第37話 茂崎第一迷宮の夜。
やっと夜だー!(1話伸びてた)
次の階層はというと、高山だった。
峻険な山並みが視線のちょっと上で雪を被って連なる光景。歩けるルートには落石と残雪。
但し酸素濃度はそれまでのエリアと変わりない。温度は低いけど。
「ここは普通に絡まれた奴だけ狩ります」
「駆け抜けでもいいんじゃない?」
「もちろん駆け抜けたうえでよ!」
「はーい」
とりあえず65層前後までは数回走ってる姉ちゃんたちなので、ここは大人しく言われたとおりに、だ。
レベルはオレの方が確定で高いけど、この迷宮の事なんて、事前に資料をざっくりと読んだだけだし、その資料を作ったのは姉ちゃんとリケラだからな!
そして、このエリアで上空から急降下攻撃を仕掛けてくるのは、ワイバーンだ。
手足四本で、前肢が翼になっているタイプの、茶色い大型飛行性爬虫類。
爬虫類のくせに寒冷適応かよ!とは思うけど、大前提として、ここは迷宮で奴はモンスターだから、生物学的な整合性は考えるだけ無意味だ。
「悪いけど任せたー」
「毒の血は流石にクリーンだけじゃまずいしねぇ」
ここは魔法で落とすエリアであるらしい。ここのワイバーンも毒持ちかあ。
リケラの魔法は単発でも綺麗な魔法陣を描いて、近づくワイバーンを確実に仕留めていく。
だいたいは近接距離に入る前に、脳天に一撃だ。
ドロップはワイバーンの血と、毒の鱗というアイテム。
ワイバーン毒専用の毒消しの素材らしく、ここもある程度数を狩っていくらしい。
というかあっちが勝手に見つけては近づいてくるね。
俺も雷魔法で何体か落としたよ!
「ワイバーンがこれ、かつ毒持ち。ドラゴンもどっかにいる?」
「迷宮ではワーム系とレッサー種っていう、下位種のまがい物しか見たことないわね」
「地上のエルディムの影響の強いエリアに、親切な神龍の爺ちゃんがいるよー」
ああ、そういえばリケラ達の世界の方には上位種ドラゴンがいたんだったか。
掲示板でそんな話してたな。リケラの電書も買ったけど、まだ読んでないや。
その日はこのワイバーンエリアのボスを倒して野営だそうだ。
「一日でここまで来れるのに65で止まるんだ……」
ボス扉の前で思わず首を傾げる。だってまだおやつ時だよ?
「ここまでは初見でも来れたからねえ。ここから先が問題なのよ」
「ほら、垂水でも通るのに困る池あったじゃん?まずはそれを抜けるのが問題」
二人の答えは、納得がいくような、いかないような。
「ここの次は湖沼地帯で陸地が少ないうえに、安地がほぼボスんとこしかない感じね」
「垂水のあれみたいに凍らせて通るんだけど、魔力ポーションの消費がえぐいのよねえ」
「さすがに船は収納できないし、できたとしても水蛇とかが沈めに来るのよね」
なるほどなるほど。船作戦はおそらく実行済み、そしてうまく行ってない。
流石に俺も舟までは収納に入れてない。どこかの真龍様とは違うのだ。
「なのでここのボスをへち倒して、リポップ時間まで休憩して次は無理やり駆け抜けね」
「少年には索敵とか結界とか期待してる」
オレはここでも脇役か。まあ慣れた手順があるなら見せてもらうべきだよな!
って待て。なんだその制限?
「……リポップまで?時間どのくらいなの」
「半日で沸くのよ、こいつとその次だけっぽいんだけど」
嫌がらせの酷い仕様だなあ?!
ボス扉を開いて乗り込んだら、ど真ん中になんか赤黒いモノがうねうねしていた。
一応コウモリめいた羽根が付いているので、ワーム……環形動物じゃなくて伝説系のワームって奴らしい。
「これ飛ぶの?」
「飛んだのは見たことない」
「そうだねえ、飛ばす意味もあまりないしー【スターライトスティング】」
質問には、リケラの放つ弓の技が答えだった。
例の、近未来っぽい銃から変化する華麗な弓から、仰角いっぱいに放たれた光る矢が、天井の辺りで分裂を繰り返し、星が降るかの如く、数百本の光となって、まだ頭を上げたところだったワームの全身をくまなく穿つ。
一瞬で、ボス個体はざらりと崩れながら消失していく。
この倒されたモンスターが崩れて消えるのだけは、垂水と一緒なんだよなあ。
「今日のードロップはー……まあアタリかなー」
出たものはとみれば、箱が三つと、溶解液がひとつ、ワームの皮膜がふたつ。
箱の中身は中級魔力ポーション原液だ。
「ハズレだと中級魔力ポーションがひとつ、だからねえ」
「ひとつはひどい」
「というわけで!少年、この入れ物に水入れて!中のラインぴったりで!」
そして、リケラはおもむろに自分の収納から大きな、内側にラインが引かれた樽を二つ出した。
見たところ、ラインの位置は樽のおよそ三分の二辺りかな?
