第41話 迷宮らしい迷宮とは。
71層からだよー。
水浸しになって温度が下がった火山フィールドを駆け抜け、どん詰まりにあった転送魔法陣を踏み越えた先は、灰色の石で構成された壁と通路だった。
「ここで古典的迷宮になるんだ……?」
思わずそんな言葉が出てしまうのもしょうがないよね?
ここまでの迷宮、あっちもこっちも、なんていうか、厳しめの自然を引用しすぎてたからさあ!
「これはなかなか難易度が高い?」
「見通し悪いのやだなぁ」
女子二人もなんだか嫌そうな顔だ。
だが難易度に関しては今更では?ここ71層ですよ?
「ともあれこの場所が安地かどうかからチェックかな!」
「あーそうね、流石にちょっと休憩したい」
「暑さで体力の見えないとこ削られてるからな、そういうの大事」
口々にぼやきながら、周辺を確認する。
石壁のところどころには開口部。
部屋のようなものの中には、埃はなく、ガラクタもなく。
たまにミミックがいるくらいか。
「宝箱っぽいのが全部ミミックなの笑う」
「しかも擬態できてないのは草」
鑑定で全部バレるミミックって存在意義ある???
というわけでミミック君にはさっくり退場していただいて、安全地帯を確保だ。
なお魔法でも物理でも一撃だったので、単にオレらのレベルが高すぎるだけ疑惑。
ドロップはというと、ルミナスパウダーという名称の、謎物質が出た。
薬品用のガラス瓶に入った微細な粉末。
色は白っぽいがプリズムのようなきらめきが見えなくもない。
「なんすかこれ」
「なんだろう?エルディムでも見たことない」
「化粧品のラメみたいな素材ねえ?」
鑑定結果も『輝きを齎す粉末』としか書いてないんだよなあ。
「……薬……薬学……先輩方……そういや化粧品会社は普通に就職先の一つだな……?」
「マジでラメパウダーなの。こんな深層階で?」
「化粧品系もやることは製薬と大差ないし、そもそも両者兼業メーカーも多かったからなあ。
階層についてはなんとも言えないけど、ぜいたく品枠の可能性?」
「ぜいたく品……まあそうかも……パーティでもなきゃ光り物は使わないかぁ」
今の製薬系企業、もともと化粧品やってたところは息してるけど、純製薬系は業態を変えたり廃業したりと散々らしいからなあ。
エルディム式の魔法薬と、何よりレベリングによる健康の増進が、従来型の薬の出番の大半を奪っちゃったからね……
この粉、純粋に素材としてはどうなのか、と技能でチェックしたけど、案の定、化粧品、としか表示されなかった。
名前こそ大袈裟だけど、あくまでも物理的にキラキラするだけで、光属性を齎すわけじゃないらしい。
「完全に化粧品素材だなあ。メーカーさんなら引き取りそう感」
「レア品には違いないと思うん」
「そうねー、化粧品系の新素材探求、割と大変らしいし」
ここまでに出た薬草類にも、実はそういう化粧品に使う素材がちょこちょこあるんだそうだ。
あとはよく見ると、下層のドロップ、染料素材が混ざってるな。
石油系合成染料があまり使えない世の中になったから、そっちも需要はありそう。
周辺の掃除をして、最初から何も沸いてなかった方の小部屋で休憩する。
石の床は冷たいから、敷物を出して、っと。
「お、シードシルクだ。いいもの持ってるねえ!」
「ひとつ前の世界では普及品だったんだ。お蚕様系シルクとか蜘蛛絹が上位品だったから」
「お蚕様かあ、あれもすごいことになってるのよね」
「すごい?」
「エルディムの糸虫の性質が混ざって、妖精種になっちゃってねえ。
でっかくなったし、寿命が延びたし、いろんな色の糸を任意に吐けるようになったから、結果としてはシルク製品暴落中」
わあ、なんか愉快な事になってる!
でも確かに、寿命が延びて、もりもり糸吐くようになったら通年生産可能ってことだから、単価は下がるよなあ。
「おまけに魔力を通すと長持ちする性質まで付いたから、今はジーンズとかの方が高い」
「コットンは流石にダンジョンじゃ出ない……出るとこあるかなあ……?」
「植物系オンリーの迷宮でもあればワンチャン?」
コットンのモンスターとかちょっと想像つかんけど。
いや待て、木綿の元のワタってあれオクラと同じ科だな?
