第36話 茂崎第一のヒポグリフ。
前半はサンドイッチ食ってる。
キマイラのいた場所で昼飯を食べる。
今日はサンドイッチだ。
「ツナマヨとレタス、バゲットのBLT、ピクルスとコンビーフ、これはライ麦パン。あと数があるのはサバサンドとミニきゅうりサンドかな」
厳密にいえばピンチョス風ミニサンドはいっぱいあるんだが、食いでがないからなあ。
ここまでダッシュで来てるから、かわいらしいものの出番じゃないはずだ。
「BLTとサバサンド希望」
「ライ麦パンとツナマヨ」
「はいよー、先に言った方食べたら次出すよ!」
収納から取り出して渡すと、それだけでもう女子ふたりはにっこにこだ。
オレは今日はサバサンドから行こう。
「このラインナップで卵サンドがないのが謎」
「卵はちょっと問題があってなー。生産者に他の人間に渡すなと厳命されてる」
「生産者?サンドイッチ作った人?」
「いや、卵の生産者、つまり鶏。鶏つっても聖獣様だったから、口約束にも拘束力あるんだよ」
普段はフツーの雌鶏の恰好してたから、偉い鶏様だって気が付いてない人も時々いたっけね……
抱っこさせてもらったことあるけど、普通の雌鶏とは一線を画すふわふわのもふもふで、おまけになんかいい匂いしたけど。
「ほうほう!一個前のとことか言ってた奴だな?」
「そう、雌鶏の聖獣って激レアだったらしいけど」
「ああ、うん。エルディムでも雌鶏が変化した話は聞かないね。雄は神獣コースも魔獣コースもあったけど」
なるほど、エルディムだとああいうのは神獣でひとくくりか。
「ところでこのサバって普通の鯖?」
「世界も海も違うけど見た目は鯖だった。サイズはちょっとでかかったけど」
「じゃあ再現自体は可能かー」
「あれ?もしかしてこのツナマヨのツナってマグロじゃない?」
「うん、違う魚。名前は忘れちゃったけど、一個前の世界の独自種。ほらベーコンもドルメッセって生き物って前に説明しただろ?」
ふたつめを食べながらも雑談は食べ物の話だ。
オレも次はライ麦パンのコンビーフサンドにかぶりつく。
「それにしてもこの時間で30層終わるのに、第二ソロだと20前後の予定、だったってのがちょっと解せない」
「第二は人がいるからあんな無茶苦茶したら怒られるわ」
「第一はだいたい誰もいないからねえ」
食休みにここまでの道程で出た素朴な疑問を述べたら、秒で納得の答えだ。
確かにここまでの速度でうっかり他の人間に遭遇して万が一にもぶつかったら、シャレにならない。主に相手が。
「あと振り切ってはいるけど、モンスターのアド自体はあるから、そういう意味でも人がいる場所での駆け抜けは禁忌ね。
ゲームと違って、タゲ切れたら遠隔地のモブは消えるなんて親切な仕様じゃないもの」
「だから第二は基本的に歩いていくしかないんだよ。だから到達階層が10層くらいずれてるっしょ?」
なるほど、覚えておこう。
昼飯休憩の後に侵入した31層は、山だった。
といっても高山地帯、という程ではない。樹木の少ない、半分禿げた山がただ連なる眺めだ。
無論これは背景のようなもので、歩ける場所はだいたい決まっているんだが。
「ここからは小走りです。チンタラ歩いてると上から噛みつかれるからね」
「あーでも、ここのモブってあいつだよねえ?」
「どうせ落とすのは薬草かポーション原液よ」
「あいつ?」
「ヒポグリフ!」
あー、そういや茂崎にいるって言ってたっけ、ヒポグリフ。
ここのも禿で根性悪いとか言ってたか?いや根性の話はしてないな?
「肉を落とすわけじゃないよなあ、ここ食料出ないって言ってた気がするし」
「生で食えるものが出ない、が正解かなあ」
「パティに使ってた奴はタタキで食えたぞ」
「まじかー!」
つまりこの迷宮でヒポ肉入手はほぼ不可能だろう。よくて毒か最悪寄生虫付いてんじゃねえか?
