第40話 灼熱のマグマエリア。
割と通す気がないとかいうアレ。
転送された61層は、確かに暑かった。
見渡す限り岩石しか見えない荒野に、ところどころ赤く燃えるマグマの奔流が流れている。
といってもこの風景も現実に存在しているのとはちょっと違うらしい。
マグマ自体はただの背景だ。少なくともこの層では。
「これが65くらいになるとマグマがガチのマグマになります」
「暑くて居られなくなるのよねー。食事も切れる頃合いだし」
「んじゃちょっと試しにこれ持って、魔力通して」
小さな布地に刺繍が施されたものを3枚取り出し、ひとつは一応自分に使う。
取り合えず動作はするようだから、重ね掛け効くならもう1枚ずつ渡すかなあ?
「なんぞこれ?護符?」
「耐暑護符。ひとつ前にいたとこで貰った」
「おお!涼しい!!でかした安宿!」
幸いリケラや姉ちゃんにも使えたので一安心だ。
この層だと1枚あれば充分なようなので、そのまま進行する。
雑魚は背景のマグマの川から飛び出してくる謎の丸い火の玉だ。スライムの一種かな?
爆発はしないけど水魔法で落としていく。
「ごめんねえ、これ斬ると最悪刃が曲がるのよ」
「物理にとことん優しくないからねえこの層」
なるほど、どうやらこのあたりで攻略が止まるのは、姉ちゃんが原因というより、リケラがガス欠するから、の方が近いらしい。
というわけで途中から交代でオレも魔法で火の玉を落とす作業だ。
うん、完全に作業。こっちは結界も完備だからな!
「移動式の結界って楽でいいなあ!」
「儀式版だと固定だけど、個人版は原則自分中心範囲だからね。ひとつ前の世界の魔法で自分に使えるものってこれくらいだけど」
治癒魔法を自分に使えないって謎制限を聞いたときにはちょっと呆れた記憶がある。
まあその世界ではオレの手持ちの治癒魔法は使えなかったんで、それ以前の問題だったんだが。
そもそも、この火の玉くらいだと、素手で受け止めても特に問題ないしな、今のオレ。
レベル差補正でダメージゼロ、って話らしいんだけど。
「あー。やっぱ少年も素手で止められるよねえ!」
「リケラもたまに間に合わないとやるけど……できるんだ……」
「そりゃレベルはオレの方が上らしいし?」
途中で実際うっかり二つほどキャッチしたら、リケラには納得され、姉ちゃんには軽く引かれた。
っつかリケラのレベルで既にやれる程度なんだな、これ。
まあそうか、リケラのレベルは1500前後らしいし。
ここのモンスターのレベル設定が階層x100でもない限り、リケラを傷つけるのは困難だろう。
そして、それはそのまんまオレにも適用できる。
世界樹さんによれば、オレはその10倍くらいらしいからね、レベル。
なお、実際の現在のモンスターレベルは階層+20だ。
低階層だと事前に聞いた通りの階層+10だったんだが、50を超えたところで加算された。
そういうところも地味に根性悪いんだよねー、ここの迷宮、とはリケラの弁だ。
ちなみにここのドロップ品はというと、よりにもよって火薬だ。
嫌がらせか?薬って字は使ってるが、薬学じゃ使わんだろう?
そんな風に思いながら火の玉を処理しつつ階層を重ねる。
そしたら65層を過ぎたあたりでレアドロップらしい別の品物が出た。
「……ニトログリセリン?」
「そりゃ確かに狭心症の薬かもだけどさあ!!」
「あっそういう!」
なんと、姉ちゃんはこのアイテムの設定理由に気が付いていなかった模様。
いやまあ職種違うからしょうがないけど。
姉ちゃんが得意なのはあくまでも食材分野だからな!
