここの連中は構いに来た奴だけを落とす。
魔法はほぼ無効と聞いてたけど、物理で物質としての石が出てくる系は普通に通った。
それでも頭にヒットさせないと一撃では落ちないけど。
流石に上空から来るものを片手ふさがってる状態で物理で迎撃するほど、お荷物付きプレイには慣れてないよ!
近接すると普通にノノが危ないから、なしだよなし!
いやね?魔法ばっかり使ってるけど、オレ一応元勇者だしね?近接戦闘も一通りはできるんだよ?
姉ちゃんが斬特化の超近接前衛だから出すトコがないだけでね?
ボスも合わせて、ヒポ皮が3枚増えた。よきかな。
これはきっと高く売れる。リケラがそう言っていた。
なおボスは魔法完全無効だったので、〈石〉という第三世界での初歩魔法で、握りこぶし大の石を作って投げつけたら終わった。アホ口開けてたところに飛び込んで、後頭部まで突き抜けたんで即死ですな。
さて次、と思ったらぐきゅる、と腹の虫が鳴いた。
魔力もそろそろ怪しいし、やっぱりここで休憩を取らざるを得ないなあ。
一旦ノノを降ろして、敷物を取り出して敷く。
「え、あの?」
「魔力回復と腹ごしらえの為に休憩。魔力の回復って腹減るんだよ」
そういや彼女もレベルアップに伴う魔力回復で空腹なんじゃないか?
と、ここで初めてステータスを確認する。
あれえ?もうLv30になってる。そんなに数倒してないがなあ?
魔力はもともと少ないタイプらしくて、魔力回復は負荷にはなっていないようだが、Lv30で体力魔力2桁は流石に少ないんじゃないか?
「食べられないものはある?」
「肉や魚は食べるなって……」
「健康に悪いな?」
ひとつ前の世界で手に入れた〈診断〉の技能でチェックする。
……中度の栄養失調。これ完全に虐待されてた奴じゃねえか!!
なんで、ここまでそこを調べなかったんだよオレ!
「今オレが聞いたのは、体質的に食べてはいけないものはあるか、という話だ。
君自身の意思で食べたいものがあるなら言ってくれればいい」
「……たまごのサンドイッチが、食べたいです……」
「好きなの?」
思わず聞き返したら、こくりと頷くノノ。うん、嘘は、言っていない。
……異界の鶏たち、今回だけは許してくれ。これは多分、緊急事態だから。
届くはずもないけど心の中で謝って、大事にしまってあった、特別な卵サンドを取り出す。
いや、数は結構あるんだけどね?他の人に渡すなって言われてる奴だからさ!
でも今のノノの体調だと、このクラスの食べ物を渡さないと、良くない。
これは診断技能の判定だからな!しょうがないんだからな!
「……おい、しい……!」
「友達に貰った特別製さ。数はまだあるけど、滅多に出てこないのでよろしく」
自分の言葉を証明するように、オレも同じものを取り出して、ぱくり。
……あ、だめだ、これマジで余人に渡しちゃダメな奴だ。めっちゃ回復する。
いやでも今回はこれじゃないとだめなのも、確かだな。
ああ、あいつらには助けられてばっかりだ。この遠く離れた世界でも。
……ハンデというか、この子いないと1pで70まで終わるなこれ。
あと流石に人権停止を個人や企業単位でできるわけもなく……
Q:持ち出し禁止じゃなかったん?
A:そういう事にしとかないと姉ちゃんにバレるんだ。




