第35話 茂崎第一迷宮に入る。
準備のターンは省略。
翌朝、予定通りに役場でジーシャさんにコピーする食事を提供し、スーパーとコンビニで買い出しをして家で細かい調整や調理をしたら、準備完了だ。
今回のコピーは3品要請されたので、プリンアラモードと普通の卵プリンとミルフィーユをお出ししたら、ジーシャさんがなんか壊れそうになってた。やりすぎた。
ただ、再現自体は上手く行ったようだ。
今回の品は異世界産とはいえ、あまり妙なものは入ってないからな!卵もあの世界の南部でなら普通に手に入る方だし!
「プリンアラモードにミルフィーユ!このスタイルのものはこの辺では扱いがなかったので、わたしどもとしても嬉しいです!」
今回も試食をお願いした、役場の受付のお嬢さんがたにも大好評です。
あとはスーパーで買えるだけ食料品を買う。
米も買い足しした。家用と持ち込み用。持ち込み用は寝る前に炊いて収納に詰めるよ!
水は飲めるものが出るらしいし、そもそもオレの〈湧水〉で3人分程度は余裕で賄えるので問題ない。
嗜好品としてコーヒーとエナドリは買い足したけど。
「安宿、あんたそんなにコーヒー飲むほうだっけ?」
「これも異世界ではあんまり見なくて。というか前も割と飲んでた方だと思うよ?」
だってほら、受験勉強のお供にこの二つはズッ友だったからさ!
そんな感じでさっくり準備を整えた翌日、早速茂崎第一の支所に赴く。
おお、開いてるところ、初めて見た!
「いらっしゃいませ。本日は3名様ですね?」
「そう、弟が帰ってきたらいい戦力でねえ!結果を期待してて!」
「はい!いってらっしゃいませ!ご武運を!」
こちらの係員さんには既にオレの話も通っているらしく、平常通りの口調の係員さんに見送られて、迷宮入りだ。
ここも迷宮入り口自体は魔法陣だ。エルディム式で術式が書かれている。
ただ、オレら以外に探索者の姿を見ない。
「人少ないね?」
「第二が開いてる時にこっちに来るメリット、ほぼないもの」
「第二の方が暴れないしね、モンスター」
第一も第二も、出るものは現在の判明部分については、層ごとに全く同じなんだそうだ。
ただ、モンスターの強さが微妙に違っていて、第二の方がほんの気持ちだけ、弱いらしい。
但し弱いのは攻撃力だけで、防御力は全く同じじゃないかというのが通説だってさ。
第一と第二の最大の違いは、スタンピード発生率。
第一の方が断然多いんだそうだ。
だもんで、最近では休止明けに姉ちゃんの攻略チャレンジ、その後巻き狩りして休止、を繰り返しているらしい。
その結果、第一事務所が第二迷宮前、第二事務所が第一迷宮前という逆転現象が起こっている。これは事務所には職員の数が多い順で番号を振るからだそうだ。
迷宮もほぼ同時にできたけど、こちらはより深いと認識された方が第一になっているって訳。
育つのも第一の方が早かったらしいよ。
「今日はできる限り接敵は最低限にして駆け抜けるわよ」
「時間もったいないからねー」
「どうせ雑魚ドロップなんて要らんし?」
「そうそれ!」
というわけで、第一層に足を踏み入れるなり、猛然とダッシュするオレ達です。
一番レベルが低い姉ちゃんでも、普通の乗用車くらいの速度が出るんだよね、探索者。
レベルって怖い。
「……ここは10層ごとにしかボスがいないから、そういう意味では楽ね」
走り抜けた先、ようやっと立ち止まったそう姉ちゃんが述べたのは、10層のいかにもボス部屋です!という重厚な扉の前だった。
「……ここのモンスター、タゲられても振り切れるんだ」
「普段は1層につき1~2体ついてくるんだけど、今日はなかったねえ」
「そうね、いつもよりタゲが弱かった。安宿、なんかした?」
うん、やっぱり姉ちゃんには秒でバレるな!
