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第39話 水場はいい事か悪い事か。

 では51層からです。

 さて、足を踏み入れた51層はというと……聞いていた通り、湖だった。


 いや、湖と、沼だか池だかが複雑に入り組んだ地形で、辛うじて道らしきものはあるんだけどもね?

 水辺に既になんかいろいろスタンバってましてね?


「水馬《アハイシュケ》っぽいのと、謎の触手と、スライム的な何か?」

「まんま水馬と触手とスライムだねえ!」

「いや待って?触手って触手だけのナマモノなの?」


 リケラの返事に思わず突っ込む。触手って本体が別にあるもんじゃないの???


「残念ながら、引っ張り出してもずーっと触手」

「なお薄い本と違ってエロいことはしません。装備じゃなくて生《ナマ》肌溶かしに来るけど」

「もっと悪いわ!」


 湿地にもモウセンゴケのでっかいのがいたけど、あれとは違って、触手、としか言いようがない物体なんだよな。

 薄いエロ本でたまに見かける奴と違うのは、半透明で水色っぽい色に見えることと、先端までほぼ同じ太さなことくらいか?

 先っちょは二股に分かれていて、水でできた蛇の舌のようにも見えなくはない。

 動き自体はカエルのそれだけど。


「触手って思わず言っちゃったけど、伸縮しながらこちらに貼り付きにくるこの挙動はカエルの舌だよなあ」

「そうとも言うけどカエル的な本体、ないからねえコイツ」


 なお舌ならぬ触手は全部姉ちゃんの剣に切り刻まれているし、後ろに回り込むような奴はオレの結界で随時弾かれている。


 水馬の方はというと、嘶《いなな》きで状態異常を引き起こして水に引きずり込む挙動らしいんだが、オレら全員状態異常無効なので、ただ頭を振りながら嘶いているだけ、という少々とんまなことになっている。


 スライムは、これはリケラが随時魔法で吹き飛ばしているので、オレもそちらに追随しておく。またこれが数が多いんだ!

 なおほぼ不定形タイプでかわいくないので容赦なく潰せるよ!


「完全分業制?」

「そうねー、触手も魔法で焼いてもいいんだけど、それだとあたしの仕事が減りすぎる!」

「スライムは斬ると増えるからねえ!」

「水馬は?」

「最後に数頭狩るくらいでいいかな。ボスのポップ条件満たす程度で」


 ドロップ品はというと、触手からは『精製パラフィン』、スライムからは『白色ワセリン』。

 完全に軟膏基材だこれ!


「……理不尽」

「ふざけたことにちゃんと無菌状態です」

 思わず呟いたら、姉ちゃんから追い打ちが来た。マジかよ。


「まあこの迷宮、薬品とその素材しか出ないから、そういう意味では基本中の基本ドロップではあるよね!」

「むしろここまで来ないと基材出ないのっていう」

「加工しなくてそのまま使えるレベルのはここくらいから、って感じね」


 ああ、なるほどなるほど?

 低層のドロップ品を加工してこういう基材作ったりもできる?

 そう考えながら収納の中に意識を向けると、確かに精製方法が認識できる。

 亀の血からワセリン生成とか、どうなってんのか意味わかんないけども。


 そうして暫く、2階層ほど進んだところで、道が途切れる。


「ここからだぁねー!少年、防衛任せた!【ショグ・セルトゥユク・シェステラ・サグダ:ゴレイズ・ガナムダナム・スレック】」


 リケラの魔法で、まっすぐに氷の道ができる。

 前回垂水で使った時より、少し道が細いのは、こちらの方が温度が高いせいだろうか?


「そんじゃゴーゴー!」


 氷の道を結界を自分中心に張りつつ、一気に駆け抜ける。

 一層の沼地ほどじゃないとはいえ、水撥ねは発生するけど、あとでクリーンすりゃいいや。

 

 その工程を5回繰り返して、ようやっと再び道が現れた頃には、既に60層に到着していた。

 この迷宮、階層を移動する工程が滑らかすぎて、かなり判りづらい!

 というか階層を分ける意味、あるのかなこれ?