多分そこらへんの法則は前いた世界とは別だろう。
あの世界雑菌とか寄生虫ってのが、異様に少なかったからなあ……
「つまりどこかよそにいるか探さないとかぁ」
「魔力でなんとかする方向の方が早くね?」
「我々はそれでもいいけどさー」
「あたしが魔力足りないわねえ」
あ、そうか、レベル分はあるとはいえ、姉ちゃんの魔力は人並みだったっけ。
なんて考えたところで、上から何かが降ってきた。
降ってきたというか、上から突っ込んできたでかいクリーチャーが、姉ちゃんの剣で切り刻まれたところだな!
なおここのモンスターは、よりにもよってきっちり流血するんだよ……
「ちょっとアズっち!血が降るから上空迎撃はやめー!」
「はいはい〈クリーン〉」
「おお!ありがたー!」
文字通りの血の雨を食らったので、さっくりクリーンしておく。
なお迎撃した本人はなぜか一滴の血も浴びていない。理不尽。
ドロップはとみれば、さっきのエリアとは違う薬草と、皮だ。皮は出るんだ?
「オオ!ヒポ皮ゲット!!加工できる人いるかなー!」
「触媒次第だけど、革加工はちょっとくらいはできる……いやこいつは手が出ねえな」
「食えないものなら出るのが理不尽、いや仕様だからいいのか……」
違う世界のヒポグリフの味を知ってしまった姉ちゃんがぐぬぬっている。
確かにアレ旨いからなあ。
「でもこないだの垂水の黒毛魔牛も引けを取らない旨さだったと思うんだ」
「……確かに肉類には違いないし、なんならしましまうまの馬肉で代替効くわね?」
そう、フードコピーの魔法での完全再現に必要なのは、あくまでも同分類同ランクの食材、だ。
これはテストに付き合うたびに説明されたから俺も覚えた。
つまり、無理にヒポグリフを探さなくても、加工食品の再現には問題ないのだ!
但しあくまでもそれは食品の話だけだ。
なのでオレのヒポ革ブーツを気に入っているリケラの要望で、ちょっとヒポグリフは余分に狩ることになった。皮がどうもレアドロらしいんだな!
「15匹狩って皮4枚って渋いわねえ!」
「でもアタシとアズちんの靴仕立てることはできそー!」
「付与魔法とかはどうすんの?」
「解析できたからアタシが付けられる!ほんと性能いいのよねえ少年の靴!」
現状の世界の場合、魔力を通すと丈夫になる、とかもモノによっては付与魔法で付けないといけないので、加工に時間がかかるんだそうだけどね。
あと革職人の研究用に何枚か取られるだろう、と更にエリア内を狩りつくす勢いでヒポグリフを狩る。
一応ヒポグリフ以外にも前半層ではサソリ、後半層ではドクトカゲがいるけど、前半はスルーされていた。ドクトカゲの方は薬の材料になるとかで狩ったけど。
最終的に皮が12枚になったところでボス部屋だ。
ここのボスもヒポグリフだけど、首まで全部ハゲていた雑魚と違って、首の辺りにも灰色の毛が生えている。羽根じゃあないんだな。
それでも頭はやっぱりハゲてる。
これまた姉ちゃんの剣技で秒殺、オレもリケラもここまで殆ど働いてない気がする。
「ヒポは魔法を弾くから、完全にアズちん頼りねえ」
「安宿もやろうと思えばやれるんじゃないの?元勇者?」
「姉ちゃんほどスピード出ません」
オレは元々スピードタイプじゃないんですよ!
この辺のヒポを倒せるか倒せないかで言えば倒せるけど!
にしても、流石にダンジョンモンスターだと喋らないんだな、ヒポグリフ。
まぁオレの知ってる限りの喋るヒポ、碌なのがいなかったからどっちでもいいか。
ボス箱の中身はというと、中級ポーション原液だった。
薄めると中級ポーション50本分だって。
「採算が取れるようになるのがこの辺からね」
「中級ポーションが一番よく売れるからねえ」
初級はというとほぼ絆創膏扱いで、ご家庭の救急箱にデフォで入ってるくらいしか需要がないそうな。
そもそもレベルを上げれば上げるだけ負傷しにくく、病気にもかかりにくくなる今の世界だと、薬の需要は一般人には微妙なんだろうなあ……
アズちん普段がソロだからメンバーに仕事回す意識がない……