「安宿、なんか思い当たる節でも?」
「オクラと同科だなって」
「成程、可能性自体は存在する、把握したぞー」
「まあでも、そろそろメシ食って休もうよ。炎熱条件ってかなり体力消耗するからさ」
「確かに。でもここ急に温度下がったから、あったかいものがいいなあ」
「いうほど下がってないからな?多分初夏くらいの温度、つまり適温」
リケラが魔物除けを置いたその外側に物理結界を張りながら、収納の中を覗く。
座っての食事だし、箸も使える。鍋でも出しておくかな?ごはんはあるし。
あ、でもこのラインナップはちょっと悩ましい。希望聞くか……
「チゲ鍋っぽいのと水炊きとポトフと軍隊スープ、どれがいい?」
「軍隊スープ?」
「乾燥野菜と干し肉と干し茸のごった煮、オレでも作れる奴」
「お、それいこう!組み合わせがどうやっても旨い奴だ!」
何故か女子勢の意見が一致したので、軍隊スープの鍋と、ライ麦パンを取り出す。
このスープにはごはんよりこれが合うのだよ!
ここ暫くはちゃんと白飯を食べられていて、米欲はある程度満たされてるってのもあるが。
「うまーい!滋養の味!パンを浸してもこれまた旨いー!」
「劇的な旨さって訳じゃないけど、これはいいわねえ。消化もよさそう」
「オレの自作だから劇的って訳にはいかないね」
「充分旨いよー。乾燥野菜から作るってのが旨いのかな?」
「多分。作り方自体は本当に適当で簡単だよ。ただ、しっかり量を作る方が美味しいとは思う」
何せ、ひとつ前の世界での知り合いには、料理はこれしか作れない、って奴も多かった。
オレもこれとあと数種しか作れないので似たようなもんだが。
そういえば今のこの世界、というか垂水迷宮の野菜や肉には魔力が含まれているな。
あれだったら、このスープ程度はコピーじゃなくても普通に再現できそう。
地上産のコメなんかにも魔力は多少はあるけど、迷宮産の食品に比べたら微々たるものだ。
恐らく迷宮のアイテムの根本的な生成に、魔力か、それに近いリソースを利用してるからだろうけども。
食事が終わったら、三人寄り集まって各自で毛布を被る。
寝袋までは利用しない。あれは機動性が極限まで下がるから、こんなダンジョン深層で使っちゃいけません。とのことで納得しかない。
垂水だと完全な安地が設定されているから使えるけど、あっちはは残念ながら泊まる用事がない、そうだ。
それもそう。あそこ、踏破部分は階層ごとに飛べる超親切仕様だからね。会長の爺様には感謝しかない。
ふたりに倣って目を閉じるけれど、結界を維持する都合上、眠れない。
まあ今のスペックでも、一か月くらいは不眠不休で行動できる程度の余力はあるけどね。
この迷宮は、随分と敵意も殺意も高い。引っかかりこそしなかったが、トラップが大量に配置されているフロアが10層に付きふたつは存在する辺りとか。
いや、これに関しては会長の爺ちゃんがハバを利かせ倒した垂水の方が例外なんだろうけど。
それでも第二迷宮側になら人がいるのは、落とすものが薬品やその材料で、引き合い……需要が多いものだからだ。
そういう設定は上手い事やっているな、と思う。
問題は、こっちの迷宮二つが、繋がっている疑惑があるというところだ。
残念ながら、それは疑惑ではなく、事実。
そこまではオレの技能で、もう判定が付いたんだが……
……ここ、拙いぞ。
コアがそれぞれにある事自体は垂水の子迷宮でもそうだったので仕様なんだろうが……
この階層に来て、やっと技能判定が通った。
ここには……ダンジョンマスターが、二人いる。
本来なら素直に攻略されてくれる迷宮じゃないんだよなあ。
なおミミックの鑑定バレもレベルの暴力です。普通人じゃそうはいかない。
余談ですがこの世界、肥料系農薬系各社も材料輸入問題でひーこらいうてます。コケてはいないが。




