第3話 エルフ娘と実の姉。
翻訳機能、最初の世界で貰ってないとおかしいのに気付いたので設定の方が変わった(何
エルフ娘のリケラに連れられてやってきたアパートには、見覚えがあった。
実家からそんなに離れていない辺りで、高校の留年前の同級生のひとりが住んでいたところだ。
だが、ざっと見た感じ、横書きの表札はどこも日本語が書かれていない。
というかそもそも文字がこの世界のものじゃない、気がする。
最初の世界で貰った勇者セットの翻訳機能が優秀だから読めるっちゃ読めるんだけども。
「ここは今はアタシらエルフとかのエルディム人ばっかりが住んでるんよ。
迷宮が近いから怖いって元の住民の皆さんは避難しちゃったからさぁ。
あ、ちゃんと合法的に住んでるんよ!迷宮探索と情報の見返りに住所と戸籍貰ったからねー、我々」
慣れた手つきでドアを解錠して手招きするリケラに頷いて、中に入る。
同級生がいた頃に遊びに来たこともあったから、部屋の基本構造は知っていたけども……
うん、だいぶんと様相がおかしいな?なんでドアの中に森があるんだろうな?
「まあご覧のとぉり、今はドアを開けると違う場所に繋がるんだけどねぇ。
これ自体はアタシが魔法で繋いでるだけだから、元の部屋にも戻せなくはないけど!」
「なるほど?きれいな森だけど、君の世界の産物?」
広葉樹主体の森は、恐らく常春、といった風情だ。
オレでも知っている春の花と夏の花、それに冬の入り口にならないと咲かない花が咲き誇り、違う枝には果実が実っている。
これアレじゃない?桃源郷とか喜びの野とかそういう類の半異界!
「この森の元に関してはそう。これは亜空間投影だからホンモノじゃないけどね!
実は五年くらい前にこの世界と我々の世界がごっつんこしちゃってさー、理由は謎だけど!
幸い我々の世界の物質感が薄めだったせいで壊れたりはしなかったんだけど、すっかり綺麗にまざっちゃってさ。
多分その結果なんだろうけど、世界のあっちこっちに迷宮が沸くようになっちゃってねえ」
あっけらかんとした様子で語るリケラの言葉には、オレとしては聞き捨てならない台詞が含まれていた。
世界が混ざった、の方じゃない。そっちも大ごとではあるんだけど!
『五年』?今のオレには大問題だぞ、そこ!
「五年?今、ここの暦だと何年だ?」
「えーっと、統一歴四年だけど旧暦だとエルディム文化歴4987年でこっちだと確か礼和……7年、かなー?」
……九か月じゃなかった。ずれてんの、五年以上だよ!
これ完全にオレ、行方不明扱いになってる奴だ!!!
「お、動揺した。思ったより時間が経ってるって感じだし……もしかして、違うトコ飛ばされてた?」
そして、オレの動揺は完全に見透かされた。流石にしゃーなし、だ。
それどころか、違うところに飛ばされた、まで当ててくるとかどういう……
……恐らくそんな事例が、他にもあったな?
「そう、らしい。半年ちょっとずれたと思ってたら五年越えだったよ……」
「そっかー。でも君のステータス見る限り、もっと長い事、他所にいたよね?
他人に知られたくないなら、ちゃんと隠蔽掛けた方がいいよ?」
うへ、こいつステータスまで見てくるのか。
って、オレのステータスとか称号って隠蔽かけてたはずだよな……?
見られたなら見返すか、と、ここで初めてリケラ自身のステータスに意識を向ける。
……ハハハ、[解き解すもの]だって。
以前の知り合いの大巫女のねーさんに聞いた限りでは、確かこの称号、隠蔽看破に補正が付く奴!
他にもいろいろ付いているけど、魔力称号ってのはないんだな。
それでもオレより魔力が多い。数値化されてるからそこは判る。
「ん?ああ、キミも称号とかステータス、見えるクチかあ。
というかキミ、隠蔽結構しっかりかけてたんだぁ、アタシが見えちゃっただけか!ごめんよー」
「いや、見えたならオレが普通とちょっと違うくらいは気が付くよなあ、納得した」
ある程度オレの称号やスキルが見えていたなら、まあ声くらいは掛けるよな、というのは判る。
直前までいた世界でも、なんかそんなこと、あったし。
でもリケラは、見られたのも判るんだな。勘がいい?違うな、何かスキルか技能に検知系を持ってる気配だな、これ。
「んでまあ単刀直入に言うけど、キミも迷宮探索者、やらない?そのステータス遊ばせとくの、勿体ないし!」
「ブランクが五年もあると判った時点で、それは魅力的な提案だなあ……実際荒事はそれなりに慣れているし。
ただ、一つだけ先に確認したい事があってさ」
リケラの語る言葉をそのまま信用すると、現状の日本は普通の会社員をやるのはちょっとムリゲーになってる可能性が、そこそこ高い。
それに五年も経ってるならオレ自身が行方不明者扱いになってるはずだし、そこから不用意に社会復帰するよりは、まだ異世界生活で慣れてしまったモンスターやらなにやらの対処の方が、堅実な就職先の可能性すらあるわけで。
でも、それでも。
「うん?ここら辺に住んでた人の事なら調べられるよー」
「いや、そこまで近所じゃないんだけどさ、オレ、血縁といえる家族が姉ひとりっきりでさあ。
姉ちゃんは結婚して姓は変わってるし、隣の市に住んでたからどうだろう?」
世界が変わったというのなら、まずは姉の安否自体を確かめたい。
「隣かー。ネットで見ないと判んないかもだねえ。名前は?」
「ネットは健在なんだ……若附 東后っていうんだけど」
オレの安宿って名前もやや難読だが、姉ちゃんの東后ってのも酷い難読だよなあ。
キラキラネームとかじゃなくて歴史的読み仮名って奴だと親は力説してたけど。
っつかこの状況でもインターネット、健在なの?それともなんか魔法ネットワーク?
「んー……?あずみ?アズちん?アズちん、弟いたんだ???」
……え?リケラ、姉ちゃんを知ってる?知ってるどころか、なんか仲が良いっぽい気配がするんだが?
「姉ちゃんの、知り合い??」
「知り合いっつかマブダチ?知り合ったのは仕事でだけど、趣味が合うんだよねえ!
それなら話が早いや、ちょっと連絡入れるわ!」
えぇ……?この声に感じる年齢の割にギャルみの強いエルフのねーちゃんと、あの姉ちゃんが、マブダチ?
リケラが取りだしたのはいかにもな水晶玉だ。
うん、二つ目の世界で作った通信機もこんなんだった。動画もバッチリ送れる奴。
「回線オープン、コール:アズ。あーあー、アズちー、今起きてるー?」
操作の方もほぼ同じ、らしい。所謂音声入力だな。
って今の時間!真夜中!!
『起きてるわよー。明日は休みだから……珍しいわねこんな時間に』
そして水晶玉から聞こえてくる声は。
水晶玉に映し出された黒髪の女は。
「うっわあ……マジでねーちゃんだ……」
『は?????安宿?????安宿がそこにいるの?????』
そしてきっちり水晶玉はオレの声を拾ったようで、姉ちゃんは秒でオレの声を聴き分けた。
「いるよー、さっき拾ったー。明日休みならちょっとうちに来なよー」
『判った、今から行く』
その言葉と共に、通信は途切れる。あっちが切ったらしい。
……無事を確認したかっただけなのに、いきなり会うことになるのか……
何気にリケラ、姉と仲いいわりに弟の話は聞いてない。
おそらく世界融合の対処でどたばたしていて捜索自体が止まっていたせい。