「迷宮の階層に関しては諸説あるけど、エルディムでも共通見解はないなー。

 そうだ、今度かいちょーに聞いてみようかな?」

「でもそう簡単には会えないでしょ?」

「あちらに用事がなかったら難しいかもなあ」


 つい疑問を口にしてみたら、現状でなぜ迷宮に5、または10層ごとの区分があるのか、に関しては定説すらないのが現状らしいという答えだ。

 どこか他所の世界でそういう情報を得てその形式になっているのかも、なんて話まであって、結局良く判らない、のが現状らしい。


 とはいえ、ダンマスのいない迷宮だと、上から下まで、強さが変わるだけで、ほぼ完全に内容が同じ迷宮ができるそうなので、ダンマス側の知識に依存して変わるもの、ということだけは間違いないんだそうだ。


 判らないことは置いておき、水馬を数体狩る。

 こちらは馬油という非常に判りやすいドロップだった。水で体ができてるような馬でも馬扱いらしい。


「ここのボスは連携が必須なんで一応後ろで見といて」

「ヒドラなんでねえ」

「ん?ああ、再生防止に首切ったら焼く的な?」

「そうそれ」


 短めの会話の後、ボスへの扉を開き、中に入る。

 お約束として即座に後ろで閉まる扉。


 大きな部屋はこれもじっとりとぬかるむ地面、そしてど真ん中にヒドラ。


 ……うん、どう見ても、ヒドラだ。


 但し、軟体生物の方の。いや、刺胞生物だっけあれ?クラゲの遠縁、だったかも。


 地面から突き出す細長い胴体、上部に無数の枝分かれした触手。

 顔は特に付いている様子はない。

 いや、触手の先端が開口部だね。牙の生えた丸い口が開いているのが見える。


「というわけで首じゃなくて触手を斬ります」

「焼かないと即再生」

「いきなり胴体刈るんじゃだめなんだ」

「それやるとまるっと1匹増えるのよ!」


 なるほど納得だね……即答ってことは、多分初見でやらかしてるな、姉ちゃん?



 まずダメな例、と言って姉ちゃんが雑に、我々に向かってくるヒドラの触手を数本切り取る。

 切り取ったそばから倍になって増える触手。なるほど?


 その一回をお試ししたあとは、姉ちゃんの剣の動きとほぼ同時にリケラの火魔法が飛ぶ。

 切り口を焼かれた触手は再生しない。ふむふむ。


「魔法で本体ごと潰すのはダメ?」

「触手が一本でも残ってると本体側のダメージを反射してくるからだめ」

「対策万全だな、悪い意味で」


 やり方は覚えたので、後半はオレが火魔法役だ。

 第一世界での〈火球《フロエン》〉でも第三世界の〈ファイアボール〉でも大差ないなあ。

 詠唱短いのは第一だけど、第三のは無詠唱できるし。


「そつがないねえ」

「タイミングばっちりね」

「じっくり見ましたし」


 流石に20回以上実演して貰えばね!


 最後の触手を刈り取ったら、今度は水以外どの魔法でもいいというので、例によって〈雷針《ルシュガ》〉を選択。

 半透明でコアが誰にでも見えるタイプだから、これが一番簡単でねえ!


 バシン!と落雷の音、そしてコアを破壊されてキラキラと消えていくヒドラ。消え際だけは綺麗だな?

 ドロップ品は……通常ドロップがどうやら精製ラノリン。貴様も基材か!

 箱の中身の方はといえば……


「……ハッカ油?」

「そう、ハッカ油。疑似的に涼しい気分になれるだけのアレ」

「どうせなら氷よこせー」


 三人とも同じものが出た。というより、このヒドラの箱はこれしか出ない、らしい。


「試行回数3回だけど、全部コレだからねえ!」

「スースーはするけど、温度下げてくれるわけじゃないのが嫌らしい」

「なに?次は暑さ対策必要なの?」

「次は温泉のない火山エリアでーっす」


 姉ちゃんたちの言葉に、暑いのは嫌だという気配を感じて聞いてみたら案の定だ。

 火山。温泉なし。いや迷宮で温泉とかあっても困惑するだけだと思うけど!


「むしろ迷宮に温泉あったとして、入る?」

「ないわね!」

「さすがに温泉は見たことないなあ!」


 いやリケラさん、それは見たら入ってみるとか?まさかね?


 ともあれ、次は暑いエリア確定らしいし、ちょっと準備した方がいい、かな?

 アレが使えるといいんだが……

 ……一人何枚持ってたかなあ、アレ。

 あの回以来使ってないからまだ持ってはいるはずなんだけど。

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