「はいはーい〈湧水〉」
熟練すると、この〈湧水〉という魔法は一回に出す水の量を最小値から最大値まで自在に操れる。
今回の樽には中程度を1回ずつ使えば丁度いい量が入れられるな。
「おっけーおっけー、いい水だ!ではこれにーぽいっとな!」
「安宿の分は置いておいて。非常用にとっとく」
出した水を確認したリケラは、出たばかりの魔力ポーション原液を、瓶ごと無造作に樽に投げ入れる。姉ちゃんも自分の分を同様にもう一つの樽に入れる。
「じゃあ【ブリスレ・ケラ】~」
リケラが続けて魔法を使う。どうやらオレが持ってる〈撹拌〉と似た魔法らしい。
「撹拌系の魔法?」
「そう!きっちり混ぜないと効果がバラつくからね!」
そう述べたリケラは、樽の片方に蓋をはめ込むと、また収納にしまう。
もう片方はどうするのかと思ったら、ずらりと小瓶をセットしたラックが出てきた。
「もしかしてリケラの収納に限りがあるのって……」
「はっはっは!これ入れてると流石にねー!でもココはこれが一番効率いいんだよねえ!」
「まあそのせいで三日分程度しか食料を持てないのは本末転倒って言われてもしゃーなし」
「でもここでこれ造らないと、どっちみち後半ガス欠するからねアタシ!」
なるほど、魔力もごはんもって訳に行かないんで65層で詰まるのか……
なんとなく状況は理解できた。確かにオレの収納が一番重要、ってなるはずだ。
そうだよな、この二人、レベル500台後半と、4桁レベルだもんな。
ここまでのモブじゃ、階層+50レベルだったとしても、到底敵になんてならない。
垂水でもそうだったけど、この二人を阻むのは、純粋に迷宮の仕様の方だ。
「っつーわけで!瓶に蓋するのだけ手伝って!これ蓋と封緘紙!」
「へいへーい」
「あたしも手伝うねー」
そんなわけで、ボス部屋で出来上がった中級魔力ポーションの瓶に蓋をする作業だ。
別のラックに収められた瓶の蓋を、きっちり首まで薬液が入った瓶に詰めて栓をし、別で渡された封緘紙を貼り付け、軽く魔力を流したら、完成。
魔力を流すのは、封紙にも魔法が仕込んであるからだ。蒸発と漏れを防止する魔法?便利だな?
こまごまと作業をしていたら、すっかり夜だ。
晩飯は火を使っていいらしいので、焚火台と薪を出して、食べ物の方は、串に刺すとこまで加工してしまってあった魚と、厚めにスライスしてチーズを載せて炙ったパンだ。
スープは暖かいのがあるのでそれを出しておく。
「うんうん、雰囲気出ていいねえ!」
「問題はリポップが真夜中なことね」
「沸いたら倒せばいいんだろ」
つい素でそう返事してしまったけど、ボスってオレらがここにいても沸くんすかね?
「頼もしいけど、実は我々が居座っている限り沸かない」
「うん、まあ、野営するって時点で予想はしてた」
人類に極度に厳しいタイプの迷宮にもお約束はあって、『フロアボスを倒した場合、倒したパーティが退去するまでリポップはしない』というものがあるんだと。
人類に優しくない系の迷宮だと、唯一の人類側寄りルールになりがちだそうだけど。
地獄の窯の蓋シリーズなんて、フロアボスがいなくて常時スタンピード同等状態らしいしな。
でも最終的には、そこを潰しに行かないと平穏な生活は望めない、そんな予感はしている。
足元地元の茂崎をなんとかしてからだけどな!
Q:じゃあなんでわざわざリポップ時間待ちをするの?
A:でないと便乗が来る。