「要するにレアドロの方が本命で火薬は劣化品みたいなもんか……」
「タネが割れたら意外と納得できる部類ねえ」
「しかしここまで来ると流石に護符あっても暑いね」
「あ、じゃあ結界切り替えるわ」
ここまでは魔力と集中力の加減で普通の結界だったのを、属性力練りこみバージョン結界術に切り替える。
覚えるの結構大変だったけど。
我が友人達、なんであんなやすやすと、こんな面倒くさい構造の結界を構築していたのか……
才能って奴?それとも若さ?オレと違ってあいつらガチのピチピチの新成年とかだったそうだしなー。
割と直近に近い辺りの思い出に浸りつつも足は進める。
温度制御系の結界も女子二人には好評だ。
それでも汗はかくので、時々〈クリーン〉もサービスしておく。
階層を深めるほどに、暑さは増していく。
69層を超えた辺りからは、結界を二重に、護符を2枚にしてもかなり暑い。
「あっつい……」
「でも最深記録は越えたわねえ、ほぼあたし歩いてるだけだけど!」
「ボスも暑苦しそうだなあココ」
時々結界内に軽く〈氷結〉をかけたりもしてみるが、そろそろ焼け石に水感が出てきている。
……これでもオレが体験した最高温度じゃないのが割とシャレにならないんだけども。
幸か不幸か、モンスターは火の玉が火の蛇に変わったくらいで、行動パターンもドロップも大差ない。
しいて言えば最初はレアドロだったニトロの割合が増えたくらいか。
「狭心症の薬としてはもう使われてないよね?」
「レベリングさえできれば心臓の病気は駆逐されちゃうからねえ……」
まあそうですよね、知ってた。
安全地帯も碌にないので、食事も歩きながらだ。
ハンバーガーもおにぎりもお手軽で大変よろしい。
65層以降の暑さは、走ると流石に消耗の方が勝つので、道程はずっと徒歩だ。
水分の方はもうとっくにオレが〈湧水〉で供給する水と魔力ポーションに切り替わってる。
そうやって70層にたどり着いた瞬間。
「うわ〈結界〉あんど〈結界〉んでもって〈氷壁〉」
「あっつ?!」
魔力結界を多重に張って、氷壁も張ったけど氷の壁は秒で吹き飛ぶ。
それでも温度軽減の役割は立派に果たしてくれたので問題ない。
目の前には、燃え盛る炎の翼。識別名称、バード・オブ・フレイム。火の鳥ってか!
って、おいこらてめぇ階層ボスじゃねえのかよ!
いきなり目の前にいるとかどういう了見だ!?
「ここにきて徘徊系ボスとか、ほんっきで根性悪いねこの迷宮!!」
「今更だけど乙女の柔肌焼きに来るとかほんとに悪意高いなあ!」
「で、これ消火すればいい?」
「初見だから!聞かないで撃つ!」
そして放たれるリケラの矢は翼に到達した時点で蒸発するかのように燃えて消える。
「うーむ、〈ウォーターカッター〉」
取り合ず手持ちの水魔法を撃ってみるが……水が蒸発したな?不条理野郎め。
ただ、火の鳥君は極めて嫌そうな顔をしたので、効果自体はありそうだ。
「ふむ、水魔法で攻撃かー」
「むしろバケツで水ぶっかけるような奴の方がいいかなあ、〈瀑布召喚〉」
勇者魔法最大のチート魔法、『現品召喚』でゴー!
この魔法、『自分が知っている無生物』なら何でも召喚行使可能というチートオブチート魔法でしてね?
但しリキャストがクソ長いので2日に1回くらいしか使えないし、魔力消費に応じた重量もしくは時間の制限があるけど。
今回呼びつけたのは、世界有数の滝の水だ。
物凄い勢いで、火の鳥に降り注ぐ、圧倒的な水の量。
そのくせオレ達には涼しい水しぶきがちょっとかかるだけだ。敵味方認識くらいは付いてるからな!
流石の火の鳥も、毎秒1000トン以上の水が降りかかるなんて事態は想定していなかったんだろう。
気が付いたらぺったんこになってぶすぶすくすぶり、そのまま崩れて消えた。
「なんか安宿がえげつないことした……バケツじゃないでしょそれ……」
「勇者っぽいチートっしょ?持続時間10秒くらいだけど!」
「ああ、うん、規格外という意味ではそうかも……」
火の鳥がいなくなっただけで、温度はぐんと下がる。いや、溢れた水のせいかもしれない?
そしてドロップ品はといえば、無水アルコールとTNTだった。後者!!なんでだよ!!
「箱の中身は気になるけど、取り合えず抜けてしまうべきね」
「いつまた暑くなるか判らないしなあ」
そんなわけで、先を急ぐオレ達です。
そろそろ主人公らしくなってきたかな()
※兵器召喚なんかもできる<特殊召喚