「隠蔽をちょっと。効いてないのが2体いたけど鈍足だったんで振り切れたっぽい」
「鈍足なら変異体がもういるのね。満月スッポンがいたんだと思う」
満月スッポンとは、ここの独自種で、血液と柔らかい甲羅は薬になるのに肉は毒、という面倒くさい、雑魚のスピードスッポンの変異体だそうだ。まんまるらしいよ。
しかし、この迷宮が人気ないのも判るわ。
1層から湿地帯とか、割とひどいぞ?道順は定まってるタイプで、そこからはみ出さなければ足を取られるとかはないようなんだけど。
階層が切り替わるごとに結界を張って泥除けかつ不用意なエネミーとの遭遇に備えていたけど、それでも走った弊害で盛大に泥んこなので、全員に〈クリーン〉をかける。
「これもしかしてお風呂代わりになる」
「疲れは取れないけどなー」
「でもあるとないではモチベが全然変わるわ!でかした安宿!」
そうだよなー、長期間潜るなら、お風呂問題のストレスは当然あるよなあ。
そういう意味では勇者セットさまさまだな。
ところが、ボスエリアの扉に触れたら開かなかった。
「え??なんで??」
「多分一体も倒してないからじゃない?」
「あっ。」
というわけで、慌てて元来た道を戻って、扉が開くまで雑魚を狩るオレら、ちょっと間抜け。
幸い1エリアにつき1体ずつ倒せ、とかじゃなかったのは幸いだった。
スッポンとでかいモウセンゴケとオオバンという鳥を5体ずつ狩ったら、条件は満たせた。
全体に、なんかどれも匂いが酷かったんだけどなんで?
沼だから泥臭いのは当然?そうかな?そうかも?
なおドロップはそれぞれ亀の血、溶解液、消臭剤、そしてたまに初級ポーション、だった。
オオバン!消臭剤持ってるなら自分に使えよ!お前が一番臭ったぞ!見た目はかわいいのに!
まずは護法を展開して、結界を待機した状態でボス部屋に入場する。
背後でばたんと閉まる扉。終わるまで出られない系のようだね。
まあまあ広い部屋の中央には、どかん、とでっかい亀がいる。
といっても一つ前の世界にいた小島サイズの巨大亀に比べたら、こちらは普通に亀の範疇、だと思う。
「こいつ苦手なのよねえ、階層の割に無駄に硬くて」
「炙ればいいかららくちん♪」
そして亀はリケラの魔法でこんがり焼かれて、秒でバラバラになって消失した。
残されたのは、箱が三つだ。オレ、なんもしてないですけども?
拾って開けたら、初級ポーションだった。ここだと雑魚でも落とす奴。
「……ボスの気概はないのか」
「こいつと次の蛇にはないわね」
「先にばらしておくと、蛇は初級魔力ポーションよ。魔力回復材」
いやまあ確かに10層はオレらには雑魚もいいところだけど……20もなのか……
そして次の、真っ平らな草原エリアも無言でダッシュする姉ちゃんたち、続くオレ。
同じ手順で到達した20層の大蛇は、接敵と同時に姉ちゃんが首を落として終了だ。
毒蛇ばかりいたけど、蛇はまるでオレ達には追い付けないので、多分これが最適解なんだろうなあ。ここも血だの初級魔力ポーションだの落ちる。
「次からは欲しい素材もあるので真面目にちょっとずつ狩りつつ進みます」
「というかこれをやるからあとで巻き狩りが要るんだよねハハハ」
「でもあえてやるんだね」
「普段開いてない分の職員の仕事増やしとかないとねー」
……なんかマッチポンプ的な話に聞こえたけど、聞かなかったことにしよう。
21層からは、見た目は丘陵地帯だ。
一応地理的な連続性は持たせてるんだな、この背景。
山羊とか蛇とか、少し深くなるとライオンとかがうろついているんで、あっという間に姉ちゃんが狩っていく。だいたい一振りで首がスパン!だ。
蛇とライオンが落とすものは薬草各種と蒸留水、山羊だけは角だ。
「……これ、ボスはキマイラだったりする?ライオンが唐突過ぎる」
「いえーす。28以降は蛇がサソリになるよ!」
「そもそもここからは満遍なく階層ごとに数体ずつ狩らないとボスが沸かない仕掛けなのよ」
つまりボスの材料を自分らで調達するエリア?趣味悪いなあ!
あ、サソリが落とすの尻尾なんだ。毒持ちの尾。
とはいえ、ここのボスも姉ちゃんの敵ではない。
開幕直後に全部の首と尾を落とされて地に伏せ、崩れ行くキマイラを見送る係だけやらせてもらった。
うん、オレの姉ちゃん強いな!よきかなよきかな!
なおドロップは万能じゃない万能薬だった。正しくは万能傷薬、だってよ?
オオバンのドロップ、バンソウコウでもよかったかなあ(まて
※作者の推し鳥のひとつなのにあっちでもこっちでも扱いが酷い。




